第33話 阿空家と日本支部と

 不動が烈火龍を討伐して、丸一日が経った。

風属性魔法で空を飛び、家路についた不動は高層マンションの自宅ベッドで目が覚めた。


 東京都中央区の自宅には3年ぶりに帰った。

父母妹は留守のようだ。

 

 「くぁああ。よく寝たな。久しぶりの我が家にリラックスしてたな。というかよく3年もいなかったのに俺の部屋を残してくれてたな。」


 何気なくテレビをつけ、歯磨きと洗顔をしに洗面所へと向かう。


 “昨日、岐阜県を襲い破壊し尽くした赤龍が愛知県へと向かい……”


 歯を磨いていると先ほどつけたテレビから昨日の戦闘が報道されていた。

 朝のニュース番組でコメンテーターが我が物顔でコメントしていた。


 “この戦闘はハンターギルドが威信をかけて様々な探索者を愛知県に召集した訳じゃないですか。ハッキリ言ってね、全然守られてないですよ。結局正体不明の男に守られた訳ですよ。

 良いんですかね〜?これじゃあ多額のお金を払っている意味がないですよ。

 そんなことより、もっと岐阜県の復興にお金をかけた方が私は良いと思いましたね。”


 “まぁ確かにそう言った声もネットには散見されていましたけど、自衛隊の真田さんはどう思われますか?”


 “私は探索者の役割として、果たせてないとしてもあの赤龍に立ち向かうだけでも凄い事だと思っていますよ。我々自衛隊でも出来るかどうか。尊敬に値します。でも彼は一体誰なんでしょうかね?あんなに強い人間は見たことがありませんよ。

 それと岐阜県の復興も現在では着々と進んではいますから、あとは生き残った方々への支援は国がしていますので、全く別の話になってきますよね。”


 “まぁそうかもしれませんがね。でもこのままなら探索者としての存在価値が一気に下がるのではと心配してますよ。国民を守るのが自衛隊と探索者の役割ですから。その為にハンターギルドに各国が莫大なお金と支援をしている訳ですからね。もっとダンジョンに潜ってレベルアップしてもらわなきゃ国民は納得しませんよ。”


 “えぇー申し訳ありませんが、白熱してきた所で一旦CMです。”


 興味を失ったのか不動はテレビを消す。


 「近頃のコメンテーターは自己中心的で何かを気にしながらコメントしてるだけだな。まぁ俺には関係ないけど。」


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 ハンターギルド日本支部


 「まだ見つからんのか?あの黒髪の男は!!本部にも責付せっつかれているのだ。早く見つけないと私の首が飛ぶではないか!!」


 部下に激怒しているのはハンターギルド日本支部の副支部長である服部五郎。

 禿頭にちょび髭でギルドのスポンサーや上司へのゴマスリでのしあがった無能。


 「そんなこと言われましても、誰も分からないですし、今まで存在すら知らなかった訳じゃないですか。探してはいますから待つしかないですよ。」


 「ムキーっ!!お前らは黙って俺の言う事聞いてろよ!!早く探せ!何としてでも探し出せぇえええ!!」


 (はぁ。もうこんなパワハラの下でなんか仕事したくないわね。辞めちゃおうかしら。)


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 不動は3年間で何があったのか妹に聞こうと思い、自宅で待っていた。


 「ただいまーっ。」


 妹の学校が終わり、自宅へと帰ってきた。


 「おう、おかえり詩秋。久しぶりだな。」


 「え?お兄ちゃん?」


 クリーム色の髪色でゆるふわヘアーの可愛い童顔の妹。


 お袋に似て、綺麗でスタイルの良い自慢の妹だ。


 「ははは。びっくりするよな。まぁ色々あって帰ることができなかったんだよ。」


 「びっくりしたよぉ。いなくなって寂しくて、お父さんもお母さんも探し回って。心配したんだよぉ。おにいのバカ!!」


 「心配かけたな。ごめん。これからは俺がお前を守るから。」


 詩秋へと頭を下げ、詩秋の頭を胸に寄せ、泣いている彼女を慰める。


 少し時間が経ち、詩秋が落ち着いた所で、不動は話を切り出した。


 「なぁ詩秋。親父とお袋は元気か?」


 「うん。前と変わらず仕事が忙しくて中々会えてないけど、たまに元気な顔を見せにくるよ。でもおにいが居なくなってから現実逃避で仕事に夢中になってるみたい。」


 「そうか。2人にも悪いことしたな。」


 「ねぇおにい。何があったの?」


 不動はこれまでの出来事を思い出して説明した。


 「なんでそんな門なんかに入ったの!!閉じ込められたって何!!もしかしたら本当に死んじゃってたかもしれないじゃない!!!」


 「わ、悪かったって。反省してる。」


 「その言い方をしてる時のおにいは反省なんてしてない。どうせまた行くんでしょ?もう諦めてるよ。」


 「ま、まぁな。流石我が妹。お兄ちゃんのこと良く分かってるぅ〜。」


 「なんか腹立つ。でもお母さんとお父さんにはちゃんと説明しなきゃだめだよ?」


 「あぁ、分かってる。」


 妹の詩秋に3年の間に起こった出来事を細かく聞いた。


 自身の体感ではたったの数ヶ月潜っただけだったのに、現実世界では3年もの月日が経っていたのには驚いた。


 「昨日ネット配信で戦ってるのを見てた。

 姿はおにいだったけど、あんなに強い人がおにいだなんて信じられなかった。それもさっきの話と関係があるのね。」


 「そう。俺はどうやらこの世界を守らなくちゃいけないみたいだ。それに、詩秋も親父もお袋も全員俺が守るよ。」


 「あんまり無理しないでねおにい。おにいが死ぬなんて嫌だからね!!絶対に死なないでね。」


 「あぁ!任せろ。」


 夜になり、親父とお袋が帰ってきた。
















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