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お父さんが、病院で色んな人に話を聞いてくれていたみたいだけど詳しいことは分からないまま、一週間が経った。僕はその間に、誰が見ても透けているのがわかる状態になってしまった。もう、顔を隠さずに外に出ることは出来ない。幽霊なんて見たことはないけど、鏡に映る僕は幽霊のようだと思った。お母さんは、普段通りに接していてくれたけれど、徐々に透明になっていく僕を見て不安になっているようだった。そんなある日、夜中に声がして目が覚めるとお父さんが帰ってきてたみたいで、お母さんと話をしていた。
「はっきり原因はやからないし、何の病気かもわからないんだ。」
「そんな……大丈夫なの?」
「わからない。でも、考えたくなかったんだが、都市伝説的な病気なんだがある噂を聞いたことがあってな。透過症というらしいのだけど、原因も分からない。原理も分からない。でも、透明になってしまう病気があるって、ムカし大学の友人が言ってたんだ。」
「なら、タケルも……」
二人とも黙り込んでしまった。こそっと覗き込んでみるとお母さんが泣いていた。今で我慢していたのだろう。そんな様子に心が痛くなって涙が零れてきた。布団にくるまっても不安が浮かんでくるだけだ。僕はどうなってしまうのだろう。
朝起きた僕は、元気なふりをした。お母さんを不安にさせないように元気に振る舞うことを決めたんだ。そんな僕を見てお母さんは優しく微笑んでくれる。でも、その日からお父さんの帰ってくる回数が減った。
「お父さん、最近帰ってこないね。」
「そうね。タケルのこともあるから、色々調べてくれてるみたいなの。遠くで働いてる友だちとかにも色々聞いてくれてるみたいでね。」
「そぅか、それなら仕方ないね。」
この時すでに一週間が経っていて、僕の姿は増々透明に近づいていて、うっすらと見える程度になってしまっていた。完全に見えなくなってしまうのも時間の問題だと思った。
そして、僕の身体が透け始めて一ヶ月が経とうとしている頃、お父さんが帰ってきた。
「タケル、起きてるか?」
ちょうど、寝ようとしている時だった。
「おかえり。起きてるけど、どうしたの?」
「タケルの病気について話があるから来てくれるか。」
リビングに行くとお母さんはすでにソファに座っていた。
「タケル、多分だけどな病気がわかったんだ。」
「そうなの?」
「うん。お父さんの友だちで県外の病院に居る人なんだけど、知っている人がいた。透過症っていって透明になってしまう病気なんだ。今の状態を見てたらわかると思うけどな。透明になる原因も治し方もわからない。そして、見えないから病気としても扱われないらしいんだ。」
「じゃあ、僕透明になったらそのまま治らないの?」
お父さん達の会話を聞いてたから知っていた。でも、改めて聞かされるとショックが大きかった。泣きそうになってしまう。
「治るかはわからない。でも、今度その友だちがこっちに戻って来る用事があるらしくてな。その時に詳しく聞くから安心しろ。もし、治し方が見つからなくても絶対に見つけてやるからな。」
僕を優しく抱きしめてくれる。お父さんとは逆側に座っていたお母さんも一緒に抱きしめてくれる。僕はそのまま安心して眠ってしまった。
その二日後、僕はついに透明になった。朝目覚めてお母さんに「おはよう。」と言うとお母さんがこっちを見て、「おはよう。」と返してくれた。でも、すぐに透明になっていることに気づいて泣き出してしまった。僕はまだ気づいていなかったから、その涙を見て理解した。僕はもう透明になってしまったんだと。覚悟していたことだったから仕方ないと思えた。でも、一人洗面台に行って服しか鏡に映っていない様子を見てしまうと涙が溢れてくる。我慢なんて出来なかった。でも、お母さんには見せたくなくて必死で泣き止んで顔を洗った。お母さんの所に戻るとまだ泣いていた。
「大丈夫だよ、お母さん。きっとお父さんが治してくれるから。」
「そうだね。ごめんね。泣いちゃって……」
お母さんの頭を撫でる。僕は絶対に不安な様子を見せないようにしようと決めた。お母さんを不安にさせないためにも、絶対にお母さんの前で弱音は吐かない。
完全に透明になってしまった僕は、服を脱げば外に出られるようになった。不思議と脱いでいても寒いとは感じないし、着ていても暑いと感じない。透明になったおかげなのだろうか。だけど、外に出ても出来ることがあまりないから、お母さんのお手伝いをするようになっていった。最初は僕が透明なのもあり、よくぶつかったりしながらお手伝いをしていたけど、徐々に二人とも距離感がやかってきて、スムーズに出来るようになってきた。基本的に食器洗いや、洗濯物を畳んだりと簡単なことを手伝っていた。そうやって、手伝いを始めてお母さんと話しをするのが、さらに楽しくなった。お父さんもあまり帰ってこなくなったから、お母さんだけが話せる相手だったのもあるだろう。僕が透明なのを気にしないようにさせるためなのか、よく色々な話を聞かせてくれた。買い物中にこんなことがあったとか、タケルが小さい頃はね。なんて色々な話をしてくれた。
一方お父さんは、帰ってくる度にやつれているように見えた。話を聞けるという友だちはまだ来れないようで、お父さん一人で色々な人に聞いて回っているみたいだ。こっそり聞いた話たまけど、色々な人から馬鹿じゃないかとか、そんな病気が現実にあるわけがないだようと言われたりして、精神的にかなり疲れているみたいだ。そんな必死に頑張ってくれているお父さんのためにも、元気にちゃんとお手伝いができるようになろうと思う。
そうして、僕は本当であれば小学校に入学する日を迎えた。お母さんに「ちょっと見てくる。」と伝えて僕は外に出た。人混みは大変だ。人とぶつかるわけにはいかないから、慎重に歩く。家から一番近い小学校に行くと、もう入学式は終わったみたいで、グラウンドにはたくさんの新入生が居る。楽しそうに笑う新入生達。本当ならここで、僕はお母さんとお父さんと笑いあっていたはずだったのに。春の日差しが今の僕には眩しすぎた。暖かい陽気の中、僕は一人家に帰る。通学するはずだった道、友だちと楽しく話しながら帰るはずだったその道を通りながら、いつか僕の病気が治ってこの道を通れることを願った。
「ただいま。」
「おかえりなさい。どうだった?」
まだ服を着ていない僕は見えないから、僕が居そうなところを見て話しているのだろうけど、少し違うところを見ている。
「楽しそうだったよ。僕も治ったら通うよ!」
「そうね。治ったら行きましょうね。よし、それなら勉強をしておきましょうか。」
「うん!したい!」
その日から、平日はお母さんから勉強を教えてもらうようになった。治った時、勉強についていけなかったら嫌だから頑張りたい。
入学式から二週間くらいが経って、お父さんがバタバタと音をたてて帰ってきた。何をそんなに急いでいるのだろう。
「タケル!来週、透過症について知っている先生がこっちに来るって言ってるから、何かわかるかもしれないぞ!」
「本当に!?」
お父さんの友だちという先生がついに来る。治し方はわからなくても、少しは進展するかもしれない。喜びが隠せなかった。治し方はまだわからないと言われている病気だから、期待しては駄目なのはわかっている。でも、それでも喜ばずにはいられなかった。その後は浮き足立ってお手伝いも適当になっていた。それを見て「ちゃんと集中して!」と言っているが、そういうお母さんも嬉しそうだ。
「もう、今日はお手伝いしなくてもいいから散歩でもしておいで。あ、でも車とかには気をつけてね。」
「わかった。行ってきます!」
今日も天気がいい。今日の僕は無敵だ。世界が輝いているような気がする。近くに公園があるのを見つけて入ってみる。そこは人がいるわけではないけど、遊具がなく寂れているわけでもない不思議なところだった。一人で楽しむにしても、ブランコなんて漕いでしまったら、幽霊の出る公園なんて話題になってしまいそうだから、走り回るか草むらで無視を探すくらいしかすることがない。一人で滑り台をずっと滑っていてもつまらないし、暇だなと思っていたら小鳥が近くに来ていた。僕の姿は動物にも見えていないみたいで近づいても小鳥は逃げなかった。地面をつついたり毛ずくろいをしている様子を見ているとすっかり時間が経っていた。家に帰らないと怒られてしまう。夕焼け空を見ながら走って帰った。それ以来、あまりすることのないあの公園に行くことはなくなった。
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