宣告へのカウントダウン

金森 怜香

第1話 課題のモデル

由利香《ゆりか》は二十歳の動物専門学校生だ。

小さい頃から大の犬好きで、自宅にも雑種の室内犬を飼っている。

母犬はシー・ズーなのだが、父犬不明、柴犬ほどの大きさのオス犬だ。


その愛犬であるカーラはコロンと寝床で寝そべっている。

「ねぇー、動画のモデルしてよー」

カーラは知らん顔で顔を背けた。

「カーラ、聞いてるでしょ? 分かってるんだからね!」

由利香はカーラの鼻を指の腹で撫でた。

クシュン! とカーラはくしゃみした。


そもそもモデルとは……、専門学校の課題で動画撮影のモデルである。

フォトグラフィック実習という、由利香も得意科目で一番好きな授業だ。

ペットサービスの一貫として、撮影した写真を用いたグッズ作りやら動画撮影サービスなどについての授業だ。

普段は学校の実習犬やら、講師の愛犬をモデルにすることが多いが、単位の為に出された課題では、どんなペットでも良く、ペットを飼っている家庭ではペットをモデルにする生徒が多い。


「もう、仕方ない。タダとは言わないよ、おやつ付きでモデルどう?」

カーラはムクリと体を起こす。

目はギラギラ輝き、尻尾はブンブンと激しく動き出す。

カーラはおやつが欲しいだけなのだが、もちろん由利香はおやつだけやるわけにはいかない。


カーラをケージに入れて待たせ、餌皿におやつを入る。

「よし、おいでー!」

由利香はカメラを動画モードにして撮影を始めた。


カーラはケージを開けて、と前足で格子を引っかくと、ケージが開く。

カーラは小走りで餌皿の前に座った。


お手! おかわり!

高速で両方を繰り出し、ワン、ワン、と2度吠える。

「よーし、お食べ」

由利香はカーラが吠えたところまでで動画を切る。

「これで課題はよし、と」

モデルをしたカーラの頭を撫でる。

ペロン、とカーラは由利香の指を舐めた。


「本当に可愛いんだから!」

由利香はカーラの体をギュッと抱き締めた。

カーラは満足そうな顔をしている。

だが、チラッと由利香を見つめる時、少し残念そうだ。

『おやつのおかわりは?』と目で訴えてくる。

犬は本当に表情豊かだな、と由利香は思った。

「夕飯抜きになるよ?」

カーラはシュンとして、トボトボと寝床に歩いていった。

なぜだかカーラの後ろ姿は哀愁漂うのであった……。







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