だから僕は、吐息を吸う

本名田中

プロローグ

「んあ……」


 頭が痛い。好き勝手に酒を飲み散らかした昨日のツケが今日めぐりまわってきた。


「いってぇ……さすがにストゼロ6缶は飲みすぎか……うっぷ……」


 唐突な吐き気にすかさず、洗面所へと向かう。道中、床に散らばった空き缶や灰皿なんかを蹴っ飛ばしたが、今は構ってられない。洗面器に顔を近づけ、すぐさま体内から異物を吐き出す。


「おぇぇぇぇぇええええ……おええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええ……う、うっぷっぷっぷ、おろろろろろろろろげろげろげろげぇぇぇ……」


 止まない嘔吐。ギネス記録に認定されるほどの大量のゲロをぶちまける。このまま、将来に対する漠然とした不安も流されないだろうか。……無理だ、ぎっしりと心に沁みついていやがる。


 あらかたのものを口から吐き出したのちに、口を洗うため、蛇口をひねる。……出ない。そういえば一昨日から水道を止められていたんだった。すっかり忘れてしまっていた。来月こそはちゃんと水道代は払おう。


 床に転がっていたペットボトルに入った天然水で口を清める。ちなみに、いつ買ったものなのかは記憶に残っていない。まあ、水なんて腐らないし良いだろう。安易な考えでそのまま飲み干す。


「ぷはー、……あ、そういえば今日、朝から晩まで授業入ってたよな。……今何時だ?」


 携帯を見つけるため、ベッドの枕もとを探す。が、ない。記憶を辿ろうにも昨日はひどく酔っ払っていたため、覚えていない。しらみつぶしに探す他ない。


 家中を隈なく探すが、なかなか見つからず、結局、発見したのは20分後くらいの事だった。何故かベランダに携帯は落ちていた。


 バッテリー残量も残りわずかで冷え切った携帯を手に取り、時刻を確認する。


 13:20。3時間目の授業がもうとっくに始まっている時間だった。


「oh……私としたことが……またやってしまった……まぁ、まだ3回しか休んでないし、何とかなるだろ。……まだ1回も出席していないが」


 終わってしまったことは仕方がない。物事をポジティブに捉え、私は服を脱ぎ、ぶっきらぼうに洗濯籠の中に投げ捨て、浴室に入る。


「頭がガンガンするけど……4限目はさすがに出なきゃいけないし……シャワー浴びよ……」


 が、しかし、蛇口をひねってもシャワーは出てこない。そうだ、水道を止められているんだった。すっかり忘れてたわ。さっきの水道代の誓いは一体何だったんだろうか。


 浴室を出て、下着と服装だけ変え、軽く化粧をし、身支度をする。また運動部のシャワー室を無断で使えばいいだろう。そう心に決め、しっかりとタオル一式をビニール袋に入れ、部屋を後にする。


 私の名は草 瑠奈(くさ るな)。二十歳。好きなものはパチンコと酒とたばことギター。

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