ハッピーエンドを私は願う

髙木 春楡

プロローグ

 私は、いつものように街中を歩いていた。普通に歩いていれば、気をつけなくても人とぶつかってしまうほど人が多いわけではないけれど、よそ見をしてしまえばぶつかってしまうほどに人通りがある。いつも歩いているこの場所はいつも通りだが、少しだけ違和感を覚えた。

 視界の端に捉えた、中学三年生くらいの男の子。彼が周りを一切気にしない様子で、だけど人を避けて歩いているのを見て、私は人にぶつからないように、彼の元へと早足で向かう。その様子に彼は気付いたのか、立ち止まり私の方を見ている。

「あの、こっちではなしませんか。」

 その言葉を言いながら、答えも聞かず彼の手を取り路地裏を通り、近くにあるに人気のない公園へと向かった。

「私はカトウって言うの。新手のナンパとかじゃなくてね……。」

 公園に着くと口早に言い訳のような自己紹介をした。友だちがいたことのない私は、かなりドキドキしていた。でも、何故か言葉が次へと次へと出てくる。それが楽しくて、彼の相槌を聞きながら、延々と話を続けた。

 気付けばあたりは暗くなってきて、そろそろ帰らなければいけないだろうということで、次の日に会う約束をして私達は帰ることにした。

 その日から私と彼は、ほぼ毎日のようにその公園で話すようになった。友だちの居なかった私と彼は、お互いを支えにしていたように思う。少なくとも私はそうだった。

 私達の会話は基本私が彼に質問をしたり、好き勝手に私が話をしていて、彼から能動的に話すことは少なかった。そんな彼がある日珍しく自分から話をふることがあった。

「カトウさんって高校二年生ですよね?」

「そうだよ。どうして?」

「いや、大変だなと思って。」

 彼が悲しそうな、寂しそうな顔をしたのが私はなんとなく嬉しかった。

「そんなことないよ!友だちはいなかったけど、いまは君がいる。君と話せるだけで私は幸せだし、奇跡が起きたようなものなんだから!」

 お世辞抜きにそう思っている。私の初めての友だちで、話せる人で、こんなにも優しい彼に出会えたことは奇跡だと思う。

「ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。」

 彼の笑顔は、本当に輝いて見える。純粋な彼には笑顔が良く似合う。

 そんな彼の笑顔が見たくて、次の日に私はプレゼントを選びに来ていた。友だちが居なかった私はプレゼントをしたことがなく、どんなものをプレゼントすればいいかわからなかった。適当に男物のアクセサリーが置いてありそうな店に入り、似合いそうなものがないか探す。でも、男物のゴツゴツとしたものが多く、優しい顔をしていて可愛らしい彼に似合うものは中々見つからなかった。男性向けの店ではダメなのかなと考えていると、いいものを見つけた。クローバーのモチーフがついたネックレスだ。これなら、純粋な彼にピッタリだと思う。これにしようと決め、それを握りしめ彼の嬉しそうにする顔を想像する。

 次の日、私はウキウキしながらいつもの場所へと向かった。まさかそんな気分がすぐに打ち砕かれるとも思わずに。

「これ、君にプレゼント。似合うと思って!」

「カトウさん、それ……。」

「私が選んだんだよ。受け取って!」

「なんで……」

 なぜ彼が、そんなに動揺しているのかがわからない。

「なんでって、喜ぶと思って。」

「喜ぶわけないだろ!」

 彼が初めて大きな声を出した。そんな彼の走り去る姿を、私は見ていることしか出来なかった。何が悪かったんだろう。

 次は、違うものをプレゼントしてみよう。

 また、次の日いつもの場所に行くと彼が待っていた。

「昨日はごめんね。」

「いえ、僕の方こそすいませんでした。戸惑ってしまって。」

「いいの。今日はね、違うものにしてみたの!」

 今度こそ喜んでくれるだろうか。期待しながら渡そうとすると彼の顔が曇る。

「なんで……」

 昨日と同じ反応だ。なんでって言われても好きだから、よろこんでほしいから以外にはないのに。なんで喜んでくれないの。こんな顔しかしてくれないの。

「すいません。もう関わらないでください。」

 そう言って彼が去ってしまう。もうダメなのかな。でも、せっかくの理解者だから諦めたくない。彼の望むプレゼントを渡そう。そうすればわかってくれるはずだから。だけど、プレゼントを用意しても彼が公園に来ることはなくなってしまった。

 私は必死に探した。彼が居そうな場所を全部まわった。でも、見つかるわけもなくかと言って諦める気になんてならなくて、遠くまで探しに行った。

「やっと見つけた!」

 彼の肩を掴むとなんでここに居るのが信じられないようで、驚いた顔をしていた。私はこんなにも会えて嬉しいというのに。

「なんでカトウさんここが……」

「ずっと探してたんだよ。毎日プレゼントを持ってたのに無駄になっちゃった。」

「まだ、そんなことをしていたんですか。」

 そんなこと?私はこんなに彼のことを想っていたのに、そんなことなんて……

 彼が悲しげな表情を浮かべるの意味がわからない。憐れむような目をするのがわからない。私は……

「君の喜ぶ顔が見たくてしたのに!笑顔が見たくてしたのに!」

「そんなことで喜ぶわけがない!」

 二人しか居ないこの道で彼は怒るように、あの日と同じように大きな声を出す。

「好きになってほしいだけなのに!」

 私の声もつられて大きくなっていく。なんで私の想いは伝わらないの。

「僕が……僕がカトウさんを好きになることはありません……」

 小さな声で、申し訳なさそうに言う。何を言われたのか理解できなかった。それくらいの衝撃だった。なぜここまで伝わらないのか。私はそのまま逃げ出した。必死に走った。何も考えたくない。私はいらない存在なんだ。

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