愛する彼のため、夫をATM化&托卵させたあたし。夫が離婚と慰謝料を突き付けたせいで彼とあたしは破滅する。 ふざけんなっ! あたしは必ず夫を地獄に落とす!!
panpan
第1話 佐山 香帆①
あたしの名前は佐山 香帆(さやま かほ)。
会社員の父と専業主婦の母から生まれた平凡な女。
そんなあたしには、3歳上の姉がいる。
名前は琴美(ことみ)。
姉は誰もが見とれる美貌を持ち、それに魅了された男達は数知れず。
でも身持ちが固いようで、私の知っている範囲では男と付き合った経験はないようだ。
姉の美貌は歳を重ねるごとに増していき、高校2年の頃には全国美少女コンテストで優勝までしている。
そんな姉には女優になる夢がある。
様々なレッスンで培った演技力と持ち前の美貌で、姉はあっという間に有名女優の仲間入りを果たす。
人生イージーモードとは姉のような人間のためにあると言っても過言ではない。
……そんな姉は家族の自慢でもあり誇りでもある。
それに引き換えあたしは勉強もスポーツも平均、これといって何か特別な才能がある訳でもない。
自分で言うのもなんだけど、顔とスタイルは割といい方だと思う。
でも姉という完璧な女が常に隣にいれば、どんな人間でもあたしと姉を比較し、幻滅する。
それが家族だったらなおさら……。
----------------------------------------
「あの……お母さん。 あたしのご飯はこれだけ?」
「は? タダ飯食らいの分際で生意気言うんじゃないよ!
パンを用意してやっただけでもありがたく思いなさい。
文句があるなら琴美のように稼いでからいいなさい!」
あたしが小学4年生の時、母が突然あたしのご飯を作らなくなった。
姉に金をつぎ込み、女優としての力をたくわえさせるためだ。
両親から何も期待されないあたしは、毎日菓子パンだけで我慢した。
その後も母は姉ばかりを優先し、あたしが中学生に上がった頃には、あたしに関する家事を全て放置した。
姉が稼いでくる金に目が眩んだのか、元々そういう性格なのが表に出たのかは知らない。
まああたしに興味がないっていうのは、頭空っぽのガキのあたしでもよくわかった。
完全に育児放棄だけど、あたしにはそれを相談できる人間なんていない。
あたしは仕方なく、自分で自分の面倒を見ることにした。
----------------------------------------
「お父さん!! これ見て! あたし、数学のテストで100点を取ったんだよ!!」
中学2年の頃、あたしは数学で100点を取ったことがある。
後にも先にも100点を取ったのはこの時だけ。
それがあまりにも嬉しくて、テスト用紙を父に見せた。
まあ大抵の親ならよくやったとかなんとか労いの言葉を掛けるだろうけど、ウチは違う。
「……で?」
「えっ?」
「100点を取ったから何だ? それが金になるのか?
つまらない紙切れなんて見せにくるんじゃねぇよ!!」
「あっ……」
父はそう言ってあたしのテスト用紙をびりびりに破き、ゴミ箱に捨てた。
あたしが必死に勉強して掴んだ100点を紙屑のように……。
「こんなものを見せに来る暇があるなら、体でも売って金を稼いで来たらどうだ?
お前のような無能でも、若ければそれなりに稼げるだろう?」
「そっそんな……」
「俺に認めてほしかったら金を出せクソガキ!!」
父は冷たくそう言って、レッスン教室にいる姉を迎えに車で出て行った。
分かる通り、父も母と同じ金に汚い守銭奴。
姉が子役デビューを果たしてからはますますひどくなった。
このほかにも、大人のビデオに出演しろだの、取引先の上司と愛人関係を結べとか命令してくるけど、あたしはずっと断ってきた。
そのたびにあたしを『役立たず!』と罵って来る。
マジであたしには体と若さしか価値がないと思っているみたいね。
----------------------------------------
「琴美ちゃん! 今度映画に出るんだって!? すごいじゃない!」
「ありがとう! とはいっても、ヒロインの姪役でそんなに出番はないんだけど……」
「それでも有名な監督さんが作っている映画なんだろ? さすがは俺の娘だ!」
「そうだわ! お祝いに家族みんなで旅行に行かない?」
「そりゃいいな! 琴美、どこがいい?」
「私、ハワイに行きたい!!」
「よしっ! じゃあ今度の休みに行くか!!」
姉と両親の仲は良好で、絵にかいた家族団らんそのもの。
この時も、姉の初映画デビューに両親は大喜びだった。
まあ表向きにはそう見えるけど、2人の本音は出演料だけ。
姉の稼ぎは全部両親が管理し、バレない程度に懐にしまっているみたい。
そのことを知らずに、両親から期待されている姉はマジで幸せ者よ。
ちなみにこのハワイ旅行にあたしは連れていってもらえず、親戚の家に押し付けて、1人留守番するハメになった。
----------------------------------------
そんな両親の期待を一身に背負っている姉とあたしの関係は……当然良い訳がない。
「ちょっとカス! トロトロしてんじゃないわよ! 邪魔!!」
「うっ!」
ある朝、あたしはいつも通り学校へ行こうとしていた。
姉とは同じ中学なので、登校時間が嫌でも重なる。
玄関前で靴を履きなおしていたあたしを突き飛ばす姉。
地面を3秒くらいつま先でつついていただけなんだけど、おかげでひざを少し擦りむいてしまった。
倒れたあたしを見下ろす姉の顔はわかりやすいほどにあたしをバカにしていた。
ちなみに姉はあたしのことを香帆ではなくカスと呼ぶ。
最近は両親も便乗してそう呼んでいる。
姉はいつも、『親のすねをかじって生活して、恥ずかしくないの?』、『私達を大切に育ててくれているパパとママに親孝行したら?』と、あたしのことを親に寄生するニートのように扱う。
嫌々でも学校にはきちんと通ってるし、問題も起こしていない。
家でも家族に迷惑を掛けないように注意はしているつもり。
そもそも中学生に、金を稼げって言う方がどうかしてるんじゃない?
ウチの中学は姉が特別枠に入っているだけで、基本的にバイト禁止で破ったら即退学なんですけど?
分かって言ってる?
「あっ琴美! おはよう!」
「おはよう! 空ちゃん!」
「えっ!? ちょっと妹ちゃん、どうしたの?」
「躓いて転んだみたい。 香帆、大丈夫?」
「……うん」
姉は同級生に会った瞬間、あたしを見下す醜悪な顔からまぶしい笑顔に変えた。
白々しく手を伸ばすものの、『余計なことをしゃべるな』と目が言っている。
この変わりようはさすが女優だと感心する。
「相変わらず琴美ちゃんは優しいね。 こんなお姉ちゃん、あたしもほしいなぁ」
「えへへへ……そんなことないよ」
こんな感じで、姉もあたしのことを毛嫌いしている。
つまり、家族の中にあたしの味方はいないってこと。
---------------------------------------
味方がいないのは学校でも一緒。
「ねえ、香帆ちゃん。 お姉さんのサインもらってきてくれない?」
「なあ佐山。 俺に琴美さんを紹介してくれよ! マジ絶対大切にするからさ!」
あたし自身が口下手なのもあるけど、あたしに近づいてくる同級生はみんな姉が狙い。
町内じゃ有名な姉と接点を結ぼうと、一番身近にいるあたしをダシに使おうとしてくる。
でも姉との仲があれだから、その願いをかなえることはできない。
だから適当な理由付けて断ると、それ以降はあたしに目も向けない。
「なあ佐山……5万出すから、俺に琴美ちゃんのパンツを1枚くれないか? 頼むよ」
「佐山。 琴美ちゃんの裸写真を取ってきてくれないか? 先生、それ10万で買うからさ……いいだろ?」
中には姉を性の発散先にしようとする男連中もいる。
妹で同じ女のあたしなら、やろうと思えば手に入る。
正直、あんな姉の裸やパンツなんていくらでも売ってやりたいところだけど、それがバレたらあたしは間違いなく学校も家も追い出される。
頼れる人もいない中学生のあたしが1人、放り出されたらどうなるかくらい想像はできる。
だから渋々、あたしは断ることにした。
姉のことがなくても、学校生活も勉強するばかりで苦痛にしかならない。
同級生とは共通する話題が姉以外ないから自然と距離が空いている。
部活もこれと言って興味を引くものはない。
それは高校生になっても同じ。
あたしはいてもいなくても良い存在なんだ……学校でも家でも……。
---------------------------------------
高校1年の夏。
昼休みにあたしは人目を避け、校舎裏でひっそりと菓子パンを食べていた。
寂しい食事に見えるけど、誰もいない静かな校舎裏の方が落ち着くんだよね。
夏に入ったばかりとはいえ、セミの鳴き声もうるさいし、蒸し暑い。
校舎の日陰に入っているけど、マジで熱中症の1歩手前にいる。
「ねえ君!」
「えっ?……あっ! 西宮(にしみや)先輩……」
突然あたしに声を掛けてきたのは、3年生の西宮 豪(にしみや ごう)先輩。
外見はさわやかな黒髪清楚系イケメンだが筋肉質な体をしている。
そのギャップと親が金持ちっていう完璧なステータスもあって先輩を狙う女子は後を絶たない。
女子の中にはファンクラブまで作られ、”王子様”と呼ばれている。
だが先輩にはある噂が流れている。
それは寝取り趣味。
先輩は彼氏のいる女子生徒を言葉巧みにそそのかし、親の金と鍛え抜かれた体を餌に大勢の女子生徒を喰ってきたという。。
先輩に彼女を寝取られたせいで引きこもりになったり中にはショックで自殺する男子もちらほらいるとか……。
寝取った女達もしばらくしたら飽きて捨てるらしい。
中には妊娠させた女もいるとか聞いたけど、本当でも親が握りつぶしておしまいだろうね。
それで元カレと寄りを戻そうとする女もいるみたいだけど、成功例は1度も聞いたことがない。
そのことで何度か責められたことがあるみたいだけど、確たる証拠もないことと未成年ということもあるので大した騒動にはならない。
なんでも親が圧力で騒動を握りつぶしているとか……。
「君は?」
「さっ佐山 香帆です」
「あぁ……琴美ちゃんの妹か」
こんな男にも姉の存在感が強い。
この男も姉目的であたしに近づいてきたんだと思った。
「なんでこんなところでパン食ってんの?」
「……ここが一番落ち着くんです。
教室は騒がしいから……」
「そうなんだ……でもさすがに菓子パン1つじゃ腹が減らない?」
「そうですけど、お小遣いなんて持ってないし……」
「じゃあ俺が購買でなんか買ってくるよ。 ちょっと待ってて!」
先輩はそう言って走り去っていった。
あたしは特に気にせず、菓子パンを食べ続けた。
食べ終えた後は、昼休みが終わるまで空を眺めていた。
※※※
「お待たせ!」
しばらくしてから先輩が戻ってきた。
「パンばっかでごめんね? ほとんど売り切れてて、これくらいしか余ってなかったんだ。 よかったら食べてよ!」
先輩は笑顔で手に持っている焼きそばパンとお茶の入ったペットボトルをあたしに差し出した。
「いいんですか? あたしお金が……」
「いいよこれくらい。 俺がおごるよ」
あたしは焼きそばパンを受け取る。
袋を開け、あたしは焼きそばパンをゆっくりと一口かじった。
その瞬間、あたしの目から涙がポロポロとこぼれた。
すると先輩は馴れ馴れしくあたしの肩に手を回し、体をくっつけてきた。
目線もあたしの胸元にたびたび向けてくる……。
先輩からしてみれば、手軽に喰えそうな女をパンで釣ろうとしているんだろう。
普通ならセクハラで怒っても良いところだろう。
だけど、家族から冷たくされてから優しさに耐性がなかったあたしには心を鷲掴みにされるほど嬉しいことだった。
それが体目的であったとしても、あたしにとってはかけがえのない幸せだった。
---------------------------------------
それからもたびたびあたしは先輩と会うようになった。
会うたびに先輩は、購買やコンビニで買った食べ物や飲み物をあたしにおごってくれる。
どれもこれも安物ばかりで、中学生のお小遣いでも毎日買えるレベル。
それが金持ちのボンボンならば、金を使ったという感覚すらないだろうけどね。
先輩は食べ物を与えるだけでなく、あたしの悩みや苦しみも聞いてくれた。
主に家族のことだけど、先輩は聞いてくれていた。
とはいっても……相槌を打って適当に聞き流しているだけだったけど、それでも話せる相手がいるだけであたしは満足だった。
---------------------------------------
「香帆……好きだよ」
「あたしも大好きだよ? 豪」
校舎裏で先輩と出会ってから数ヶ月後、あたしは先輩……豪に女を捧げた。
放課後の体育館倉庫というベタでロマンの欠片もない場所だけど、あたしは幸せだった。
でももうあたしにとって、豪は誰よりも大切な人なんだ。
体目的の軽薄な男でも構わない!!
この人はあたしを見てくれている。
それだけであたしの心は満たされる。
だからあたしは心の中で誓った!!
『豪のためなら、あたしはなんでもやる!!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます