第90話 伝説の貝と忍者の里


クトパスさんは、クラーケンの中でも体が大きく、触手を広げた状態だと、全長150メートルほどになる。歳も僕より上で、これまで一万年ほど生きているらしい。その化け物タコは、海底に潜む貝をこともなげに平らげる。僕は穿孔貝だからの触手が届かず、今まで無事だった。もう僕を食べる気はないらしいけれど、これまでに長寿の貝という貝は、そのクトパスさんをはじめとするクラーケン達に食べられてしまっている。


だけど、その化けタコ、僕以外にも食べることができない貝がいるらしい。クトパスさんから直接聞いた話だから、それは本当だと思う。


それは深海……僕がいる所より、もっともっと深い水深一万メートルほどの深場、そこには超巨大貝がいる。その超巨大貝は、どうも数万年前から生きている怪物で、海洋の覇者クラーケンであるクトパスさんが襲い掛かっても、まったく歯が立たないらしい。


彼女、何度も何度もその貝を食べようと挑んだけど、だめだったとか。


やっと触手で掴んだと思ったけれど、貝の殻が固くて囓っても全然砕けなかったし、吸盤で貝を開こうと思ったけど、貝柱の力が強すぎて開かなかったんだって。


クトパスさんが言うには、むかついたので、一度仲間のクラーケン達と一緒に、合同で襲った時があって……その時は散々だったんだって。


え? どういう風にやられたのかだって?


確かね、クラーケンの半数くらいは、毒の銛をめちゃくちゃに撃ち込まれて死んでしまったんだって。勇敢にもクトパスさんと他数匹が相手の貝殻に取り付いたけど、今度は気付いたら体の半分がその貝に囓られて無くなっていたんだって。


どうもクトパスさんは、体の半分が囓られるまで、気持ち良く眠っていたらしい。その貝は、クトパスさんを何らかの方法で眠らせて、体を美味しそうに囓っていたんだって。その時は命からががら逃げたらしいけど、後から分かったことは、クトパスさんが囓られていたその時は、すでに仲間のクラーケンの数体は食べ終えた後だったんだって。


食べるつもりが、逆に食べられていたなんて笑えない。でも、タコを捕食する貝なんてすごいなぁ。同じ貝として尊敬するよ。


いやぁ~世界は広い。


まさか僕より長寿な貝がいるなんて。しかも、あのクラーケン軍団をもってしても、文字通り歯がたたないなんてね。そもそも、ただえさえ化け物なのに、多くのクラーケンを平らげたその貝は、一体、どんな化け物に育っていることだろう。


そうそう、その化け貝は、僕みたいに動けない穿孔貝ではなくて、二枚貝のようだ。舌を出したり、貝殻を動かしたりして、普通に移動することが出来る。


僕がそのことを巫女に伝えると、巫女は少し青い顔をして、『分かりました』と言った。



◇◇◇


とあるのどかな農村で、男女二人が縁側に座ってお茶を啜る。


その片方のおっさんが、「ゴンベエ。お前が会ったというおっさんな、本物かもしれないぜ」と言った。


もう片方のゴンベエと呼ばれた黒髪おかっぱの女性が、「本物? どういう意味よ」と言った。彼女は、おっぱいがまるでロケットのような形をしており、体付きが色っぽい。


「カモメ様がおっしゃるには、深海には、別の化け貝がいるらしい。自分より長寿で、強いかもしれない化け貝だ。そのおっさんは、そいつと関係している可能性がある」と、おっさん。


「関係って言ってもさ、氷漬けにされて首を切り落とされて、死んだと思ったんだけど、こうひゅ~と首がひとりでに飛んで、一瞬で元通りになるのよ? 普通じゃないよ。『契約者』で、超回復や不死身系の能力を借りているのだとしても、ちょっと超人過ぎじゃないかな」と、ゴンベエ。


「それは分からんな。普通の契約者ではないのか、その化け貝がとんでもない超怪物なのか」と、おっさん。


「普通ではない……何でそんな超強いやつが、いきなりこの世をうろついてんのよ。段階ってもんがあるでしょ」と、ゴンベエが言った。


「それも知らん。でもよ、良かったじゃねぇか。そいつ、俺達と関係持ちたいんだろ? しかも褒美はお前でいいって言ってんだから。信じられん」と、おっさん。


「馬鹿。私はねぇ。本当は白馬に乗った王子様が迎えに来てくれると思っていた。エアスランの神獣種、雷獣の化身が超美男子になって私の前に現われて、そして甘い言葉を掛けてくれて、そこにちょっと待ったぁって、風竜の化身のワイルドボーイが待ったを掛けるような感じかな」と、ゴンベエが遠い目をして言った。


「おいおい、我が家の神様は、カモメ様だぜ?」と、おっさんが言った。


「だって、貝って地味なんだもん。私は雷獣とか風竜とか格好いいのがよかった……」


「お前なぁ。カモメ様は心がお広いからいいけど、あまりそんなこと言うなよ。結構聞いていらしゃるんだぞ? 大体、お前、自分の歳を考えろ。」と、おっさんが言った。


「うっさい。私はカモメ様と仲が良いのよ。里に帰ると、しょっちゅうおっぱい揉まれるし。というか何よ中ニ病って」と、ゴンベエ。


「ああ、。普通は15,6歳の想像力豊かなお年頃が煩う病気だ」と、おっさん。


「そんなのどうでもいい。で、おさ、私は仕事をきっちりこなして来たけど、そっちはどうなの?」と、ゴンベエ。


「話を変えるな。だが、こちらはまだだ。カモメ様の千里眼をもって張り付いていても、まだ理由が分からん。。軍師殿が転生者であることが関係していると踏んではいるんだが、彼のスキル『暗号』による情報統制は完璧だ」


「そう。急いでよ。早くしないとエアスランがぐちゃぐちゃになっちゃう」


「それなんだがなぁ、それは、エアスラン軍がウルカーン軍に劣るという前提に立ってるだろ? それが意外と強いかもしれん。我が軍は。うちらに悪鬼生成が無くなった今、ヤバイのはウルカーンかもしれないぜ? その千尋藻というおっさんがウルカーンに味方でもしない限り、エアスランに負けは無いだろう」


「え~でも、ティラネディーアとノートゥンがウルカーンに付くんでしょ? やばいじゃん」


「お前がクメールを排除してくれたお陰なのか、その二カ国は今回の戦争に英雄級や『契約者』を出していない。ノートゥンが聖女を出すかもしれんが、そんなもん怪我人の治りが早いだけだ。ウルカーンの英雄チータラだけでは、守りはいいが、攻めるのは難しいだろう。守ってばかりなら、いずれ息切れするのはウルカーンだぜ? 。こちらはララヘイムの穀倉地帯のお陰で、飢えることはないし」


「あっそ。じゃあさ、私、本当にお嫁に行っていいんだね」と、ゴンベエ。


「お嫁というか、千尋藻という男が褒美にお前を選んだら、俺がそれに応じるということだろ? 戦力的に落ちてしまうが、約束したものは仕方がねぇじゃねぇか」


「でも、絶対にセック○されると思うんだ。だから、お嫁に行くのと変わらないと思う。もうしちゃってるし。濃厚なヤツ」


「すれば良いだろ。お前、ノリノリでセック○講習受けたはいいけど、使い道が無くて困ってるって噂になってるぜ?」


「はい。私の男性遍歴、セック○講習のおっさんとそのおっさんだけです。でもさ、もう少し夢を見させてくれぇ~」


そう言って、ゴンベエは天を仰ぐ。その顔は、言っている言葉とは裏腹に、どこか嬉しそうな表情であった。


「じゃあ、もう少しこちらで仕事したら、海路でウルカーンの港街スイネルに向かうぞ」と、おっさんが言った。港街スイネルとは、ウルカーンの東方にある港街で、海路でララヘイムと繋がっている。


ゴンベエは、「分かった。とりあえず、今から久々にカモメ様にお参りしてこようかな」と言って、縁側を立ち上がった。


彼女の、まるでロケットの様な乳房が、ぶるんと揺れる。

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