求人:私を甘やかしてくれる人! ~時給2000円で学園の天使を甘やかすことになった~
yysk
第1話 拾った子猫を甘やかすなどの虐待
子猫を拾った。
弱りきった小さい黒猫だ。黒ずんだぼろ雑巾のごとく汚れており、みぃみぃとか細い声で鳴いているのを見つけてしまった。
これは虐待するしかない。俺は道端に落ちる黒モップさんを拾おうと手を伸ばした。めちゃくちゃに引っかかれた。
こっ、こいつ……! 生意気な……!
弱りきっているくせに人間サマへの反抗心だけは強かった。ガッツがありすぎる。
しかし俺をそんじょそこらの奴と同じにしてもらっちゃ困る。
俺はかなり根に持つタイプ……これだけ手を引っかかれたのだ。見逃してやるわけにはいかないだろう。
心ゆくまで虐待してやる……! 俺はそう心に誓った。
体力がないからか、俺の手を傷だらけにしただけで黒猫さんは満身創痍だ。
しめしめ。抵抗も弱い。今度は手を引っかかれることもなく触れることができた。
ハッ! 雑魚が! 俺は両手ですくいあげるように黒雑巾さんを抱え上げて自宅に急いだ。
嫌がる小さな女の子を家に連れ込むわけだからな。誰かに見られてはいけない。
とりあえず薄めた砂糖水を飲ませる。
おうおう、ずいぶんと嫌がりやがって。しかしスポイトを使ってむりやり飲ませる。
ただ、それだけでは気が済まない。逃げ出さないようにと姉に監視を頼んで買い出しだ。
猫用の虐待道具なんてニッチなものは常備していないからな。スマホ片手に必要そうなものを揃えたら急いで帰る。
栄養失調のところにいきなり多くの栄養を摂取すると様々な症状を引き起こすことがある。
リフィーディング症候群なんて言うそうだ。今調べたら出てきた。あっぶねぇ〜。
やっぱりちゃんと病院に連れて行かないとな。できるだけ長く楽しませてもらうつもりだからなぁ……!
ということで最低限のことだけしてとある施設に連れて行く。
一様に白い服をまとった集団が営む異様な施設だ。嫌がる子猫を押さえつけ、強引に針を突き刺して薬品を注入している……。
家に連れ帰って様子を見る。
思い出したかのように暴れる雑巾さんをなだめてタオルを敷いただけのダンボール箱の中に入れて眠るまで監視する。
ここまで人間嫌いなんだ。眠るまで監視されるなんて心が休まることはないだろう。
ただでさえ俺は凶悪な人相をしている。猫に通用するかどうかはわからないが……。
通用しなかった。
スッヤスヤで草。そんな言葉が出てくるほどにすやすやと眠っていた。
布団を持ってきて貧相な寝床で眠るゴミ袋さんが脱走しようとすればすぐに対応できるようにして俺も眠る。
ちょっとずつ食べさせる量を増やす。
とりあえず峠は越えただろうか。そう判断すれば丸洗いだ。
黒猫さんのせいで俺の家ははちゃめちゃに汚れてしまっている。
軽く拭きはしたがその程度で消える汚れではない。
しかしこの弱りきっている状態で丸洗いというのもかわいそうだ。
あ、間違えた。かわいそうとか言っちゃダメだな。
あー……せっかく拾ったんだから楽しむ前に死んだら困るとか?
でも死ぬとか縁起でもない言葉はできるだけ使いたくないよな。
というわけで、ネットでよく見るネタのように子猫を拾って甘やかした。
ここまで読んでくれた読者諸君は俺のことが好きになってくれていることだろう。
俺はたまに不良だと勘違いされることがある。
つまり不良が悪態をつきながらも弱りきっている子猫を拾ったわけだ。ギャップ萌えだな。好感度急上昇間違いなしだ。
つまり俺が子猫を拾ったのはモテたいからという理由も多分に含まれる。
もちろん、たまたま見つけて見捨てることができなかったっていうのもあるが……こんなに弱りきった子猫を見ると甘やかしてやりたくなるだろ?
かわいいものを甘やかしてやりたくなるのは人類共通の欲望だと言えるだろう。
漫画とかでもそういうのはよく見るよな。ファンタジーものとかで奴隷の女の子においしいものを食べさせたりして甘やかすのは定番だ。
雨の日に拾ったウチのバズ子さんは今日も姉の布団の上で丸くなっている。
俺は欲望に弱い。だからバズ子のこともでろでろに甘やかしてしまった。
拾った頃、弱りきっていた姿なんて今や思い出せないほどだ。
まあ、死にそうになるくらい頑張ったんだ。ウチで甘い余生を過ごしてほしい。余生って言うにはまだまだお子ちゃまだけどな。
まあ、ウチの黒猫さんのことはいいとしよう。
俺の好感度を稼ぎたかっただけだからな。忘れてくれて構わない。
俺にとっては世界一かわいい天使だが――これから話す物語に関わるわけじゃないからな。
天使と言えば……ウチのクラスには『天使』と呼ばれる女の子が居る。
ウチのバズ子さんに匹敵するくらいにかわいく、そして――俺が拾う前の彼女と同じくらい頑張っているように見える女の子が。
人から好かれ、頼られ、すべてに応える優しい天使。
陽光で紡がれたような金髪に、夏の空を落とし込んだような青い瞳。
見ていると比喩じゃなくほんとうに天使なんじゃないかって錯覚するようなアイドル顔負けの美少女だ。
くりくりとした、少しタレ目がちな大きな瞳は彼女の優しさを表すようで、見るものすべてに癒やしを与える。
ほんの少し目線を下に向ければ癒やしの象徴とも言える大きな果実が実っているが、俺をしてそれを目にすると罪悪感を抱いてしまうほどに『天使』という言葉が似合う女の子。
天羽優衣。万人に愛される我らが天使。
そんな彼女が、今、俺の目の前に居る。
「――私のことを、甘やかしてほしいの」
緊張から震える手を胸の前で握りしめて、彼女は願うようにそう言った。
人間は天使なんかじゃない。
その日、俺はそれを知った。
俺だけが、それを知ってしまった。
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