精霊戦線 〜災厄の孤児、覚醒する〜
神坂蒼逐
プロロローグ
序章 〜人類史上災厄な子〜
暗い暗い夜空の下。月の光さえも刺さない不毛の地。
そんな場所に私は一人佇む。
「どうして、私は何も悪くないはずでしょう……?」
王宮では見せたことのない瞳から溢れる雫を不恰好にポタポタ、と落とす。
ここでどれだけ泣いていたって父や兄が照れて帰ろう、と手を差し伸べてくれるはずなどないのに。姉などその権化であるのに。
それでも、それでも泣き止むことはできなかった。
悲しさなんかじゃない。
親元を離れる寂しさでもない。
ただ親に捨てられるまでに弱い自分の惨めさがイヤなのだ。
この大陸の半分を統治している大国、アテラス魔導国。そこの王であるアテラス家。
ジル・A・アテラス。人類史上類を見ない才能を持って生まれた最高の君主。
リガル・A・アテラス。ジルの息子で私の兄。数十年、否。数百年きってのイケメンということで縁談話が絶えない真面目な人。
そして私にとって忌まわしき人間でしかない、私の姉。
ヴィクトル・A・アテラス。兄と似たような人間だが兄と違い遊び癖がある。そして何より、目障りなものは徹底的に排除するのが姉の理念だった。
それに当てはまったのが、今回の私だったという訳なのだが。
そして、レイン・A・アテラス。私だ。
人類史上最弱、王族の醜態・恥晒し等々。私を表す批評の言葉は数知れず。
それほどこの国で必要とされていない存在だった。
だが幸か不幸か自分でいうのもなんだが可愛かった。
人によっては姉よりも私の方が可愛い、というものも少なからずいた。支持をしようという雰囲気は一度たりとも上がったことはないが。
結局誰にも愛されることなく幼少期を過ごし、貴族の学校へ通う年になった今日この頃。
父が珍しくそのお祝いをすると言い出した。
今までそんなことする、だなんて言われたことはなかった私。テンションは有頂天に上がりつめ意気揚々と促されるまま馬車に乗った。
その時家族とは違う馬車に乗せられたがその時は全く気にしていなかった。
今思えば叱られてもいいから家族の乗る馬車に乗り移っておけばよかったのかもしれない。そう思う。
ガタンガタン、と山道を登っているのか部屋は揺れていた。
つい気になり扉にもたれ掛かり窓に映る景色を見ようとした、
その時。
勢いよく扉がはずれ、馬車から身を投げ出されてしまう。
そんなことをお構いなしに走り去っていく乗っていた馬車。
その後ろを走る父達は私を見つける。
乗せてくれるだろう。出なくても止まってくれるだろう。
そんな淡い期待を持ったまま私は彼らの方を向く。
見向きもしない。見かけたのか嘲笑の表情。満面の笑みを浮かている。
父、兄、姉の表情や行動。それを見て私は幼い頭ながら悟った。
—私は、この人たちにとっていらない存在だったんだ。—
—王族にとって私、という存在はただただ目障りでしかなかった。だから、捨てられたんだ……。—
そう思うと、己の惨めさに涙が出てきた。
今までどれだけ痛いことをされようとも。
辛い言葉を耳にタコができるほど言われても。
国民に罵詈雑言を浴びせられても。
それでも笑顔を途切れさせないようにした。その裏に隠し、溜めてきた涙は。それは止まることを知らず瞳を濡らしていく。
そんな最中、ぽん、と肩を叩かれる。
「よう、お嬢ちゃん。ちょっといいか?」
「……何です。私に何かようで?」
「お前孤児だよな?こんなところに孤児以外にここを彷徨いているわけがねぇ。間違っているか?」
無論図星だ。否定のしようもない。
「それが何か?」
「つ、ま、り。俺たちがどれだけ好きに扱おうとも何も言われない、ってわけだ」
「一体何をしよう、と……」
まさか、この男は私を奴隷商へ売り飛ばす気か!?
「え、やめてください!私を売るつもりですよね!?」
「お、勘がいいな嬢ちゃん。つまるところそういうことだ。抵抗は無駄だ。大人しくついてきてくれるか?」
「そんなのイヤです!私は、私は……」
私は。私とは、何だ?
誰からも必要とされず捨てられた存在。そんな私にもはや生きる意味なんてあるのか?
「……回答が遅ぇよ。拒否権は与えない。ついてこい」
強い力で私の腕を無理やり引っ張る。ズキッとした痛みが腕を駆けるがそんなことはもうどうだってよかった。
どうせ彼らは私が売られても悲しみやしない。
それなら、まだ私を必要としてくれる人へ——。
「嫌な現場を見かけてしまったなぁ……。あんた、その子に何をしようとしてたんだい?誘拐?それとも——」
突然現れた男は、音もなく私を連れ去ろうとする男に近づく。
「うるせぇな。少なくともあんたには関係ない話だろうが」
「そうだねぇ……。俺が、ごく普通の一般人であればの話だけどね?」
「は?どういう」
「ルミナス皇国特殊犯罪課統括長、アルゴス・C・ルミナス。主に人身売買に関しての取り締まりをしているんだぁ」
突然現れた人、もといアルゴス様はすぐに男を拘束してくれた。
応援がきて、身柄を預けてから、私の元へ歩いてきた。
「君は……どこかで見たことあるけどぉ、誰だっけ?」
「……名前、ですか?」
「うんうん。できれば教えてくれないかなぁ?」
「……嫌です。孤児に名前なんてないですし、私の忌み名は捨てたいですから」
どうしてだろうか。この人には口を開いてしまう。
……母と似ているからだろうか。
「ふぅん……。まぁいいよ。それでさ、これが本題なんだけど、」
アルゴス様は一拍置いて、なんでもないように、
「俺の義妹になるつもりはない?」
そう言ってきた。
「え?」
少しの間、二人の間には沈黙が流れた。
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