第五話 俺の妹、今日もぶっ飛んでるんだが
朝妃と別れ、俺とへレザは電車を乗り継いでとある町にやってきた。今日妹に会うのは、漫画のやり取りをするためだ。
「カナメさんの妹さんと会えるのが、楽しみです! わくわく」
「ああ、言っちゃなんだけど、めちゃめちゃ変な奴だぞ」
「そ、そうなんですか〜! でも人間、少し変わっていた方が面白かったりしますよね」
雑談しながら、待ち合わせ場所のカフェへと向かう。携帯のメッセージアプリを開くと、妹の
カフェに到着して、店員さんに待ち合わせていることを伝えると、「こちらへどうぞ」と案内してくれる。
四人掛けのテーブル席に、由季はいた。
ショートボブに整えられた、夜空を想わせる黒い髪。大きな黒い瞳は、吸い込まれてしまいそうなミステリアスさがある。着ている高校のセーラー服はシンプルなデザインながら、彼女が着るだけでとても洗練されて見えた。
由季も俺たちに気付いたようで、眠たげに欠伸をしながら手を振ってくれた。俺とへレザは並んで席に腰掛ける。
「……兄さん、ぼくは嬉しいよ」
「え、なんかいいことでもあったのか?」
かしこまった表情で頬杖をつく由季に、俺は尋ねる。由季はにやっと笑って、再び口を開いた。
「だって兄さん、ついに彼女ができたんだよね?」
「……ん?」
「〈知り合いを連れて行ってもいい?〉というメッセージが来たとき、ぼくはすぐに察したよ。『これ、どう考えても彼女じゃん』ってね」
「ん、え、は、いや違うが!?」
俺は慌てて否定する。隣のへレザを見ると、耳が赤くなっていた。
「よかったよ、兄さん。正直なところ、兄さんはワンチャン一生童貞なんじゃないかなと心配していたんだよね」
「兄に関して妹がそんな心配をしなくていいんだよ!」
「ん、どーてーって何ですか、カナメさん?」
「あああああ、そんなこと俺に聞かないでくれ!」
「おや、きみは童貞という言葉の意味を知らないの? ふふ、そうしたらぼくが教えてあげるね」
「そんなことを日中から教えないでくれー!」
俺は頭を抱える。由季は「しょうがないな、それなら今晩教えてあげる」と微笑んだ。へレザが「わーい、嬉しいです〜!」と言っているのを聞きながら、相変わらずこの妹やべえ……とこっそり思った。
「あ、失礼、自己紹介がまだだったね。ぼくは樫木由季。兄さん――樫木要の妹だよ」
「ユキさんですか、よろしくお願いします〜! わたくしはへレザ=ティールアノン。へレザとお呼びください」
「わかった、へレザさん。どうぞよろしくね」
そう言って、由季は淡く微笑んだ。由季は先述した通り恐ろしく顔立ちが整っているので、ちょっと笑うだけで兄から見ても「美しい……」となる。まあ喋ると残念なんだけど。
「そういえば、一人称が『僕』の女性ってちょっと珍しいですよね!」
「ああ、これは意図的にやっているからね」
「意図的、ですか……?」
「そう。言うのも何だけれど、ぼくはやっぱり見た目がとても麗しいからさ」
「本当に『言うのも何だけれど』だったな」
「確かにね。まあそんな美人さんがボクっ娘だったら、うぶな男の子の性癖を歪められるかもしれないでしょ? だからぼくって言ってるの」
「なるほど、よくわからないですが、そうなんですね〜!」
「へレザには一生わからないままでいてほしいな」
半眼の俺に、由季は「そういえば二人とも、何を飲む、もしくは食べる?」と言ってメニューを渡してくれる。
「俺はブラックコーヒーかな」
「わたくしは、ここにある四種類のケーキを全部食べたいです〜!」
「頼むから一つにしてくれー!」
俺の言葉に、へレザは「一つですか、うーん、悩みますね〜」と難しげな表情をする。既に紅茶らしきものを頼んでいる由季は、そっとそれを飲んだ。
「そういえばへレザさんは、何者なの? 兄さんの大学の友人?」
「あー、えーと……」
どう説明するか悩む。正直なところ、「異世界からやってきた魔法使いの少女」という存在を、一人で抱え込むのも大変だった。由季はぶっ飛んでいるが常識人ではあるし、何より口が堅いので、正直に話してみることにする。
「由季、今から話すことは全て秘密にしてほしいんだが」
「了解。口外しないでおくよ」
「ありがとう。……その、へレザは、異世界から来た魔法使いなんだ」
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