1-1 視線
「大丈夫、私に任せて」
喪服姿の静香はわざとらしく胸を叩いた。
少将である父、
「ありがとうございます」
大学3年生の
「行こう」
二人は萌絵の住むマンションに向かった。
喫茶店で聞いた萌絵の話はこうだ。
1週間前___
〇
「お、これじゃね? 本当にあったわ、やばー」
「ツイッターの写真より、なんか雰囲気ないね」
萌絵と同じサークルの
要するに、暇な大学生の肝試しだ。噂の通り進むと、確かに獣道があった。聡が先頭になり、ズンズンと進んでいく。風は木々を揺らし、騒めいている。
「ねえ、やっぱり辞めようよ」
萌絵は最後尾でついていきながら、声をかけた。人一人分程度しか道がないため、3人は一列になって進んでいた。
「え、萌絵怖いの無理だっけ?」
葵が振り向き、歩きながらおちょくるように返事をする。
「せっかくここまで来たんだから、せめて防空壕があるかどうかだけでも見に行こうぜ」
「そうだよ、お供え物も買っちゃったし」
「コンビニの大福だけどな」
ははは、と二人は笑った。
「痛っ」
「葵?」
「どうした?」
葵は足を抑えしゃがんだ。聡が懐中電灯で葵の足を照らすと、ショートパンツから露出した健康的な太ももに切り傷が出来て、出血していた。
「草で切っちゃったみたい」
「血ぃ出てんじゃん、平気か?」
「私絆創膏持ってるよ」
萌絵はいいながらカバンから絆創膏を取り出した。
大き目の物をもってきていてよかった。
張り付けると、絆創膏は血が滲み赤くなった。
「萌絵ありがとう」
「ううん、気にしないで。さ、怪我しちゃったし、帰ろう」
「え、なんでよ、全然大丈夫だよ!」
葵は立ち上がってその場で跳ねてみせた。
「そうだな、葵がいいなら行くか」
聡はまた懐中電灯を獣道に向けた。
「……え?」
「な、なに!」
「うわ、ちょっと萌絵大きい声ださないで」
「だって聡君が」
「待って、二人にはアレ、見えてないの?」
聡は懐中電灯を揺らして何かを照らしている。が、萌絵と葵には何も見えなかった。
女性二人はしゃがみこんで抱き合った。
「なになになになに、聡そういうの本当いらないんだけど」
「聡君最低」
「あ、いや、本当なんだって。あれ、消えた……? 見間違いか」
「何がみえたの?」
「いや……なんでもないよ。行こうぜ」
「行くの?!」
萌絵は助けを求めるように葵を見る。が、葵は立ち上がってお尻を叩いた。
「お供え物だけして帰ろ、なんか途中で引き返すのも嫌だし」
そういって二人は進んでしまう。萌絵は足が竦んで、その場にとどまっていたが、二人が遠のくのをみて、慌てて追いかけた。
「待ってよー」
「あれ、ごめんついてきてると思ってた」
「憑いてきてるよ」「おいてかないでよ」
「嫌!」
葵が悲鳴を上げ、聡にしがみついた。
「何! もう辞めてよ!」
萌絵はその悲鳴に驚き声を上げた。
「ち、違くて。今聡なにも言ってないよね?」
「うん。てか俺も聞こえたかも」
「何が?」
「萌絵の声と重なって、憑いてきてるよって変な低い声が」
「……もう帰る」
萌絵はしゃがみ込んで泣き出してしまった。
「ごめん、帰ろっか」
葵がしゃがみこんだ萌絵に目線を合わせて、背中を撫で聡に言った。
「あ。あった」
いつの間にか林を抜け、先頭の聡は広い空間に出ていた。
「ほら、あったよ。マジだ、防空壕じゃん、なんでこんなところに」
「本当だ。結構雰囲気あるね……お供えしてくる?」
「うん、流石に行くっしょここまで来たら」
「……私は行かないから。ここで待ってる」
「オッケー、すぐ戻る。行こう葵」
「うん!」
葵は聡の手を掴みつないだ。もう片方の手に大福を取り出して持って行った。
萌絵は林に取り残され、小さくなっていく二人を見ると、心細くて仕方なくなった。
「ねえ待って、やっぱり私も行く」
立ち上がり懐中電灯を向けると、二人がいない。
「葵? 聡君?」
ゆっくりと足元を照らしながら進む。枝が踏まれ折れる音にさえ恐怖しながら防空壕の前につくと、中から風の音が
足元を照らすと、靴にムカデが這っていた。
「ひっ」
足を上げるとムカデはうねりながらどこかへ消えていく。萌絵はもう限界だった。
「ねえー! 二人ともー!」
防空壕の中を萌絵が懐中電灯で照らすと___必死な形相をした生首が暗闇から二つ飛び出してきた。
「いやああああああ」
そう思い叫んだが、それは葵をおんぶする聡達が照らされているだけだった。
「やべー! やべーって! 走るぞ!」
聡はそう叫びながら防空壕から出てきて走っていく。
「待って、おいてかないで!」
萌絵は必死に聡に追いつくように走った。葵の足からは、草の切り傷からとは思えないほどの出血が絆創膏から溢れ、太ももに滴っていた。
〇
それ以来、萌絵の家でポルターガイストや金縛りが起きるようになった、という話だ。よくある肝試しで罰があたったパターンだろう。家に実際に霊がついてきてるかも怪しい。萌絵の恐怖からそう思い込んでいるだけかもしれないからだ。
実際、萌絵から嫌な霊の波動は感じられなかった。
「あそこがうちの家です」
萌絵が指さした方をみる。するとベランダからこちらをじっと見ている女がいた。
「右から2番目の、ベランダで女の人が立ってる部屋?」
「いや一番右の部屋です。そ、それに女の人なんて隣のベランダに立ってないです」
萌絵は静香の腕にしがみついた。
あー、あれ霊か。
静香はそう思い、頭をかいた。
「ごーめん、無駄に怖がらせちゃったね。いこ、たぶんだけど隣の部屋の影響だよ。肝試しは関係ないと思う」
「うう、お願いします」
萌絵は怖がりっぱなしで、静香の腕にしがみついたまま向かった。
家の扉の前に立つと、静香は少し違和感を覚えた。
「あれ」
「っひ、なんですかあぁ」
「いや、気配が……まあいいや、入ればわかる」
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