第41話 不動の周辺では

 ハンターギルド日本支部は、某インターネット掲示板のコメントに興味を持った。


 「つ、ついに見つけたぞ。阿空不動か。手間取らせおって。」


 「服部副支部長。どうなされるおつもりで?」


 「そんなもの決まっておるではないか。首根っこ捕まえてでもここに連れて来るんだよ!!たかが探索者一人だ。ギルドの名前を出せば向こうから頭を下げて喜んでくるだろ。」


 ニヤニヤしながら未来を予測、いや、妄想する服部。


 「そんなに上手くいきますかね。私なら絶対に相手にしませんが。」


 「お前如きが俺の考えを推し量るな。減給処分にするぞ。」


 (はぁ。パワハラセクハラのこの馬鹿がランキング1位に喧嘩を打って、クビにでもなってくれればなぁ。)


 「すみません。以後気をつけます。」


 「当たり前だろう。で、いつまでに連れて来るんだ?」


 「努力はしてみますが、確約は出来ませんよ。彼と繋がりなんて無いんですから。」


 「だぁかぁらぁ〜、ギルドの名前出せば連れて来れるだろぉがぁー!!!」


 (はぁ。うざ。)


 「どうなっても知りませんよ。」


           ✳︎


 (これが阿空不動の家…。高層マンションとは。両親が会社経営者だと調べはついていますが。)


 テレビ局の指示で不動の情報収集及び、接触、交渉に来た。


 君嶋伊織、24歳、彼氏無し、ユニークスキルあり、趣味はカメラ弄りとカフェ巡りが好きなごく普通の女性だ。

 

 (よし。ここの住民ですね?一緒にマンションに入ろうっと。)


 侵入に成功し、あとは不動の部屋を見つけるだけ。


 「おにい、今日ゴミ出しの日だから捨ててきてー!お母さんもお父さんももう仕事行っちゃったからー。」


 「ほーい。お兄ちゃんに任せろー。」


 玄関のドアを開け、ゴミ袋を出しに外に出る。


 ロビーでうろちょろしていた君嶋は写真を取り出し、不動の顔を確認する。

 

 不動はゴミ捨て場からマンションへと戻り、君嶋は部屋まで尾行する。

 

 部屋の場所は分かった。あとは待機して細かな情報を得ていくだけだ。

 

 (ふっ。今回も余裕ですね。またまたボーナスゲットぉ。なーに買おっかな〜。)


 「おい。さっきから居るのは分かってんだぞ。姿を現せ。でなければ殺す。」


 (え?)


 「3秒以内に現れなければ殺す。3.」


 (本当に気づいてる?やばい。)


 「2.」


 (やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。)


 「1.」


 急いでスキルの空蝉を解き、姿を現す。


 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」


 「んで、誰だてめぇ。隠れてコソコソつけまわりやがって。」


 「私は怪しいものでは、いや、つけまわったのは確かに悪いと思ってますが……ごめんなさい。」


 「んで君嶋さんは何で俺のストーカーをしてんだ?」


 「え?私まだ名乗ってませんよね。ってかストーカーなんてしてませんと言ったら……嘘になりますよね…。私の名前は君嶋伊織きみしまいおりです。趣味はカメラ弄りとカフェ巡りです。彼氏募集中です!!」


 元気よく挨拶をする君嶋。


 「そんで目的は何?」


 「えっと、私テレビ局で働いていて、貴方の事について番組にしたいな〜なんて。はい。ごめんなさい。それでストーカーしてました。」


 「なるほどな。なぁ君嶋さん。別に俺の事は良いんだけど、家には妹もお袋も親父もいる。このままプライベートに土足で踏みにじるなら…わかってるよな?」


 生物としての格が違う。捕食者と被捕食者。不動の魔力に君嶋の体はブルブルと震え出す。


 「は、はい。ごめんなさい。も、もう帰ります。」


 「出直してきな。今後、俺の周りに被害があればテレビ局ごと潰すからな。」


 君嶋は全身から冷や汗をかき、青白い顔でテレビ局へと帰っていった。


 「ちょいやりすぎちまったか?まぁ仕方ねぇか。」


 一日後。


 ハンターギルド日本支部のスカウト部門の職員である君室きみしつレイと下谷哲也しもやてつや


 「ここが阿空不動の住んでいるマンションか。たけぇな。こんな良いマンションに住んでるのか探索者如きが。」


 「マンションの管理者には話は通してあるし、部屋もわかっている。おい下谷、部屋に行ってこい。」


 「わ、分かりました。では行って参ります。」


 下谷は不動の部屋の前でモジモジしながら呼び鈴を鳴らした。


 「はーい。ちょっと待ってくださいねぇ!」


 ガチャっと扉を開ける詩秋。


 「えっと、どなたでしょうか?」


 「わ、わたくしはハンターギルドの者で下谷と申しますが、ふ、不動さんはご在宅でしょうか?」


 汗を拭き取りながらオドオドと話す下谷。


 「ちょっと待ってくださいね。おにい!ハンターギルドの方だってぇ!!」


 部屋の奥から出てきた不動。


 「なんだ?ハンターギルド?なんだそれ。んで、ハンターギルドの人が何の用事?」


 「あ、あの不動さんにはハンターギルドの副支部長から呼び出しが掛かっております。」


 「は?なんで?」


 「い、以前、赤龍と黒鬼を討伐していらっしゃるので、その事についてお聞きしたいのだと思います。」


 「行かねぇ。めんどくせぇ。俺は俺の好きにやりたい様にやる。聞きたければ菓子折り持ってそっちが来いと伝えろ。じゃあな。」


 バタンと部屋の扉を閉める。


 下谷はロビーで待っている君室の元へと戻る。


 「下谷、阿空は?」


 「い、いえあの、用があるなら副支部長が来いと言われました。」


 「あぁ?ふざけてんのか。探索者如きがよぉ。下谷てめぇもてめぇだ。何言われたまま帰ってきてんだよ。」


 激怒する君室は不動の部屋へと向かい、呼び鈴を連打する。


 「もしもーし、阿空くーん。ハンターギルドの者ですがぁ、来てもらえませんかねー?」


 扉を開ける不動。


 「誰だてめぇは。」


 「なんだその口の聞き方はぁ。探索者如きがよぉ。お前ら誰のおかげでダンジョンの素材の買取をしてもらえると思ってんだぁ?」


 「買取なんてしてもらってねぇよ馬鹿が。」


 「お兄ちゃん辞めよ!ご近所さんにも迷惑かかっちゃうよ!」


 「お?きゃわいいお姉さんだねぇ。今から飲みに行かない?」


 詩秋の胸元に君室の手が伸びる。


 「俺の妹に触んな汚ねぇ。」


 「あぁ?なんだとぉ!!」


 殴りかかる君室だが、不動は埃を払うかの様に拳を受け流す。

 魔力を少し放つと、君室の体はガタガタと震え、お尻が歪に盛り上がる。


 「2度と来るんじゃねぇ。」


 再度、扉を閉める不動。


 こうしてハンターギルド日本支部の馬鹿者は支部へと帰っていった。


 「絶対ゆるさねぇ。副支部長にチクッて家族諸共始末してやる!!」


 帰社中に不動への復讐を、いや、逆恨みを誓うのであった。










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