第90話 過去編:孤児の生き方
ベルセルクという名前をこの世界の誰が名付けたのかは分からない。けれどピッタリだと思った。
俺はこの劣悪な環境に絶望し、空はいつもより何だか鈍い色をしている様に感じた。
帝国のスラム街に生まれた。
親の顔も形も分からない。物心ついた頃には俺は恩人と呼ぶ男の元に居たからだ。
今はもう10歳になった。
体はまだ細くて小さくてみすぼらしい。
街を歩く人達は裕福そうで、俺たちの事なんてどうでもいいのだろう。蔑んだ目でこちらを見てくる。それもそうか、こんな汚い格好を見たら関わりたくないのもわかる。
そんな俺にも義理の妹がいる。
名前はチーシャ。兄貴の俺が言うのも身贔屓の様だが容姿端麗というのは彼女の事を言うのだろう。
だから野郎に狙われやすい。
奴隷商や気持ちの悪いロリコンに何度も狙われ攫われかけた。その度に恩人が腕っぷしで助けていた。
俺にも力があれば…。
この世界で一番強くなれたら俺はチーシャを守れるのかな。
恩人みたいに強くなれたら、世界だって俺に微笑んでくれるのかな。
世界はこんなにも不平等で理不尽で醜い。
争いは終わらない。人間同士でも。魔物相手でも。神様相手でも…。
ある時、誰かが神様に反旗を翻した。
最高神様の一柱を殺した。そのせいでこの世界は争いが絶えなくなった。
誰かが言った。
最高神様の妻である女神の恨みを買ったのだと。その方は戦いの女神様であると。
だから、人類は罰として争い続けなければならないのだと。
そして、その最高神様を殺したのは、神に敵対する魔神の化身だと。
神々は強大なる魔神を封印すべく器を探しているのだと。スキルを司る神々は、魔法を司る者ラプラスに相談したのだと。
この話は昔話として言い伝えられている。
どんな貧しい子どもでも聞かされる話であった。
まぁ俺には関係ないか。
今日を生きるのに必死で、余裕なんかない俺にこの世界のことなんて考える事は出来なかった。
ある日、恩人がやってきた。
何やら仕事があるらしく手伝って欲しいと。
でも俺は妹と離れる仕事はしたくない。
話を聞くと案の定、街絡みの仕事で、妹と少しの間離れなくてはならなかった。
少しの間、恩人が妹を見ていてくれると約束してくれた。流石にいつもは恩人にばかり頼るのは申し訳なくて、チーシャは俺と行動を共にしていた。
何故か珍しく恩人は自分から妹を預かる様に提案してきた。怪しむなんて考えはなかった。
命の恩人だからだ。
仕事から帰ってきた。
チーシャの姿はどこにもなかった。
必死に探した。
街中を探し回り、幼いチーシャが行けない所だろうが探した。
それでも居なかった。
俺は考えたくなかった。一番可能性があるが、否定したい。そんな事実を。
「恩人……。」
俺は恩人の元へと向かった。
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