第54話 薔薇崎の心情

 ※薔薇崎ルイ視点です。


 ハンターズバトルトーナメントという日本で一番強い探索者を決める大会が開かれるという通達がハンターズギルドから来た。


 日本において最強の俺っちはこんな大会なんて優勝して当たり前だ。


 いずれ世界最強になって、日本人の可愛い女の子も外国人のキュートな女の子もぜーんぶ俺っちの奥さんにしてやる。


 意気揚々と大会へと出場し、ついにトーナメント表が告知された。


 対戦相手は今まで正体不明だった世界一の男。


 対して俺っちはランキング19位。


 でもそんな大差なんてある訳がない。

今回も今まで喧嘩を売ってきた男達と同じ様にボコボコにする。


 1回戦が始まるとなかなかレベルの高い戦闘が始まり、来場した一般人も目を開いて驚いていた。


 中には可愛い女の子も居て、俄然やる気が出て来たよ。

 

 戦いも次々と終わり、いよいよ俺っちの番がやってきた!!


 よーっし!可愛い女の子達に良い所見せちゃうよー!!


 サエちゃんとエリちゃんは俺っちの事が好きだから武闘場まで一緒に来てくれる。


 おっと対戦相手に一応挨拶でもしとこうか。


 「アンタがランキング1位の人?俺っちは薔薇崎ルイ。アンタを超える男だよ。今はまだランキング19位だけど、いずれ超えちゃうから。」


 「そうか。頑張れよ。」


 は?それだけ?この俺っちが挨拶してるのに。


 しかも、目も合わせない。なんて失礼な奴だ。はーん。興味ないってか?俺っちユニークスキルだって二つも持ってるんだぜ?


 「ふ、ふーん。今から俺っちの力を見せてあげる。その興味なさげな顔をギタギタにしてあげるから。」


 「そうか。頑張れよ。」


 カッチーン。絶対にボコボコにして、サエちゃんとエリちゃんと会場の可愛い女の子の前で跪かせてやる。


 奴は武器も持たずに武闘場へ上がった。


 「武器も持たずに舐めやがって。」


 戦いが始まった。一気に片付けてやる。


 『剣聖』スキルで頭ごとぶった斬ってやる。

奴の頭目掛けて、一刀両断した……かに見えたが奴は簡単に剣を掴む。


 掴まれた剣は押しても引いてもビクともしない。なんだよこの力。ありえねーよ。


 いよいよ本気を出しちゃうもんね。


ありったけのバフを自身にかけ、ステータスを上昇させた。


 今まではこれで対処できたが、相手はランキング1位の男だ。


 念には念を入れてユニークスキルも惜しみなく使う。


 この状態の俺っちは全能になったかの様な高揚した気分になる。


 とっておきを出させるとは流石ランキング1位。でも終わりだよ。


 全ての経験と本気中の本気の剣術で倒す。

虚実を交えた最高の剣術で奴をバラバラにする。


 絶対に俺っちの勝ち。



 は?


 俺っちの本気の剣術がたったの指2本で防がれた?


いやいや、あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない!!!


 その時、急に胸に激痛が走った。

 奴の指が胸に刺さっていた。


 指が?胸に?いつ、いつ?いつ!!!


 分からない分からない!

意味がわからない。理解が出来ない。したく無い。


 すぐさま逃げる様に距離を取る。


 いや、こんなに遠いはずが無い。

俺っちと奴の力はそんなに離れている筈がない。


 根気強く攻めるも、尽く容易に潰され、肉体的にも精神的にも疲弊し絶望する。


 「か、勝てるわけねぇよ!!こんな化け物に。俺っちのひ、必殺スキルをあんなに簡単に、しかも素手でなんてあ、ありえねぇ!!助けてくれサエちゃん!なぁ!助けてくれエリちゃん!!」


 思わず自分に好意を持っている女の子達に助けを求めてしまう。


 酷く歪んだ顔でこちらを見てくる。

失望した。そんな目で。


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


 体は震え、恐怖の権化がこちらを見てくる。

その時、奴の眼を見てしまった。


 脳内に血の様に赫く暗い空間と様々な者の死体と戦いに明け暮れる奴の姿が映し出された。


 幻覚だろう。

でも人はそれを『修羅』と呼ぶのだろう。


 「そろそろ終わるぞ。」


 その言葉を最後に俺っちの記憶は途切れた。



          ✳︎


 意識が目覚めたのは、病院のベッドの上だった。


 あの武闘場の魔道具のお陰で、現実的な死は免れたようだ。


 でも俺っちはもう……。


 俺っちには何も残っていなかった。

可愛がっていた女の子もそして戦意も闘志も。


 正直、最後何をされたのかすら分からなかった。


 ただ指が動いただけ。


 はぁ。もう探索者は辞めよう。


 ……俺っちはもうこれからどう生きていくのか分からなくなった。



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※トーナメントの都合上、訂正しました。


トーナメント1回戦、2回戦という表現が分かりづらいのと可笑しいと思ったので

1回戦1組目、2組目という表現が適切なので修正しました。


あとトーナメント方式で総勢20名はおかしいため、16名に減らしました。


今後ともよろしくお願いします。









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