世界の終わりを中心に叫ぶ Shouting about doomsday.

たひにたひ

プロローグ

世界の終わりに際して何を考えれば良いか、僕にはさっぱり分からなかった。

ただしかし、今、着実に世界は終わりを迎えようとしているし、世界が終わったらこの先の未来は無くなってしまう。いや、結果的に何もかも無くなるのならば過去も未来もこの現在も無くなってしまうのだ。そう彼はいっていたな。


展望台の窓から見える景色はとても現実のものとは思えない有様で、紺碧の大空には大きく亀裂が走り、裂け目に東京の街並みが吸い込まれていく。

人の営みの証が。高層ビルの残骸が。新幹線の車両が。折角埋め立てて作った土地も。全てが飲まれていく。


やがてこの亀裂は世界を覆い尽くすだろう。

そうして世界が終わっていく。


「ねえ、思い出した?あの映画のラストシーン」


そう語りかけてくるのは僕の彼女だ。決して文学的な言い回しではなく、僕の恋人。

映画のラストシーンは確かこうだった。ビルの最上階で二人が愛の告白をして、そのタイミングで主人公の仕掛けた爆弾が、周りのビルを崩していくのだ。それが暗示するものは文明社会の崩壊か、主人公の心模様を現しているのか、少し考える必要があるけれど。


しかし、こんな壮大な世界の終わりを月並みな映画のラストシーンで片付けてしまうなんて癪な話だが、僕はそんな彼女の性格も大好きだった。


彼女が僕の顔を覗く。僕も彼女の顔をじっと見つめる。

「キスしよう」

「いいよ」

「私は君のしてくれた選択、嬉しく思うよ」

世界を終わらせる引き金を引いたのは僕だ。

それについて弁明する気持ちはない。


数々の人々の人生を踏み躙っただろう。僕よりも希望を抱いて人生を歩んでいた人もいただろう。自分でも傲慢な選択をしたと思っている。

いや、やっぱり実感がないのかも知れない。ほんの小さな選択の違いで世界が滅んでしまうなんて、常人には頭で理解ができていても現実にそうなるなんて思わないだろう。


しかし、全てが終わった後、過去も未来も無くなってしまうのなら、どうでも良いことなんじゃないか。

それに僕じゃなくてもいつかはその引き金を引いただろう。神様の気が少しでも違ったら他の誰かが引き金を引いた筈だ。


「まだ少し時間があるけれど、どうする」

「君の事がもっと知りたいな」

もう迷わない。僕は世界を犠牲に君に踏み出したんだから。

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