第三話 金髪美少女が家のみならず大学にまでついてきたんだが
「ん、ううん……」
目覚まし時計の電子音を止めながら、俺はゆっくりと目を覚ます。なんか昨日の夜、すごい疲れることがあった気がする。もしかして、夢だったのだろうか――
と思ったのも束の間。金髪ロングヘアの美少女が、視界にドアップで映し出される。
「う、うわあああああああああ!」
驚いて叫んだ俺に、へレザは花が咲いたような微笑みを浮かべた。
「おはようございます、カナメさん!」
「お、おはよう……何でそんな近くにいんの?」
「肌が白くて綺麗だなあと思って、ついじっくり見てしまいました! えへへ〜」
へレザはようやく、俺から離れる。俺は嘆息しながら、上体を起こした。へレザにベッドを譲って床で寝たから、なんか全身が若干強張っている気がする。ストレッチをしながら時計を見ると、十時過ぎを示していた。
……あれ? なんか予想していた時間より、一時間ほど進んでいるような?
血の気が引いていく。おそらく目覚まし時計をセットする時間を、一時間間違えたのだろう。昨晩はへレザの存在に色々とどぎまぎしていたから、こういう凡ミスがあるのも頷ける。
とかいう分析をしている場合ではない! 二限があるんだよ二限が! 俺は慌てて立ち上がった。
「ごめんへレザ、俺大学に行かなきゃいけないから、帰ってくるまで家で待ってて!」
「そういえば昨日もおっしゃっていましたけれど、だいがく……って、何ですか?」
「大学は色々学ぶところなんだけど、実際には学んでる奴より遊んでる奴が多いみたいな、そういうところ!」
鏡の前に立って、ぼさぼさのブルーグレーの髪を
「なるほど! わたくしも行ってみたいです、その『だいがく』とやらに!」
「ええっ!?」
俺は驚いて、へレザの方を見る。彼女は桜色の目を輝かせながら、俺のことを見つめていた。
「いやでも、どうなんだろ……? へレザはうちの大学の学生じゃないから、見つかったらワンチャン怒られるんじゃないか?」
「怒られてもおっけいです! 怒られるのには慣れていますから〜!」
胸を張りながら若干悲しいことを言うへレザに、俺は顔を洗いながらどうしようか考える。
「それにわたくし、連れて行っていただけなかったら、悲しくてこの部屋で炎の魔法の練習をしてしまうかもしれません……」
「了解だ、共に大学に行こうじゃないか!」
親指を立てた俺に、へレザは「うわーい、やったあです!」とぴょんぴょん飛び跳ねる。鏡を見ると、とても微妙な表情をした自分が写っていた。洒落になっていなかった。
◇
授業開始一分前に教室に滑り込み、「授業中にお喋りをすると、『大学の死神』に命を刈り取られます。だから静かにしていてくれ、頼む」という嘘をへレザに伝えて、しんとした彼女の隣で講義を受けること一時間半。授業が終わり、俺はノートと筆箱をリュックサックに仕舞う。
「カナメさん、カナメさん。後ろにいた学生さんたち、普通にお喋りしていましたけれど、このあと命を刈られちゃうんですか……?」
「うん、そうだ。へレザはああならないように気を付けるんだぞ」
「ひゃあ、とても怖い場所です、『だいがく』……!」
リュックサックを背負って、教室の外に出る。二限終わりだと思われる学生で混み合っている廊下を、へレザと並んで歩く。
「カナメさん、このあとはどうするんですか〜?」
「今日は二限だけだから、学食でお昼食べて帰ろうかな。午後に妹と約束あるし」
「カナメさん、妹さんがいるんですね!」
「うん。俺と違って、顔面偏差値特上の妹。世界は不平等だと思うんだよな」
「カナメさんのお顔立ちは、とても親しみやすくていいと思いますよ!」
「嘘でもいいから、『そんなことありませんよ、カナメさんもイケメンですよ〜!』って言ってほしかったぜ……」
そんな会話を交わしながら、学食へと向かう。二限後なのでかなり混雑していたが、一応座れる場所はありそうだった。へレザはメニュー看板を見て、目を輝かせる。
「わあ、どれにしましょう! 色々あるんですね〜、わくわく!」
「……ちなみにへレザって、お金持ってる?」
「勿論です! 異世界ストルリアンで使われていた金貨と銀貨、持っていますよ〜!」
「うん、日本だと使えないわ、それ。奢るね」
俺は半眼になりながら、学食の列に並ぶ。金貨と銀貨、換金したら金になんないかな……
へレザは「これも美味しそうです! ああっ、これも!」と言いながら、持っているお盆に幾つものお皿を並べていく。遠慮という概念はないらしかった。俺はカレーライスをお盆に乗せながら、今日はこれだけにしよう……と思った。
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