第2話 佐山 香帆②
豪の物になったあたしの何もかもが変わった。
豪は食べ物や飲み物だけでなく、服や化粧品……装飾品といった、女の必需品も与えてくれた。
それらを着飾り、美しくなったあたしに周囲の見る目も変わった。
男達はあたしを明らかに性の対象として見てくるし、女達は陰キャからモデルのように美しくなったあたしに嫉妬しているのか、嫉妬じみた目で睨んでくることが多い。
「佐山! 俺と付き合わね?」
「香帆ちゃん! 今度一緒にカラオケでも行かない?」
変貌した途端、どいつこいつも手のひらを返して、フレンドリーに接してきた。
今まであたしのことなんて姉のおまけみたいな存在だったのにね。
反吐が出そうな連中ばっかだけど、あたしは好意的に受け入れることにした。
……表向きには。
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「くくく……香帆、お前のおかげで良い気晴らしになったよ」
「えへへ……豪がよろこんでくれるならなんだってするよ!」
ある休日、あたしは豪の部屋で夜を共にした。
豪はスマホを操作しながらニヤニヤしている。
そこに映っているのは、豪が複数の女子生徒と行為している画像や動画。
同じ高校の女子もいれば、他校の女子もいる。
みんな彼氏持ちだったけど、豪に抱かれたことで彼氏を捨てている。
豪に惹かれた女もいれば、行為中の画像や動画で無理やり別れさせられた女もいる。
そして、捨てたれた男達は次の日から不登校になって引きこもるか、転校するか、ほとんどその2択。
どうにか学校に来る奴もいるみたいだけど、元カノの顔を見た途端、発狂したり吐いたりしてる。
そんな男達の落ちぶれた姿を見るのも、豪の趣味。
必死に笑うのをこらえ、人気のないところで大笑いしている。
でも、そんな完璧な豪にも寄り付かない女はいる。
完璧なスペックを持っている豪よりも自分の彼氏を優先しているみたい。
そういう女はどんなに誘っても、豪が付け入る隙も見せない。
それ以上すれば、つまらない傷をつけられる可能性もあるから、今までそういう女はしぶしぶスルーしていたみたい。
でもその壁も、あたしが豪に協力することで崩すことができるようになってきた。
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「佐藤君、付き合わせてごめんね?」
「いいって。女1人で夜道は物騒だからな……俺の家からもそんなに離れてないから平気さ」
冬の放課後、あたしはクラスメイトの佐藤に帰り道を
付き添ってもらった。
夜道が怖いからとそれっぽいことを言えば、簡単に了承してくれた。
でもそれは、佐藤を連れてくるためのあたしの口実。
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「佐藤君、ここまでありがとうね」
「気にするなって! じゃあ俺、帰るから」
「待って!」
帰ろうとする佐藤の腕にあたしはしがみついた。
「ねぇ佐藤君、 良かったらちょっと上がっていかない? お礼もしたいし」
「いっいや、そこまでしなくても」
「ダメ……かな?」
あたしはわざとらしく豊満な胸を押し付け、さりげなくボタンもはずす。
平静を装ってはいるけど、目は完全に胸に固定されている。
ちなみに家っていうのは、豪が借りているマンションの一室。
豪がいつもラブホ代わりに使ってるいくつかの部屋の1つなんだって。
「あっ! いやって訳じゃ……俺、彼女いるし」
「別にお茶を飲むだけだし、平気だよ」
「そっそうだね。 お茶くらいなら」
「じゃあ上がって!」
「あっあぁ……」
彼女持ちで女を知っていてようとも、男は欲情に逆らえない生き物。
まして思春期盛りの高校生なら、この程度のベタな色仕掛けで簡単に堕ちる。
あとは豪からもらった媚薬をお茶に軽く入れるだけで、獣みたいになってあたしの体に貪りついてきたわ。
それからというもの、佐藤はあたしとたびたび夜を共にした。
あたしの体が忘れられなかったみたいで、彼女もかなり放置気味になってたみたい。
それでもって、あたしと関係を持っていたことを故意に彼女にバラす。
どんな女でも信頼している男の裏切りを知れば、心に隙が生まれる。
例にもれず、佐藤の彼女はあたしと佐藤の裏切りを知ると即効で別れたみたい。
傷心した女ほど、簡単に操れる生き物はいないとはよく言ったものね。
「ひどい男だね。 君のような可愛い子を捨てて浮気するなんて……」
捨てられた女を豪が適当な言葉で関係を結ぶ。
これが豪の新たな趣味。
今まで豪になびかなかったことで彼のプライドをズタボロにした女達。
そいつらの彼氏をあたしが寝取ることで心を絶望の底に落とすことで、豪の溜飲を下げる。
そして、寝取られた女達を豪が拾うことで豪がこの寝取りゲームの勝者となる。
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「香帆! どういうことだよ!!」
「言った通りよ。 あんたと付き合ってるつもりはないの。
あたしにとってあんたは遊び。 まさか彼氏のつもりであたしといたの? マジでキモいんですけど?」
ある日、佐藤があたしを彼女だとクラスに吹聴していたのを聞き、あたしは佐藤にくぎを刺しに行った。
男女問わず、体を重ねた相手は自分と付き合っていると認識する高校生が多いけど、何を根拠にそんなこと信じてるのか意味わかんない。
「うっとおしくなってきたから、もう二度と近づいてこないで!」
「おっおい!」
あたしはそれ以降、佐藤との関係を絶った。
そもそも佐藤から彼女を寝取ることが目的だったので、それが済んだ時点でもう佐藤に用はない。
それからも何度かしつこく関係を迫ってきたけど無視した。
それからしばらくしてようやくあたしを諦めた佐藤は元カノの優菜とヨリを戻そうとしたみたいだけど……。
「はぁ? なんであんたとヨリを戻さないといけないの? 私には、豪先輩っていう素敵な彼氏がいるの。 先輩はかっこいいしお金持ちだし、あんたなんかと違ってアッチも上手いし、マジであんたなんかと付き合ってた自分が黒歴史でしかないわ!」
豪の虜になっている女が今更底辺である佐藤の元に帰る訳もなく、こっそりその様子を携帯で撮影しているあたしも思わず吹き出しそうになる。
「なっなんだと!!」
「もう2度と話しかけてこないでくれる? 不細工な寝取られ男君?」
「ふっふざけんなっ!この浮気女!! ぶっ殺してやる!!」
「いっいや! 何すんの!!」
意外な展開だったけど、逆上した佐藤は優菜の首を絞めて殺そうとした。
まあ近くを通りかかったガタイの良い生徒や先生が止めたおかげで元カノは死ぬことはなかったみたい。
佐藤は殺人未遂で少年院に放り込まれ、学校も後日退学になったみたい。
優菜の方はこのことがトラウマになって転校していったみたい。
優菜は、豪についてきてほしいって懇願してたみたいだけど豪は当然断り、ついでに別れたんだって。
まあ遅かれ早かれ、豪は別れるつもりだったみたいだけどね。
風の噂では優菜は豪に捨てられたことで心を壊したとなんとか。
あたしはそれ以降も、彼女持ちの男を引っかけては彼女を別れさせていった。
佐藤みたいに元カノにヨリを戻そうとしてくる奴はいたけど、上手くいった事例はないわね。
豪はこれをボーナスタイムだってほくそ笑んでいたわ。
そんなことを繰り返していく内に、あたしは影で『寝取り女』とか『クズビッチ』等と呼ばれるようになった。
まあ、豪以外の人間からなんと言われても、あたしは何とも思わないけど。
むしろ、軽い女と思われることで、男達が罪悪感や抵抗感を感じなくなって、誘いやすくなったくらいよ。
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「香帆。 君は最高のパートナーだ。 これからも俺を楽しませてくれ」
「うん! 豪のためなら、あたしはなんでもやるからね!」
豪に抱きしめられ……褒められ……ぬくもりを与えてくれる。
それがあたしにとって、生きる目標。
そんな豪がほかの女と寝ることに抵抗がないかって?
全然思わないわね……だって豪にとってこれは趣味でありゲーム。
愛情なんてものは欠片もない。
むしろそれを知らず、豪になびく女達が哀れに思えるわ。
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高校卒業後、あたしは豪とマンションで同棲生活を送っていた。
とはいっても、豪と出会ってからほとんど豪の元にいて、家には片手で数える程度しか帰っていないから、今更感はあるけどね。
あたしは変わらず豪のために男を寝取っている。
さすがに既婚者はリスクが大きいから避けているけどね。
生活費や住居まで提供してもらってるんだから、これくらいはしなきゃ。
まあ何度か妊娠したこともあったけど、豪以外の男の子供なんていらないからすぐ下ろした。
豪もうっかり女を妊娠させたこともあったけど、金に物を言わせて下ろさせたんだって。
下ろせといった際、泣き崩れる女の顔が傑作だって爆笑してたみたい。
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数年後、あたし達の元にあるニュースが飛び込んできた。
なんでも姉の琴美が婚約したみたい。
相手は大きな病院の跡取り息子という、ステータスは申し分ない男。
ルックスは平凡だけどね。
でも、有名女優と大病院の跡取り息子の婚約はニュースでもかなり話題になっている
どの道あたしにとってはどうでも良いニュースだけど、豪はこれに食いついた。
「あのガードの固い琴美が婚約か……」
「そんなのどうでも良くない?」
「いや……こいつは面白い話だ」
「えっ?」
「香帆……琴美を婚約者から寝取りたい」
かつて高校のマドンナと言われた琴美に豪が手を出さなかったのは、琴美に男がいなかったから。
豪の趣味は寝取ることで女と寝ることじゃない。
「まがりなりにも妹であるお前がいれば、難しくはないはずだ」
「うん!わかった! 豪のためにやる!」
「さすが、俺の香帆だ」
豪のためっていうのは事実だけど、今回ばかりは個人的な感情もある。
豪が琴美を婚約者から奪えば、婚約破棄となってあいつらは多額の慰謝料を請求されることになる。
金の亡者である両親にとっては、この上ない地獄になるわね。
琴美もイメージダウンになって、最悪女優を引退することになるかもしれないわ。
その上、琴美が豪に飽きられて捨てられれば、あの女に残る物は何もない。
……フフフ。 楽しい実家帰りになりそうだわ。
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