お前と一緒じゃレアドロップが出ないんだよ運が悪い疫病神! と勇者パーティから追放されたので美少女占い師と一緒にのんびり世界を旅していたら、いつの間にか勇者が追放されてました(笑)
@pepolon
第1話 追放、そして出会い
「ラック、お前もうパーティから外れろ」
「えっ、急にどうしたんだ?」
「おやおや、モンスター好きなラックくんには人間の言葉は難しいか? オマエ、モウ、イラナイ、キエロ、ってことだよ! 」
ラッパのように大きな口を開けながら部屋中に響き渡る笑い声を鳴らしたのは勇者ブレイブ。
今、王都で大躍進をしているギルド『勇者の剣』、凄腕揃いの五名のパーティで組織されている彼等が人々の集まる酒場の一角で視線を独り占めしていた。
そんな突き刺さる視線を一つも他人に渡さないように両手を広げる傲慢さの化身ブレイブ。そんな彼を驚きの表情で見つめていた黒髪の青年ラックはゆっくりと口を開く。
「ちょっと落ち着いてくれ、何か迷惑をかけていたのなら謝るから理由を教えてくれないか?」
「理由なんざ星の数ほどあるな。まあ今まではお前のそこそこ戦闘力に免じて許してやっていたが、流石にもう我慢の限界だ。毎回毎回、お前の陰鬱な顔を見せられる方にもなってくれ」
両手を掲げてため息をつくブレイブ。そんな彼のそばのソファで寝っ転がっていたフードの女性も口に咥えたタバコを外して、煙幕と共に言葉を紡ぐ。
「そーそー、ダンジョン行ってモンスターぶち殺した後、アンタいっつも暗い顔してんじゃん。飯不味くなるんだよねー」
「それは、モンスターだって同じ生き物じゃないか、気持ちがいいものではないだろ?」
「うっざー、それにアタシ見ちゃったんだよね。アンタが傷ついたモンスター逃したところ」
フードの女性は告げ口をするように口角をぐにゃりと上げてブレイブに目配せをするとブレイブは勝ち誇った顔で答える。
「ははーん、こりゃ味方に対する絶大的な裏切りだよなあ? 俺達仲間と敵モンスターどっちが大事だ? ああん?」
「もちろん仲間に決まっている、だからといって戦意のないものを殺す必要はないだろ? 」
「はいはい、お利口ちゃんですねえ。そんなにモンスターが好きなら剣士なんかやめてテイマーにもなればいいじゃないか、それとも牧師様のほうがいいですかねえ。アーメン!! 」
両手を合わせて合掌するブレイブをみて大笑いしながら手を鳴らすフードの女性、その横では魔法使いの少女とパラディンの男性が呆れた様子で眺めていた。そして魔法使いの少女がラックに尋ねる。
「ラック、今の話本当なの? モンスターを逃したって」
「……ああ」
「信じられない! ドロップアイテムが減っちゃったじゃん! ただでさえラックの運が悪いせいでドロップの質が良くないのにさ! さっきも高難易度のB級ダンジョンに行ったのに全然良いのが出なかったんだよ! 」
「……運が悪いのは謝る」
ラックは頭を下げた、剣士としての実力は誰もが認めているものの彼の固有スキル『世界一の不運』がパーティの足を引っ張っていることを彼は後ろめたく思っていた。
魔法使いの少女は先ほどのダンジョンでの戦利品である金色のネックレスをその細い指でクルクルと回し、お餅が焼けるように頬を膨らませた。魔法使いの少女が言いたいことを言ったのを確認した後、パラディンの男性が問いただしてくる。
「それほどまでにモンスターを殺したくないのであるなら、なぜ冒険者としてここにいる? 」
「ダンジョンを攻略するだけならモンスターを殺す必要はない。戦意を喪失させるだけでも十分じゃないか? 」
「非現実的だな。奴らは凶暴なのは知っているだろう。様々な手段でこちらを陥れようとしてくる敵を相手に非暴力でなんとか出来るほど世の中甘くはない。もしかして、中には聞き分けのいい奴がいて話し合いで解決できるかもとか思っているのか?」
パラディンの問いに対してラックは沈黙する。パラディンは眼球が飛び出るのではないかと思うくらい目を開いたと思うと、静かに笑った。
「こいつは気が狂ってるな。自分はこんな頭の中がお花畑なやつとは一緒にやれないぜ」
パラディンの言葉を聞いた勇者ブレイブはラックを見下しながら白い歯を見せつける。
「まあモンスターの件は俺達が代わりに殺せばいいだけだが、お前の不運は邪魔なんだよな。お前が宝箱やタンス、引き出しを漁って何か使えるものが出てきた時はあったか? 一回だけでもいいから教えてくれ?」
「……それはない。しかし、戦闘では確かに貢献しているはずだ」
「ああ、お前は強いぜ。だけどなあ、敵を殺そうとしない戦闘職なんざいらないんだよ」
ブレイブの発言を聞いて言葉に詰まってしまったラック。そしてブレイブは指で机を叩き、リズムよく鳴らしながら追撃する。
「ラック、お前に残された選択肢は二つだ。ギルドを今すぐ辞めるか、それともこの街から出ていってもう二度と俺達の視界に入ってこないか」
「それってどっちも同じような意味じゃ……」
「俺はどちらを選ぶか聞いているんだ。さっさと決めやがれ!!!! 」
☆ ☆ ☆
綺麗に舗装された道を馬車が行き交い、人々が笑顔で買い物をする大通り。この王都キングダムの中ならどこでも見られる光景である。その中を一人気怠そうに歩いていたのはラックであった。彼は最後の二択でもう二度と勇者の前に現れない方を選んだのである。
ラックはふと近くの雑貨屋を眺める、窓ガラス越しには夜空のような藍色の薬草が背伸びをしていて、その横にはポスターが貼ってあった。
『人類のために魔王を倒そう。我々の手で世界に平和を!』、そんなキャッチフレーズと共に剣を掲げる少年が描かれていた。
「ママー、僕大きくなったら勇者になって悪い魔王やモンスターをやっつけるんだ!」
街の子供達は自分達に言い聞かせるように母親に向かって叫ぶ。これもこの王都キングダムであればどこでも見られる光景なのだ。
「魔王討伐ね……」
無邪気に走り回る少年を羨ましそうに眺めながらラックは言葉をこぼす。残念ながら彼はもうこの街にはいられない身、モンスターに手を下さない人間は王都にとって不要なものであった。
ラックはそのまままっすぐに街の出口に辿り着くが、そこには大勢の兵士達が待ち構えていた。銀色の鎧を纏った王都選りすぐりのメンバーである。
「おいおい兵士さん達の豪勢なお出迎えだな、でも残念ながらもう俺はこの街には戻ってこないぜ」
「そんなことはわかっている、お前がしっかり王都を出ていくのをこの目で確認させて頂くだけだ。追放された冒険者というのはヤケを起こして暴れる可能性がある要注意人物なのでな」
「アンタらの情報は恐ろしく早いな、まるでどこからか見ていたみたいだ」
ラックの指摘を受けると兵士は気まずそうに、銀色の兜で目線を隠しながら咳払いをした。
「兵士さん、お見送りに来てくれたついでで悪いがこいつを外してくれ」
ラックは自分の首につけられていた金色の首輪を指差す。その首輪は王都の冒険者としての身分をしめすために全ての冒険者につけることが義務付けられているものだ。金色の首輪は最上級ランクであるS級冒険者を表す装飾品である。
「お前、ここで外せというのか? 首輪は希少な鉱石でできているから他の町で外して売れば多少の金にはなる。それを当面の資金に当てれば……」
「外せないのか? 」
ラックが真顔で兵士を見つめると、兜で目線を隠していた兵士はその圧力を感じ、ゆっくりとラックの首輪を回収した。
「これでお前はもう二度と王都に足を踏み入れることはできない。ここほど暮らしやすい場所はないのに哀れな野郎だ」
「アンタにとってはそうだろうな、俺にはこんな息苦しい場所はゴメンだ」
「けっ、負け犬が」
兵士の罵倒を聞き流しながらラックは王都キングダムを後にする。勇者パーティとして力を発揮できなかったのは多少心残りではあったが、様々なしがらみがなくなった彼の表情は明るかった。
☆ ☆ ☆
そして、しばらくして王都から少し離れた場所にある小さな街の人通りの少ない薄暗い裏路地をラックは一人歩いていた。
王都を出た時はまだ真っ昼間であったが、今はもう太陽が沈み、満月が夜空のステージの中、我が物顔で光り輝く。
「そういやギルドを追放された後、誰も勧誘してくれなかったな。やっぱ不運スキルって嫌われてるのか、まあデメリットしかないしな」
自分が追放された理由を復唱しながら酔っ払いのようにフラフラと力なく歩いているラック、そんな彼の黒髪を点滅して死にかけている小さな街灯がチカチカと照らしていた。そんな時、路地の奥から人の話し声が聞こえてくる。
「ぐへへ、お嬢さん。オレらと一緒に遊ぼうぜえ」
「あの、すみません。今はお仕事中で……」
「うるせえっ、ついてこないとぶん殴るぞ! オレらはあまり気が長い方じゃないんだ! 」
少々一方的で乱暴なナンパの声がする方をラックが見ると二人の巨漢が少女に詰め寄っていた。その少女は椅子に縮こまって座っており、彼女の目の前の机の上には『あなたの運勢占います』という小さな立札が置かれていた。どうやら彼女は占い師であるようだ、とんだ迷惑客をひいてしまったらしい。
「こんなところで女一人で不用心にも程がある……」
ラックはそう呟いた後、その拳を巨漢の一人の腹部にぶち込むと巨漢は弾むゴム毬のように吹き飛び、その姿は見えなくなってしまった。
「ア、アニキッ!? このクソ野郎覚悟しやがあああっ!? 」
ラックはもう一人の巨漢にもパンチを喰らわすと巨漢は坂を転がり続けるボールのように回転し、暗がりの奥へと消えていってしまった。
「しまった、イライラしてたせいでつい強くやりすぎちまった」
ラックは視界から消えていった二人の暴漢の方を向いて舌打ちすると、鈴が鳴るような声が聞こえてきた。
「その、ありがとうございます」
ラックに向かってペコリと頭を下げて感謝する少女。黒いローブの隙間から垂れるその長い金髪は物語の天女が紡ぐ黄金の絹糸のようにしなやかさと力強さを持っていた。
「困っているようだったから助けただけだ。ありがた迷惑ではなかったかな?」
ラックは少女の顔を見る、月の光で淡く輝く青い瞳に雪のように白い肌。暴漢に絡まれ焦った時に出ていた彼女の汗によって顔は光をほんのりと反射する、まるで極上の化粧をしたかのようである。
「いえいえ、ありがた迷惑なんてことはありません。私はティアと言います、実はこう見えても占い師なんです」
「いや、見たままでは? そこに看板が立ってるし」
ティアは黒いローブを身につけており、それが彼女の色白さを強調して美しいのではあるが、それは当然魔術的なイメージを彷彿とさせる姿であった。
「コホン、とりあえず私の占いは結構当たると評判なんです。先程のお礼として一つ無料で占ってあげますよ」
「占いか、別に今はそんな気分じゃないが……」
ラックがそういうと空を飛んでいた小さな虫が街灯にぶつかって彼の頭の上にポトリと落ちてきた。彼はその虫を慣れた手つきで振り払う。
「うむむ、今のを見たところラックさんは最近運が良くないようなオーラを感じます。やはりここは一度見たほうがいいと思います」
「最近ではなくていつもだけどな。それじゃあ、タダというのならちょっと占ってもらおうかな」
ティアは懐からカードを出し机の上に並べる。彼女の傷ひとつない綺麗な手で広げられたカードには光沢があり、街灯の光でキラキラと輝いていた。この占いは最近王都の若者に流行っているタロットという占いである。
そしてラックは裏向きに広げられたカードを一枚めくる。そこには大鎌を持った死神が親友を見つけたように嬉しそうに微笑んでいた。
「だろうな、めくる前からわかってた」
死の象徴、破滅、終焉、恐怖、そんな意味を表す死神のカード。ラックは自分が引くならこのカードだと確信していた、そんな彼の様子を見ながらティアはうんうんと頷いた。
「死神のカード見ても全く動じないということはやっぱり良くないことがあったんですね。でも安心してください死神のカードは終焉を表します、嫌なことはきっと終わりを告げます。そしていいことが起こるようになりますよ」
「いいこととは具体的になにがおこるんだ?」
「えっ? えーと、それはいいことですよ! 」
少し戸惑いいながらも胸を張って堂々と答えるティア。いったいこの根拠のない自信はどこから出てくるのであろうか。
「具体的な内容が言えないなら無理してフォローする必要はないからな? 」
「た、たしかにまだ具体的なことは言えませんけどきっといいことが起こるんですよ。たぶん、必ず、きっと! 」
ティアの必死の表情を見てラックは察した、この少女は自分のことを元気つけたいだけなのだと。まだ未熟とすらいえない占いで奮闘する彼女の姿を見てラックは微笑ましくなった。
「分かった、アドバイスありがとうな。そして今度は俺からも助言だ、王都から家出してきたお嬢様がこんなところにいちゃ危険だぞ、占いは昼間にやって夜は宿でゆっくりしてな」
「えっ、なんで私のことわかったんですか!? どこかでお会いしてましたっけ? 」
隠していたはずの自分の素性を言い当てられてティアは背筋を不自然なくらいピンと伸ばした。
「ティアの手を見れば裕福な家というのは簡単にわかる。肉体労働や家事をあまり知らない手だからな。そして綺麗に磨かれた爪と新品同然のカード、これは占いをするために準備したものでありティアの計画性と几帳面さが表れている。だがそんな計画性の持ち主がこんな危険な裏路地で占いをやっているというのは不自然だ、おそらくティアは最近まで街全体が安全な場所に住んでいたから裏路地が危険だと思わなかった。例えば日夜兵士が巡回している王都キングダムのような場所だな」
「そ、その通りです。でも家出っていうのはどうして? 」
「うーん、そこはまあ適当かな。ありえそうなことを言っただけだ。他にティアがここにいる理由が思いつかなかった」
「ラックさんは私より占いの素質があるんじゃ……」
「それで俺のアドバイスを聞いてくれる気になったかな」
「ええ、これからは気をつけたいと思います。ラックさんは王都以外の街もご存知のようですけど、他の街って危険なところばっかりなんですか? 」
ティアは折りたたみの机と椅子を片付けながら質問をするとラックは少し考えてから言葉を発した。
「まあどこも安全とは言い切れないな。でもこの街はまだいい方だ、普通に治安が悪いだけだし」
「普通に治安が悪いって言葉初めて聞きましたよ。もしかして他の街はもう魔王の手に堕ちちゃっていたりするんですか? 」
「その質問に答える前に確認させてくれ、ティアはこの世界の現状について王都でどんなふうに学んできた? 」
「えーと、魔王軍と人類がお互いにぶつかり合っていて、人類側の本拠地が王都キングダム。優秀な冒険者達が日々魔王軍やモンスターを倒してくれているんです。実は私も冒険者さん達のお役に立とうとしてギルドに行ったことがありました」
そう言ったティアは肩を少し落として顔を俯ける、彼女からはどんよりした残念オーラが漂ってきた。
「それで断られたわけだな」
「はい、私はまだ子供だからって。でも私ももう十五歳です、立派に頑張れます。戦いはできなくても私の占いで各地で困っている人達を元気づけることぐらいできるんです」
「それで家出してきたと、その様子だとそう日数はたってないよな」
「はい、今日のお昼です。ちょうど兵士さん達が一箇所に集まっていたのでこっそり隙をついちゃいました。どうやら要注意人物が現れたということでしたね」
ラックは要注意人物ということばにどこか引っ掛かりを感じたが特に大きな問題でもなさそうなので先に進めることにした。
「ありがとう、これで今の状況は大体飲み込めた。それじゃあ、さっきのティアの質問の回答をしようか」
「他の街の状況についてですね、実際魔王軍はどれだけ人間に被害を与えているのでしょう? 」
拳に力を入れつつ期待を込めた眼差しを向けてくるティアに向かってラックは落ち着いた様子で語りかける。
「ティア、この世界には魔王なんてものは存在しないんだ。王都で語られている魔王の被害を受けている人間は一人もいない」
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