後編 エンドオブワールド

「長かったね、飲み過ぎた?」

 イケメンたんぽぽ仮面がトイレから帰ってきた俺に話しかけてきた。



「そうみたいっす。気を付けまーす」

 俺は適当に返事を返すと、最後の一個である唐揚げをほおばった。



 黙々と俺は、もぐもぐと唐揚げを咀嚼する。その隙にたんぽぽ仮面の顔を伺った。手品の下りから、明らかに落ち着かない態度だ。事実、イケメンである表情がたまに不細工に見えるような困り顔をするのだ。



 唐揚げを食べ終わると、隣にあるポテトフライに俺は箸を伸ばした。ちなみに、ポテトフライは細長い奴よりくし切りにされているこのポテトの方が好きなのでとても楽しみだった。とまあポテトは置いといて、ギロリとオシャレな女の子、猫の尻尾ふりふりに視線を移した。やはりたんぽぽ仮面と同じく様子がおかしい。事実、目が不自然に泳いでいるのだ。決して自分と目を合わしてくれないわけではないのだ。



 三つ目のポテトを頬張りながら、俺はイケメンたんぽぽ仮面に話し掛けられても無視しながら三人目の悪の炎を抱いて眠れさんであるヒョロガリさんを見た。やはり・・ん?違いがない?彼は痩せているのが原因なのか出会いの最初から時折身を震わせていた。生まれたての小鹿か。



「生まれたての小鹿かよ!」

「え?」

 俺は悪の炎さんに向けてつい言ってしまった。



「いやあ・・、エアコンの温度上げるね。ごめんね」

「なんで謝ってるのか分かんないけど、温度上げてくれてありがとう」

 そして、俺たちはふとおかしくなり、笑いあった。なんだ、やっぱり俺の勘違いじゃないか。みんなまともだよねきっと。俺は使同じまともな人間なんだ。



「そういえばソシャゲのイベントボス。もうやった?」

 たんぽぽ仮面がしつこく俺に話しかけてくるので根負けして返事を返した。

「まだ倒してないっすよ。火力が足りないんすよねー」



「イベント限定のキャラ、ガチャでまだ出てないのよね。今月厳しいのに渋すぎで泣いちゃうわ」

 ふりふりさんが頭が痛いポーズをしながら言った。



「わかります。無料のガチャ石貯めてるのも結構使っちゃったんですが欲しいキャラなのでまた回そうか考え中です」

 体の震えが止まった悪の炎さんもソシャゲ談議に花を添える。



「わかりますよ、悪の炎を抱いて眠れさん。あのキャラかっこいいですよね」

 俺は同意して声を発すると、その俺の声より2倍の音でたんぽぽ仮面が反応した。



「確かに!あの火を自在に扱う魔法使いかっこいいもんね!」



「え・・あ・・うん。かっこ・・いいよね・・」

 俺に向けて鼻息荒く言うたんぽぽ仮面に押されて、力なく返事した。



「駄目だよたんぽぽ仮面。わざとらしいわよ」

「そうですよ、もっと自然に行かないと」

 ひそひそ話で悪の炎さんとふりふりさんが小さい声で言う。いや、思いっきり目の前でヒソヒソやられても聞こえてますからね。お前ら。



「いやあ・・またトイレに行こうかなっと」

 俺は立ち上がると隣にいた悪の炎さんに腕をつかまれる。



「トイレに行くなら、上着とカバン、必要ないですよね・・」

 満面の笑みで言う悪の炎さんが怖くなり、俺は座りなおす。

「やっぱり気のせいだったわ。トイレはまた5分後にでも行こうかなあ」

 


 俺は渋々居酒屋の個室にとどまると、残っていた最後の一個のポテトフライを口に入れた。嚙み砕いた後、ゴクンと飲み込んだ音も妙に耳に残った。



「それでさ。話は戻るんだけど、ソシャゲのメインキャラってやっぱり物理がいいのかな?」

 ふりふりさんが話題を続ける。



「いやあ、今の環境では魔法がいいと思いますよ。皆さんはメインキャラは何にしてましたっけ?」

 悪の炎さんが質問をみんなに振る。



「僕は今メインは魔法だね」

 イケメンは即答えた。



「私も一応魔法使いにしてる」

 ふりふりさんが言葉を繋げる。



「同じく魔法使いを使っています」

 悪の炎さんが言い終わると、最後に残った俺に視線を送った。



「・・俺も、メインキャラ魔法使いにしてますよ」

 俺は恐る恐る答えた。



「ですよね・・みんな魔法使いだ」

 イケメンたんぽぽ仮面はその言葉が合図の様に、その手にライターも無いのに火を浮かび上がらせた。



そして、オシャレな女の子の猫の尻尾ふりふりさんも、ヒョロガリの悪の炎を抱いて眠れさんも、その手には火を浮かび上がらせていた。



「さーて、そろそろ帰りますかー。みなさんおつかれさまー!」

 俺は立ち上がったが、素早く扉に通せんぼするようにイケメンたんぽぽ仮面さんが立つ。



「マドロメちゃん一号さん。いえ、マドローメ大魔法使いさん!」

「だれですかーそれー。私はマドロメちゃん一号の地球人ですが」



「いえ、あなたは異世界出身の大魔法使い。自分で異世界転移してこの地球にやってきた」

 ふりふりさんが真面目な顔で言う。



「まさか猫の尻尾ふりふりさんがそんな妄想話を言うなんて幻滅ですよ。さあ、家に帰りましょうみなさん!」

 俺は両手を一杯広げて訴えた。



「そうですね。一緒に帰りましょうマドローメ大魔法使い。僕達三人も同じ異世界出身なんです」

 悪の炎さんの言葉に俺は吹っ切れる。



「俺は絶対帰らないぞ!向こうの世界は退屈でジメジメした洞窟でロウソクの火に囲まれた暗い日々に戻るのは嫌だー!ソシャゲーでガチャ回すんだー!」



「さあ、戻りましょう。勇者様も待っています」

 満面の笑みを浮かべながら、いけめんたんぽぽ仮面さんは指パッチンすると個室のテーブルの上、つまり空中に魔方陣が浮かび上がった。



「いやだいやだ!もっとソシャゲやるんだい!」



「さあ、観念しましょう!一緒に魔王軍を倒すんです!」

「往生際が悪いわね!この大魔法使いは!」



 両手を抱えられながら、俺たち四人は魔方陣に吸い込まれていった。



 テーブルのはしっこには、ちゃんと代金が置かれていたのが、俺の最後の地球に対する礼儀だった。


 そして、俺のオフ会は終わった。

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魔法使い、オフ会に行く。 一都 @umisora100

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