第19話 トマト家のアリシアさん


トマト男爵が「お前もだ、アリシア。お前も入れ」と言った。声に少し怒気が含まれている気がする。


アリシアと呼ばれた女性は、「は、はい」と言って、一緒に部屋に入ってくる。


すると、直ぐに、トマト男爵が「おい、お前は何をやっている?」と言った。


アリシアさんは、素っ頓狂な顔をして、「はい、何とは何でございましょう」と、返す。


「お前は、罰を受けている。そうだな」と、小太りのトマト男爵。目付きが鋭い。


「は、はい」と、アリシアさん。


小太りの男爵は、「今日は、スカートを身に着けず、」と言った。


俺とケイティの目線が、すかさずメイドのお尻に向かう。つんと上がったいいお尻だが、残念なことに、大部分は手で隠されている。


アリシアさんは、目線を斜め下に下げ、「はい」と言った。


「手をどけろ」と、小太りの男爵のおっさんが言った。


アリシアさんは、恥ずかしそうな顔をして、「はい」と言って、ゆっくりと手を退けていく……


そこには、丸いおしりが……。ぱんつは、ホットパンツみたいな感じのパンツだ。パンツとはいえ、見方によってはそこまでエロくはない。


「お前の妹が生きていけるのは、誰のお陰だ?」と、目付きが鋭いおっさんが言った。病気の子は、このメイドの妹なのか。


「はい。旦那様です」と、メイドが言った。


まさか、このおっさん、この子にエロいことをするために、病気の妹を引き取ったのか? 金持ち貴族の成金趣味か?


そのおっさんは、「お前の難病の妹を介護するために、今日はそちらの方に来ていただいているんだ。ちゃんとおもてなしをしなさい。感謝の気持ちを込めてな」と言った。


なんと。おもてなし……一体どんなことをされるんだろう。まあ、俺は荷物持ちの方だけど。


「どうした? 嫌か? そもそも、今日、お前が割った皿は何万ストーンだ? 言ってみろ」と、小太りのおっさんが言った。ちょっとフラストレーションが溜っている気がする。きっと大事な皿だったんだろう。


「は、はい、六百万ストーンです」と、メイドが言った。


ろ……ろっぴゃく……


「お前は性奉仕を拒み、代わりに、今日一日、お尻を好きにして良い権利を売った。違うか?」と、おっさんが言った。


俺とケイティは、期待の籠った目で、下をはいていない駄メイドを見る。


そのメイドは、恥ずかしそうに、「はい。違いません」と言った。


まじかこいつ。このメイドは、六百万の皿を割って、最初は性奉仕を打診され、それを断った代わりに、お尻の権利を売ったと。


「ならば今日、お前のお尻を自由する権利は、私が持っている。そうだろう?」と、小太りのおっさんが言った。


「は、はい」


この人、セック○が嫌でお尻を売ったのか。このまま言いなりになるとどんどん色々と買われ、結局セック○まで行きそうなそうな気がするのだが、気のせいだろうか。だが、今日一日の契約なのか、うう~ん。


トマト男爵は不機嫌な顔のまま、「その方達が触り易いように、後ろを向いて、ソファに手をつきなさい」と言った。


「はい」


アリシアさんは、ゆっくりとお尻をこちらに向け、そっと部屋の中央にあったソファのネックレスト部分に手をついた。


そして、「ど、どうぞ」と言った。


ここは、触らないと失礼に当たるだろう。

俺とケイティは一瞬だけ目を合わせ、そして、そっと、左右の尻に手を近づける。今の一瞬で紳士協定が交された。俺は左尻、ケイティは右尻だ。


「う、ううう」


大きいけど柔らかい。そして張りがある。全く飽きない。凄い尻だ。


おっさん二人が、無言で尻を撫でまくる。だが、これがこの人の仕事なのだ。このお陰で、この人は春を売ることなく、借金を背負うこともなく、妹さんを助けてやれる。そう思うと、とても平和な解決方法だ。やるなトマト男爵。


俺は、トマト男爵に一目置くことにした。


トマト男爵は、アリシアさんの尻を撫でまくる俺達を満足そうに眺めながら、「素直でよろしい。さてと。今回は、ギルドに出した仕事、二つとも引き受けてくれたようだな。どちらの仕事をどちらがするのだ?」と言った。


「看病の方は、スキル『不死身』持ちの私です。おそらく、その難病も私にはうつらないでしょう」と、ケイティが言った。


「はい。私が買い物の方です」と、お尻を触りながら言った。とても気持ちが良い。癖になる。隣のケイティもずっと触っている。まるでお尻の境界を確かめるように、色んな所に指を這わせている。

目の前のアリシアさんは、目をぎゅっとと閉じて、必死に耐えている。頑張るんだ。この罰は、今日一日だけらしいしな。


男爵は、「そうか、まずは、妹の方に行くか」と言って、机を立った。



・・・・


廊下の先に部屋があり、そこには、廊下側にカーテンのついた窓があった。


そして、男爵がそっとカーテンを開ける。

なお、窓はへそくらいから頭の高さまでしかないタイプだった。なので、メイド姉がスカートをはいておらず、しかもお尻を二人のおっさんに撫で回されていることは、部屋からは見えないだろう。


カーテン先の窓は透明のガラス製で、窓の向こうには、一人の少女がベッドに横になっていた。


横たわる少女は、カーテンが開けられたことに気付くと、ゆっくりと顔をこちらに向け、そして少しほっとした様子でこちらに微笑み掛ける。


あれが妹さんなのだろうか。


がっちりした姉とは違い、こちらは細身だ。

まあ、体がぐにゃぐにゃして立つこともままならないらしいからな。

運動不足で手足が細っているのだろう。


その病名は、たこの呪い病。罹患すると、まるで軟体動物の蛸のように、体がぐにゃぐにゃになるらしい。


俺は、鑑定スキルの結果上は軟体動物だけど、どういう理屈か日常生活に不都合はない。

むしろ、遠くが良く見えるようになり、体力と筋力と瞬発力が尋常ではなくなっている。

そして、水陸両用……これが、俺が異世界転移した際のギフト的なものなのだろうか。


男爵は、「それでは、ケイティとやら、お主だけが中に入れ。服を脱がせ、体を拭き、そして、体のあらゆる所をマッサージしてやれ」と言った。


ケイティは、「分かりました」と言って、一人で部屋に入っていく。


マッサージの仕方とか分かるのだろうか。


部屋に入ったケイティは、まずはベッド横の椅子に座り、妹さんに気さくに話しかけている。いきなりがっつかなかったようだ。


男爵は俺の方を見て、「よし、お前は私と来い。帰りは荷馬車が一つ増えるからな」と言った。


「はい。それを曳くのが私の仕事ですから」と、アリシアさんのお尻を撫でながら応じた。この人、さっきケイティがパンツをずり上げたせいで、Tバック状態になっている。とても触り易くなっている。


トマト男爵は、「アリシア、お前も来い。護衛だ」と言った。


まさか、この鬼畜トマトは、尻丸出しのアリシアさんを外出させるつもりなのか?


そう思っていると、男爵は思い出したように、「ああ、スカートかズボンははいていい」と言った。


この男爵、案外常識人だった。



・・・・


男爵とアリシアさんと俺の三人、プラス御者で、4人乗り用くらいのおしゃれな馬車に乗って移動する。この馬車は2頭のノーマルの馬で曳いているようだ。

俺は歩きかと思ったのだが、何故か一緒に乗っていいらしい。俺は、男爵の向かい側、アリシアさんの横に座った。


アリシアさんは黒っぽいズボンをはいてきた。残念だ。そして、鞘に入った長剣を手に持っている。今お尻を触ったら切られそうだ。


トマト男爵は俺を見ながら、「お前は、この街の住民ではないな」と言った。どうやら俺に興味があるようだ。


「ええ、はい。東の方から来ました」と、答えておく。本当は南西から来たんだけど、日出処の国のイメージでそう答えてしまった。


「男爵は、そうか」と言って、窓の外に目を移す。ここの街は、かつての戦争で、敵に奪われている。今は奪った側が支配者になっているから、目の前の男爵は、侵略者側ということになる。


馬車の中が無言になり、手持ち無沙汰だったため、「メイドが護衛なのですね」と、言ってみる。


「ああ、そうだな。今の流行は戦闘メイドだ。信頼のおけるメイドに戦闘訓練を施し、いざと言う時のために役に立ってもらうのだ」と、男爵が言った。


「そうなんですね。他の御貴族様も同じなので?」


男爵は、「戦闘メイドはあくまで流行の話だ。違う所もあるだろう。まあ、私は運がいい。アリシアみたいな、優秀な剣士を手に入れたのだからな」と言った。


お隣のアリシアさんは、少し嬉しそうな顔をした。この人、実は剣士だったようだ。


「貴族には、メイドが戦闘行為を戦う、いざと言う時があるのでしょうね」と呟く。


トマト男爵は、「そうだ。貴族は土地の支配者で数多くの利権を持っている。この街の貴族区も、街の利権だけではなく、殆どが荘園を持っている。優秀な兵士、下士官はいくらいてもいいのだよ」と言った。


聞いたらちゃんと教えてくれるな、この男爵。


俺は調子に乗って、「へぇ。男爵は、この街の何の利権を持たれているので?」と聞いてみた。


男爵は、「ここでの私は、雑用ギルドの株を51%持っているに過ぎない」と答えた。


「ほう。雑用ギルドのオーナーでしたか」と、応じる。


男爵は意外そうな顔をして、「ふん。美味しい利権は殆どが領主のヴァレンタイン家と公爵家系列のナナセ子爵が持っていっている。我ら下っ端男爵は、隙間産業を細々とやって、自分の荘園を徐々に発展させていくしかない」と言った。


「荘園ですか。ここに来るとき、バッシュランという村に立ち寄りましたが。あそこも誰かの荘園ですか?」と、聞いてみた。


その時、男爵の瞳が鋭く光った気がした。


「バッシュランか……そこは領主の開拓村だが、お前はそこからきたのか……お前、そこで何かを見たか?」と言った。


俺は、何を言おうか少し考える。この人は意外と紳士的な人だが、それだけで信頼を置いてべらべらしゃべる分けにもいかない。なので、「スタンピードを少々。それから、悪鬼ですね」と、言ってみた。


悪鬼のことは、村の連中やジーク達から、領主に連絡が行っているはずだ。別に口止めはされていないから、言ってもいいだろう。


「悪鬼だと!? そんなもの、聞いていないぞ!」と、目の前のアリシアさんが反応する。


「え? まあ、つい先日ですからね。村人達が領主に伝えに行くって聞いてます」と、答えておく。


アリシアさんは「そうか」と言って、考え事モードに入ってしまった。


「……そのスタンピードは、人為的だった、いや、人為的だったと思うか?」と、男爵が言った。


「その時聞いた話ですが、スタンピードが起こった箇所に野営の跡があったそうですね」と、応じる。この人は、どこのウマの骨とも分からない俺なんかにも、真面目に受け答えしてくれた。なので、俺も真面目に答えることにした。


「ほう、やはり来たか……それで、その悪鬼は、どんな人物だった?」と、男爵。


「悪鬼は、少年でしたね。いや青年くらいかな? っけ。そして、ドレインタッチというスキルを使っていました」と、言ってみる。


俺がそう言うと、目の前の二人が顔色を変える。動揺が窺える。


「ドレインタッチの使い手だと? まさか、追放者が悪鬼に。これは、何か関係があるのか?」と、男爵。


「だ、旦那様」と、アリシアがトマト男爵の方を向いて言った。


「心配するな。お前達を見捨てはせん。だが、私の行動は正しかった。よし。準備を急ぐぞ」と、男爵が言った。


「はい……ん? 悪鬼は? その悪鬼はどうなったんだ?」と、アリシアさん。


どうしよう。何て言おう。


「ああ、あの場所には、。俺も戦いましたが、その後1日の隔離生活で大丈夫でした」と答えた。


「た、倒したのか?」と、アリシアさん。


「ええ、倒しましたね」


「ふむ。その口ぶりからすると、誰も死ななかったのだな」と、男爵が言った。


「はい。そうですね。誰も死にませんでした。悪鬼以外は」


「タケノコ島の戦士は、悪鬼に耐性がある種族がいます。おそらく、そういった者達がいたのでしょう」と、アリシアさん。


「ああ、中央の悪鬼討伐隊には、タケノコ島出身の傭兵がいると聞く。悪鬼戦の切り札の一つだからな。それにしても追放者か……今、何故か優秀だったり、将来有望な若者がギルドを追放されるという事件が多発しておるのだ」と、男爵が言った。


どういうことだ? 優秀な人材を追放する理由は、妬み、情事のもつれ、単なる馬鹿、それとも……


考え毎をしていると、前の方から「あの、着きました」と、御者のおっさんが言った。


男爵は、「よし。行くぞ」と、アリシアさんに言った。それを受けたアリシアさんが直ぐに降りて、次に俺が降りる。


おしゃべりは、ここまでだ。



・・・・


「これだ。屋敷に眠っていたものを、メンテに出していたのだ」と、男爵が言った。


ここは馬車屋さんで、様々な馬車やその部品が並んでいる。

目の前にある荷馬車は、5ナンバーのワンボックスカーより一回り大きいくらいの荷馬車だった。


あのキャラバンの10トントラック並の超大型と比べるとずいぶん小ぶりなように思える。


男爵は、戻って来た自分の荷馬車を納得いく顔つきで眺め、「よし、今日はこれに荷物を載せて、屋敷まで帰るぞ」と言った。


俺は、「了解です」と言って、紐をぐいぐいと引っ張る。今は空荷なので、余裕で動き出す。


その時アリシアさんが、「ああ待て。私が先導する。お前は場所を知らんだろう」と言って、俺の前を歩く。


男爵は、「アリシア、私はこの荷馬車の御者席に座っておる」と言って、俺が引く荷馬車の席に登っていく。


意外とアグレッシブな貴族だな。


俺は、男爵を乗せた荷馬車をぐいぐいと引っ張り、先導するアリシアさんのお尻を見つめながら、街道を進む。これから物資の爆買いで、それからそのまま貴族区の男爵屋敷に戻る計画らしい。


ちなみに、この荷馬車を曳く馬は、発注はしているが、まだ届いていないらしい。まあ、だからこそ、今回の依頼が発注されたんだろうけど。


俺はそのお陰で二万ストーンを手にし、そしてアリシアさんの生尻を触りまくることができた。なかなか良縁に恵まれているものだ。


その後、アリシアさんに連れ回されながら、買い物は無事夕方には終了し、俺達は庶民区を後にした。

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