異世界転移……マジかよ……

@ss9

第1話 HPが0になりました。仲間に教会へつれていってもらい……そんなやつはいねぇ!

バキバキバキバキ!ドオン!ドォン!


「「「ブゴー!」」」


木が折れて倒れる音と振動、殺気のこもった声が俺を襲う。


「ひ……」


思わず無様な声をあげてしまう。と同時に体が震え始め、胸が高鳴る。


ドグン!ドグン!


息苦しくて胸を押さえる。


「落ち着け!」


と、本能が訴えかけてくる。


俺は本能に従い、


「すぅ……はぁ……」


落ち着く為に息を少しずつゆっくり吐き出し、吸い込む。


バキバキバキバキ!ズゥン!


「「「ブゴー!」」」


その間にどんどん音も振動も鳴き声も接近してくる。


「すぅ……ふぅ……」


ドクン……トクン…トクン…


深呼吸を繰り返す事で次第に落ち着きを戻ってくる。頭がクリアになり、自身に迫る脅威を確認するために震えて、今にも座り込んでしまいそうな体にできる限り力を込めて背後を見る。


「「「ブゴー!」」」


バキバキバキバキ!


人間の倍以上の巨大な猪が迫っていた。


しかも……


「「「ブゴー」」」


1頭ではなく10頭くらいの群れが、横一列に並んで俺に突進してくる。


「あっ……」


体が咄嗟に回避行動を取ろうとするが、避けられる様な隙間はなく……


「「「ブゴー」」」


ドカッ


***********


ー10分前ー


「これで終われ!ファイア!」


人の大きさはあろう火の球が魔王である「不死王(ノーライフキング)」に向かって飛んでいき、魔王の残りのHPを全て削る。


「ぐっ!勇しゃ……め」


テレビからゴキブリを見たときの様なゾワっとする不気味な声を発して魔王「不死王(ノーライフキング)」が倒れる。


「……やった……やったぞ!僕たちの勝利だ!」

「ああ!俺たちの勝ちだ!」


俺の操作していた勇者である「ユリウス」とその相棒「クロノス」が抱き合う。


「くそぅ……2次元とはいえイケメン同士が抱き合うと絵になるな……」


俺は画面の中で抱き合う中性的で女子の様な華奢な体格にぱっちり二重の可愛らしい「ユリウス」とワイルドで少しオラオラしたイケメンの「クロノス」に嫉妬の炎を燃やす。


2人は、俺がプレーしている「選ばれし者」という魔王の脅威に晒される世界を救うというゲームの救世主である「勇者」とそれを支える「剣士」だ。


そして、前述した通り、2人の見た目や性格、声の全てが女子のハートを鷲掴みにし、爆発的な人気となり、2人は、ゲームのキャラクターにも関わらず、グッズ、アニメ化、映画化、舞台化に飽き足らず2人をバーチャルで現実世界に生み出し、全国ドームツアーが開催されることも発表されるほどだ。


「くそ羨ましい!」


俺、松本和也(21)、大学生、年齢=ぐふふんは、2人を睨む。


「しかし!ユリウスの声優を務めるのは、我が推し!ツボさん!どこまでも透き通る絹の様な声、40歳とは思えぬ少女のような可愛さ……大好きだ!……クロノスはキャラも声優も嫌いだ」


しかし、そんなことを言いながらもこのゲームの面白さにはどっぷりとハマってしまっている。


そして、ゲームクリアを記念してテレビの画面にはこれまでの冒険を振り返るエンドロールとツボさんが歌う主題歌「果てなき旅路」が流れる。


「ああ……懐かしい。初めの頃は魔猪に殺されまくってたなぁ」


エンドロールを見ながらこれまでの苦労を思い出す。


苦節150時間!憧れの先輩「あゆみ」さんから、「1週間後に旅行から帰ってくるまでに攻略しといて。ゲームクリアすると特典でユリウスたんのグッズが貰えるんだ!そのグッズをもらえるかは君に掛かっている。よろしく頼むよ!」なんてお願いされた。


好きな人のお願いを断るわけにいかん俺は即快諾


友達からの呼び出し、サークルからの連絡も全て無視して、この1週間、徹夜でやり切った。


「ふぁぁ……流石にねみぃ……」


1週間分の疲れが一気に押し寄せてきて、一瞬寝落ちしそうになった。


「こうして世界は救われた」


エンドロールの終わりを告げるセリフが流れる。


「ようやくこれで終わるな」


エンドロールが終わり、セーブ画面に移行しようとしたらその時、「この世界に転移してみたいですか?」という選択肢が現れ、YESか Noで答える様になっていた。


「なんだこれ?まあ良いか。早く眠ろう」


早く眠りたい俺はNoを選択。


すると、


「うお!眩し!」


いきなりテレビから光が溢れた。その眩い光を直視してしまい、目が痛い。


……


チュン…チュン…


(……ん?鳥の声?)


ヒュゥゥゥ……ザァァ……


(それに風?木の枝が揺れる音……か?)


「はは……まさか……」


ヒュゥゥゥ……ザアア……


そんな俺の頬を風が撫でていく。


(……いやいや。俺は自分家にいたんだぞ。建物の中に。窓も閉め切っていたから風が入ってくるなんてことないし……そんなことあるわけ……)


俺は、ゆっくりと目を開ける。


「……マジ?」


曇りガラスから外の景色を見るときのように視界がぼやけていてはっきりと見えるわけじゃないが、色で自分家じゃないことはわかった。


「やっぱり森だよな……どうなってんだ?」


俺はさっきまでアパートにいたのは間違いない。なのに、目を開けたら緑緑緑、時々茶色、見上げれば水色に少しばかりの白、世界を照らす光……


「おお……落ち着け!まずは目を慣らして視界をクリアにしよう」


その場に座り込み、しばらく目を瞑る。


お尻に伝わる「ジャリ」っとした感触……


(ケツ痛てぇ!ああ。アパートのフローリングが恋しい……無事に帰れたらキスして抱きしめよう。頬擦りをするのもいいな……はぁ。そんなバカなこと考えている場合じゃないな……視界が戻るまでの間に状況の整理だけはしなくちゃ……)


そのとき


「グアぁ……グア!」


上空の方から聞いたこともないような鳴き声がした。


(うわぁ……マジかぁ。怖えぇ)


「見えない」というだけでとてつもなく怖く、ビビっている俺にその鳴き声がさらに追い打ちをかける。


「ビビってねえし!怖くなんかねぇからな!……あっ……」


なんか股間の辺りが暖かくなってきた…なんだか、安心するなぁ…じゃねえよ!良い歳した大学生の股間に洪水警報が発令されちゃったよ!


「はぁ……しょうがない。とりあえずは状況整理」


(さっきまでアパートの部屋でゲームをしていた俺は、ゲームのストーリークリア後のエンドロールを見終わった後に確か「この世界に転移してみたいですか?」という選択肢が現れてNoを選択したら画面が光って気がつくと森の中にいた。うん。信じられない。が、現在の状況を鑑みるにまず間違いなく)


「異世界転移ってやつか……マジか……」


俺は、立ち上がり目を開ける。


「おーう……見覚えありまくりの森じゃねえか」


クリアになった視界で改めて森を見渡す。


(森の半分から西は緑豊かで太陽の光がさしこむ優しげな森。その反対の森の半分から東は常に雲が光を遮り、葉っぱ1つない枯れた森が広がる)


その光景を見た俺はストンと現実を受け入れられた。


「間違いないな。ここはゲーム「選ばれし者」の世界にある人族領と魔族領の真ん中にある「聖魔の森」……あいつらのいるところかぁ……」


俺は肩を落とす。


「ユリウスの初めての依頼が魔猪狩りでよく殺されまくったな……早く移動しないと確実に襲われるな……」


俺は、魔猪の縄張りである魔族側の森から移動しようと足を動かした瞬間に……


バキバキバキバキ……ズズゥン……


「「「ブゴー!」」」


死が迫ってきた。


************


ー現在ー


(ああ……車に撥ねられて人が宙を舞うことがあるって聞いて嘘だろって思っていたけど。本当だ。案外人って簡単に飛ばされるんだな……)


不思議と体に痛みはなく血も流れていない。しかしその代わりに、生命力というのだろうか?体から光となって何かが抜けていく。太陽の光の加減のせいか?とも思ったが違う。


ドタッと地面に仰向けで着地。


(体が動かない……このまま死ぬのか)


脳内にアナウンスが流れる。


「HPが0になりました。蘇生する場合は教会へ仲間に運んでもらいましょう」


俺の体の周りに棺が現れ、収納。


(ああ!そうだった!このゲームってHPが0になったキャラは棺桶に収納されるんだった!)


俺は体を必死で動かそうとするが、ぴくりとも動かない。


(仲間に運んでもらいましょう……じゃねえ!)


脳内に流れた女性の声を真似して、自分で突っ込む。


(その仲間がいねえんだよ!……あれ?それに「聖魔の森」って危険すぎてよっぽどのことがない限り人なんて来ない場所じゃなかったか……)


脳内に「カンカンカン」とゴングがなる。


(おわた……完全に詰んだ……普通、異世界転移って転移してきたやつが活躍するんじゃなかったっけ……異世界転移……マジか)

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