第21話 長谷川 智樹①
俺は長谷川 智樹(はせがわ ともき)。
親父は不動産の社長でお袋はPTAの会長をしているエリート夫婦。
まあ親の役職なんてどうでも良い……要は俺が金持ちだってこと。
だから金で困ったことは1度もないし、コンビニなんて安物しかない店なんか寄ったこともない。
しかも俺は顔も容姿もアイドル並み……いわゆるイケメンって人種だ。
金と凡人以上のルックスを持つ俺は常に人から注目される存在だ。
俺に近づく女は後を絶たず……1年に20人以上の女を喰うのが俺の日課みたいになっていた。
ただ喰うだけじゃつまらないから、男から女を奪う……いわゆる寝取りを趣味感覚で楽しむようになっていた。
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そんな俺には豪という親友がいる。
豪は俺以上に金持ちだが、俺と同じく女を寝取る趣味を持っている。
だからか、付き合いのある友達の中で一番気が合う男だった。
そんな豪から酒の席で托卵ゲームを持ち掛けられた。
端的に言えば……適当な男に自分のガキを托卵させ、1年ごとに100万のボーナスがもらえるという単純なゲーム。
もちろん托卵がバレたらゲームオーバーだ。
旦那に満足できない女をボランティア精神で抱いたら事故って妊娠しやがったから旦那のガキと偽って育てさせたという俺が酒の肴に持ち出した話が発端で出た豪の思いつきだが、寝取りに飽きて刺激を欲していた俺にとっては興味をそそるゲームだった。
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ゲームは大勢でやる方が楽しい。
だから俺達はゲーム参加者を募った。
とはいえ、俺らレベルの男はそういないからそこまで多くは集まらなかったが、刺激に飢えていたみんなはこぞって参加を希望してくれた。
さらには豪の親父まで参加してきたことでゲームはさらなる盛り上がりを見せた。
なにせ超有名人だからな。
まあそんなこんなで……俺と豪を含めたゲーム参加者達は駒として使える人材を見つけ、それぞれの女に自分のガキを仕込んだ。
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俺自身も適当に寝取った女とその婚約者を駒として難なくゲットできた。
さすがは俺!
あとはバレないように注意するだけだが、これがまた良い刺激をくれる。
だって想像してみろよ?
俺のガキを身ごもった女を何も知らない男が妻として愛し、養ってるんだぜ?
後に生まれたガキのことだって他人との子供と知らずに我が子として育てる……こんな滑稽な話はないだろ?
旦那が俺のガキを初めて抱いたシーンを女の友人が動画に撮っていたようで、後で女経由で見てみたら腹がねじきれそうになった。
だって"俺の子供に生まれてきてくれてありがとう"とか抜かしてるんだぜ?
しかも号泣して!ハハハハ!!
お前の子供じゃねぇよバーカ!って思わずカミングアウトしたくなったぜ。
他人の不幸は蜜の味とは良く言ったもんだ!
その後も何も知らず家族円満で暮らしている旦那の様は滑稽すぎて何度笑い死にそうになったことか。
これだけ鈍感過ぎる旦那なら2人目もいけるんじゃね?と俺は女に2人目を仕込むことにした。
これでボーナスは2倍!
財布も潤ってマジ旦那神!
テレビや配信でやってるつまんねぇバラエティよりこっちの方がよっぽど面白いと思わねぇか?
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ところが……そんな刺激に満ち溢れていた俺の毎日が突然終わりを迎えてしまった。
豪がヘマをして托卵がバレちまった……。
それだけなら別にどうってことはないが、駒にした旦那が托卵ゲームのことを記事にしてネットにぶちまけやがった。
そのせいで旦那に托卵のことがバレて俺は慰謝料を請求された。
女とは離婚し、ガキは自分の子供として育てるんだと。
「血がつながっていなくてもこの子は俺の子だ!」
慰謝料を請求した際に旦那が俺に吐き捨てた言葉だ。
まあ俺としてガキの面倒見なくて済んだからラッキーだったけどな。
請求された金額もどうってことはないし、この件に関してはほとんどノーダメージと言える。
女の方は無論捨てた。
托卵が失敗した以上もう用はないし、あいつは旦那から請求された慰謝料をのせいで借金を背負ってる。
おまけに親にも勘当されて孤独になった女なんかと付き合ったって何のメリットもないじゃん。
「助けてよ! 私のこと愛してるって言ったじゃない!!」
別れを切り出した際にこんな悲劇のヒロインみたいなセリフで俺にすがり着いてきたが、そんなのは俺の知ったことじゃない。
だいたい旦那を裏切ったこいつの自業自得だし、俺を巻き込むなって話。
例の暴露記事の余波でゲームに参加していた友人達もことごとく駒にしていた旦那から慰謝料を請求されていった。
まあそれ自体は別にどうということはない。
要は金を払えばチャラになるんだからな。
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托卵の件は金で処理できたが、ネットの方はそうはいかない。
あの記事で明るみになった托卵ゲームに世間は注目し、批判の声が相次いだ。
俺を含めたゲーム参加者達に対して”人の皮を被った悪魔”などと罵って来る。
それだけなら無視すれば良いだけだが……偽善者ぶった暇人共が俺達の素性を調べ、ネットに公開しやがった。
いわゆる公開処刑って奴だ。
そのせいで俺は周囲から白い目で見られ、毎日メールやSNSで知らない人間から罵声を浴びせられている。
『クズのくせに一人前の人間みたいに町を歩かないでよ。汚らわしい!』
『今度は猿にガキを仕込んでみたらどうだ? 猿同士お似合いだぜ?』
家には毎日石が投げ込まれたり、壁に”托卵野郎”だの”死ね”だのスプレーで落書きがされる。
俺自身も卵やトマトなどを投げつけられ、直接的な被害を受けていた。
だが犯人を特定する証拠や証言がないため、警察は動いてくれない。
あの税金泥棒共……マジ使えねぇ!!
関係を持っていた女達や友人達も我が身可愛さに俺のことををカットしやがった。
あのクソゴミ共が……俺への恩を忘れてあっさり裏切りやがって!!
ほかのゲーム参加者達も同じような目にあっているらしいが、豪の親父はその立場からか大したダメージにはならなかったらしい。
俺達と一緒にゲームを楽しんでたくせに、自分だけのうのうとしやがって!
頭にきた俺は豪のお袋が暴力団の男と付き合っているという話を流してやった。
以前、町でイレズミだらけの野郎と腕を組んで歩いているのを見かけたことがあるんだよな。
豪に気をつかって黙っていたが、もうどうでもいい。
俺達と同じようにあいつらも地獄に堕ちてしまえ!
そう思っていたらマジで豪の親父が失脚したからウケたわ!
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でも俺が何よりつらかったのは……妹のメイ。
メイは高校3年生で近所では天使ともてはやされているほどの美少女だ。
高校ではテニス部に入り、エースとして活躍している。
明るい性格で人付き合いが良く、メイはいつも友人に囲まれていた。
家族との関係も良好で、俺を兄として慕ってくれている。
メイ自身は知らないだろが、俺はメイを1人の女として愛していた。
今まで付き合ってきた女達が遊びで終わっていたのは、メイの存在があったからだ。
幼少期の頃はただのガキだと思っていたが、高校生になった頃からメイは俺が見惚れるほど美しくなっていた。
それ以来俺はメイしか見ていない。
俺と釣り合える女はメイしかいない……だが血の繋がった兄妹は結婚することはできない。
くだらねぇ法律とつまらねぇ世間体が俺達の仲を邪魔する。
どうしようもないこのイラ立ちを解消しようとこっそり盗んだメイの下着を嗅いだり、メイの入浴や着替えを盗撮した動画を見て、自分を慰めていた。
それでも解消しきれない時はメイを想って別の女を抱く。
だが……俺のこの想いはそんなことじゃ救われない。
いっそメイに想いを伝えたらとも思ったこともあったが勇気は出なかった。
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托卵の件がネットに出回ってから数ヶ月経った今……メイが部屋に引きこもっている。
俺や親が話しかけても何も言わず、飯もほとんど口にしない。
俺はリビングに放置されていたメイのスマホを拾い、そこから色々情報を集めることにした。
ロックナンバーはこっそり見たことがあるので簡単に解除できた。
メイはスマホに日記を書く癖があり、そこには受けてきた地獄の痕跡がびっしりと詰まっていた。。
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メイはこの数ヶ月の間、悪質な嫌がらせを受けていたらしい。
その原因となったのは例の暴露記事に関して放たれた1つのコメント。
『托卵をゲーム感覚で楽しむような男の妹なら男とヤリまくるクソビッチに違いない』
そんな誰が言ったのかもわからない根拠もない妄言がネット上を出回っていき、それがメイを知る人間達の耳にまで入ってしまったらしい。
『長谷川~……暇なら俺と1発ヤろうぜ?』
『メイたん! お金あげるから僕にパンツ頂戴! もちろん脱ぎたてね?』
メイのラインやSNSには複数の男達からセクハラじみたキモいメッセージが大量に送られていた。
中には下半身を露出した自分のブツが写った画像を送りつけるとち狂った野郎まで嫌がる。
さらにはメイの盗撮写真やメイを裸にした加工写真がネット上にバラまかれ、
メイは知らぬうちに男達の性のはけ口にされていた。
この手の犯罪は特定が難しいらしく、警察が動いても大した効果はないらしい。
だがメイはネット上だけじゃなく、現実でも被害を受けていた。
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テニス部の練習中……メイは服装が薄くなるせいか、男子達にいやらしい視線を向けられていたらしい。
それが原因で練習に身が入らなくなり、さらには男子達の視線が他のメンバーにも向けられたことで、テニス部全体のステータスは各段に落ちたらしい。
その男子達を処分しても、また別の男子達が次々とテニス部にやってくるためキリがない。
そして……コーチとテニス部のメンバーは原因はメイにあると考え、メイにテニス部をやめるように促した。
メイは自分のせいでテニス部に迷惑を掛けたくないからと涙を呑んでテニス部を退部したらしい。
※※※
『私の彼氏があんたの写真を待ち受けにしていたんだけど、人の彼氏誘惑しないでくれる? ちょっと可愛いからって調子にのるなよ股ゆるクソビッチ!!』
『あたしの弟がネットにアップされていたあなたの画像をスマホに大量に保存していました。
弟はまだ中学生なんですよ? 変な性知識を身に付けて犯罪に手を染めたらどうしてくれるんですか!?』
男からのセクハラメッセージの他、同性からもこういったメッセージもかなり送られてきている。
マジで逆恨みも良いところだ。
メイはテニス一筋で彼氏を作ったこともないし、画像に限ってはむしろ被害者だろ?
こいつら頭にウジ湧いてんのか?
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メイと仲良くしていた友達は何をしているんだとラインを開いてみたが、全員ブロックしていた。
『私を巻き込まないで!』
「メイといると私までビッチだと思われるから……ごめん』
最後に送られていたメッセージは全部こんな感じで閉められていた。
我が身可愛さにどいつもこいつもふざけたことばっか言いやがって!!
メイが可哀そうだと思わねぇのかよ!!
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『死にたい』
日記の最後に書かれていたのはこの4文字だった。
メイのスマホをテーブルにそっと置き、俺はリビングを出る。
時計を見ると深夜になっていたが、眠る気にはなれなかった。
メイにはもう俺しかいない……俺しか守れないんだ!
俺にももうメイしかいない……いや! メイしかいらない!
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メイの部屋のドアは鍵が掛かっていたが、俺にはこっそり作っておいた合い鍵があるので簡単に入ることができた。
親に言えば鍵を取り上げられるに決まっているから言ってないし、メイも合い鍵の存在は知らない。
「メイ……」
ベッドの上で布団に包まって眠っているメイ。
部屋は荒れていて、あちこちに物が散乱してる。
精神的なダメージで錯乱していたんだな……可哀そうに。
「大丈夫だメイ……俺が一生お前を守るからな」
メイの顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっているがそれを差し引いても心が惹かれる。
愛する女が目の前で無防備な姿で寝ている。
しかも俺はこの数ヶ月あの暴露記事のせいで女を抱いていない。
俺の理性はもう限界だった。
「メイ……愛してる」
俺は身に着けていた衣服をその場で脱ぎ、寝ているメイの服を脱がせた。
互いに生まれたままの姿となった男女がやることなんか決まってるだろ?
俺は夢にまで見たメイの体を心行くまで堪能し、メイの初めてをもらい受けた。
「しっ幸せだ……」
俺は何もかもがどうでも良いほどの幸福感に包まれた。
メイが俺の物になった。
もう他のことなんかどうでもいい!!
「……!! 何をしているの!!」
「えっ?」
「いっいやぁぁぁ!!」
「うごっ!!」
目を覚ましたメイは悲鳴を上げながら俺を突き飛ばし、ベッドから飛び起きた。
「!!!」
下半身から伝わる痛み……股から流れる血と俺の体液……互いに衣服や下着を身に着けていない……それらの事実が言葉にしなくても俺の行為を物語っている。
「あんた……自分が何をしたのかわかってるの!?」
「わかってる!……でも俺はお前が好きなんだ!
お前を守ることができるのは俺しかいない!
俺だけがお前を愛し続けることができる!」
「は?……何を言ってるの?」
「そうだ! いっそ2人で駆け落ちしよう!
もうこんなクズしかいない町なんか捨てて、2人の世界に行こうぜ!」
「ふっふざけないでよ!!
実の妹を強姦しておいて!!
しかも避妊もしてないじゃない!!」
「強姦なんて人聞きの悪いこと言うなよな?
これは男の本能だ。
惚れた相手が目の前にいたら誰だって抱くに決まってるだろ?
あっ! ガキができても堕ろせなんて言わないぜ?
俺達の子供としてちゃんと可愛がって……」
バチンッ!!
次の瞬間、俺はメイに生まれて初めて平手打ちをされた。
メイは泣きながら俺を睨み、床に散らばっていた服をかき集めて体を隠した。
「大嫌い!!」
メイはそう吐き捨てると、部屋を飛び出してしまった。
俺はメイの平手打ちと大嫌いの言葉がショックで放心していた。
※※※
その後、警察が家に来て俺は連行されちまった。
メイの話を聞いた親が通報したらしい。
実の子供を警察に突き出すとか、意味わかんねぇよ!!
警察は強姦の罪で逮捕するなんてほざきやがるが、俺は愛するメイを抱いただけで強姦なんかしていない!!
メイだって今は少し混乱しているだけで、きっと俺の気持ちに気付いてくれるはずだ!!
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「メイが死んだ」
2週間後……面会に来た両親から聞かされたのは耳を疑う言葉だった。
「は? 何いってんだよ」
「メイが自殺したんだ……自分の部屋で首を吊った」
「うっ嘘つくんじゃねぇよ!!」
俺がそう叫ぶと、お袋が1通の手紙をカバンから出した。
「メイがあなたに向けた手紙よ」
そこに書かれていた言葉は……。
「あんたの妹として生まれたことが人生最大の過ちだったわ。
私が死を選んだのはあんたのせいよ!
あんたがいたせいで私はこんな目にあったのよ!!
私のことを愛してるとか言ってたけど、マジでキモいとしか思わなかった。
死んでもあんたを恨み続けるから。
私と両親の墓にも入ってこないで。
あんたみたいな最低男、死んでも大嫌い!!
あんたなんか……生まれてこなければよかった」
「……」
「お前とは縁を切る。 2度と俺達の前に顔を見せるな」
それだけ言うと、両親は面談室を去って行った。
でも絶縁されたことなんかどうでもいい。
メイが死に、俺を拒絶した。
その事実が俺の心を突き刺す。
「はは……アハハハハ!!」
俺は壊れた。
壊れた俺は意味もなく笑った。
なんでこんなことになったんだ?
俺が托卵ゲームをしたからか?
でもあれは豪がやろうって言ったんだぜ?
俺は乗っただけで悪くない!
托卵だって結果的に旦那はガキと暮らすし、女は自業自得。
メイが嫌がらせを受けたのだってきっかけはあの暴露記事だろ?
俺がメイを抱いたのだっていわゆる愛情表現ってやつだ。
なんだ……俺もメイも悪くねぇじゃん。
元をたどれば全ての元凶は豪の野郎だ!
あいつさえいなければ、俺とメイの人生は狂わなかった!
許さねぇ……ここを出たらあの野郎ぶっ殺してやる!
いや殺すなんて生ぬるい!
必ず地獄を味あわせてやる!
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