第1話 始まりはいつも突然に

 令和33年9月9日9時丁度。岐阜県某所。

物語はそこから始まった。

 地面がひび割れ、空が鮮血の様に真紅の色と化す。




 木々は脈動する空気に震え、誰も彼もが

「異常」だと理解する。




ゲート』。


 人々からはそう呼ばれる事となる迷宮への入り口。


青く光り輝くそこ異界へと通じる穴。


 突如として現れたその門には、日本国のみならず世界が注目した。





 探索の為、派遣された自衛隊員は帰ってこなかった。



一人を除いて。



 帰還したその隊員は、政府が開いた会見でこう語った。



「も、門の中は、ば、化け物がウヨウヨといた。 我々はあまりの恐怖に逃げ惑い、殺された。どうすれば良いのかわからず、ただただなす術なく殺されただけだ!!もう話は良いだろ!!忘れたいんだ!!全てを忘れたい…!!た、頼む!!もう構わないでくれ。」






 翌日、隊員の自宅から一つの遺体が見つかった。


 警察はこれを自殺と断定し、探索を強硬した政府は国民から非難された。


 遺書には、


(死んでいった仲間のためにも生きた証としてここに体験したことを綴る。

 ゲートの名前は侵入した時に、情報画面的なホログラムの様な物で確認した。


そして、まるでゲームのようで使い方が頭にインプットされたかのように理解できた。


 門の名前は、【鬼月おにづきのダンジョン】。


門の中には、武器を持つ化物や鬼と思しき怪物が沢山居た。

 何故か銃弾は通じず、通常兵器がまるで通用しなかった。


 俺は格闘術のみで生還したが、仲間は殺され、体はバラバラにされ、化物共の玩具にされた。食われるわけもなくだ!!


 死ぬ前にせめて、この知り得た情報だけは書いておく。

それとお袋、親父、ばぁちゃん、じいちゃん、今までありがとう。


 でも、もう思い出したくないんだ。仲間が殺され、逃げてしまった自分をもう責めたくないんだ。

 卑怯な息子でごめん。

今まで育ててくれて本当にありがとう。

あなたたちの家族で良かった。」


と書かれていた。




 遺書を発見した政府は、直ちにゲートの周りを封鎖した。

幸か不幸か、暫くは犠牲者も出なかった。








 ある日、封鎖したはずのゲートの色が青から禍々しい赤へと変化する。地鳴りが轟き、門が現れたその時と同じ様に、いやそれよりも悍ましい赤黒い血痕の様な色の空へと変貌した。




 赤色の門からは次々と化物が歓喜の声を上げて飛び出してくる。

逃げ惑う人間達をさも、屠畜する様にと

数を減らしていく。



一つの市が一日で滅んだ。

一つの県が一月で滅亡した。


あらゆるライフラインが途切れ、食料は我先にと強奪した欲張りな人間に貪られた。


残された道は、唯一つ。


化物を狩る事だった。



 誰かが言った。

魔物を倒すと【ステータス】が現れた。


 誰かが言った。

魔物を倒すと【スキル】が現れた。


 誰かが言った。

魔物を倒すと【レベル】が上がり、【存在格】が上がると。


 人々は門から得られる報酬を求めて

欲望と混沌を身に纏い、時代は【ダンジョン全盛期】へと移り変わっていった。


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