023:監禁確定
「もう一度問います。『この人じゃないと満足できないの』という言葉は何ですか? 併せて、先程のワイトの発言である『わたしを……私をいじめてください! 子鳥のさえずりのように!』とはどういうことでしょう? 説明してください」
Bランク冒険者のディーヴァに詰められ、俺は言葉に窮する。
せ、説明が……説明がしにくすぎるんだよ!
何て言えば納得してもらえるんだよ、あん?
ワイトの個性と弱点に合わせて拷問しました……って、納得してもらえても俺の評価ガタ落ちじゃねーか!
俺は人類のために汚れ役を買ったんだ! 信じてくれ! ちょっと楽しかったのは認めるけど!
「……何故沈黙しているんです? 話しづらいことでもあるんですか?」
話しづらいことしかねぇよ。
でも、言い訳するにせよ正直に打ち明けるにせよ、喋らないことには始まらないよな……。
「……分かった分かった。正直に話すよ」
「お願いします」
「そこのワイトとスコーピオン君は恋仲だった。だが情報を吐かせるための拷問の最中、ワイトがドMすぎてこの通り目覚めちまったんだ」
「……?」
ディーヴァが首を傾げる。
これで俺の話は終わりだ。これ以上の内容はない。
いやいや、見りゃ分かるだろ。
赤い縄で亀甲縛りにされた落書きまみれ汁まみれのワイトと、白目剥いて気絶したスコーピオン君。コイツらは恋仲だった。そしてワイトはドMだった。見たまんまじゃねぇかよ、分かってくれ。
しかし、この話で納得してくれた冒険者はひとりもいなかった。
「黙って聞いてたが……どういうことだ?」
「さ、さぁ……」
「何言ってんだろうあの人……」
くそっ、何で納得してくれないんだ。拷問してたら相手がドMすぎて喜び始めるなんて良くあることだろ。頼むから分かってくれよ。
……最悪だ。俺はみんなの役に立つかなぁと思ってワイトを捕まえて拷問したのに……ワイトなんて拾わなければよかった。
喧騒の中、泣きそうになりながら俯いていると、円卓の1席から聞き覚えのある声が飛んできた。
「ちょ――ちょっと待ってください!」
その声の主は、先程まで俺のことを死ぬほど冷たい目で見てきたクレアさんだった。
まさか――俺を庇ってくれるのだろうか?
「ノクティスさんはみんなのために尽くしてきました! この街で彼に助けられたことのある冒険者は多いはずです!」
やっぱりクレアさんがナンバーワン!
めっちゃ庇ってくれるじゃん。このまま流れに乗って身の潔白を――
「少しくらい変な嗜好があっても良いじゃないですか! そんな性癖、これまでの実績を考えれば可愛いものです! ノクティスさんが人間の敵なわけありません!」
「えっ」
うわ、前言撤回。落とし所を用意してこの場にいる奴らを説得しにかかりやがったな!
しかしまぁ……俺が言い訳するよりも、他人に言ってもらう方が説得力が生まれてしまうものだ。
円卓の周りにいる冒険者は「怖いのは見た目だけで良い人なのはみんな知ってるしな」「俺もノクティスさんに助けられた。あの時の優しさが嘘とは思えねぇ」「俺は分かってた」などと次々に手のひらを返していき、場の空気が“ノクティスは変態だけど良い人”という結論に着地点を見定めてしまった。
そして、この空気を決定的なものに変えたのは――
先程ギルドから飛び出したはずの、茶髪おさげの少女・ミーヤであった。
「うわぁぁぁぁん!! ノクティスさぁんっ!! あたし、ノクティスさんが変態でも構いませんっ!! 全部受け入れてみせます!! 皆さんもきっと受け入れてくれますから!! だから認めましょう!! 俺は変態モヒカンですって!!」
こ……このガキ! 何てこと言いやがるんだ!
俺は背中にしがみついたミーヤをあやしながら、困ったように円卓を一望する。全員生温かい笑顔だった。分かった分かった、もうそれでいいよ。俺は変態です。ワイトは後で殺す。
「……はいはい、ミーヤの言う通りです。もうそれでいいです。早くこの話を終わらせてくれないか」
「認めましたねノクティスさん。大変恥ずかしいことだったでしょう……私は貴方の勇気に敬意を評します」
「敬意なんて表さなくていいから」
「それでは魔王軍との癒着は無かったと……それでよろしいですね?」
「最初からそう言ってるだろ」
「ありがとうございます。私からは以上です」
ディーヴァは満足そうに微笑むと、案外あっさり食い下がった。本当に俺が魔王軍と癒着しているかどうか気になっていただけのようである。
俺が変態だったからって理由で満足してくれるのか……ディーヴァは真面目なのかぶっ飛んでるのか分からんな。
俺への疑惑が晴れたところで、デトリタス局長が議論の方向を元の向きに戻し始める。
「ノクティスさんへの疑惑が晴れたようなので話を進めましょう。ワイトとスコーピオン君……この2体のモンスターはどうしますか? この話を単純化するなら……どこかに閉じ込めて監禁するか、それとも殺してしまうかこの2択になりますね」
続けて局長は、監禁場所に相応しい場所と方法などがまだ不確定だと付け加えた。
それを聞いて、円卓内外からざわざわとした声が起こる。拘束したモンスターを殺すのは簡単だ。しかし、それが魔王軍幹部の部下だったらどうだ。扱いづらいことこの上ない。
俺としては、殺そうと言う方の意見も理解できるし、殺さず監禁しようと言う方の意見も理解できる。だからこそ議論しようという話になったんだが、みんなはどんな意見を出すんだろう。
「あ〜、じゃあまず俺から言うぜ。俺はコイツらから情報を吐かせるために監禁した方が良いと思う。その方法だが、手錠プラス檻は確定として、闇属性魔法と氷属性魔法を使えば楽に済むと思うぜ」
ワイトとスコーピオン君を持ち込んだ俺の意見は「監禁」だ。自分の発言の通り、俺達は魔王軍の情報が欲しくて堪らない。この機会をみすみす逃してしまうのは有り得ないよという話だ。
監禁場所は後で決めるとして、スコーピオン君には氷属性魔法を使えば何とか監禁できる説が有効だ。氷漬けにされて抵抗できるのは、火属性魔法と氷属性魔法を使えるヤツらだけだからな。
「う、う〜ん……私みたいな一般人からすると、Aランクモンスターは怖いから倒してほしいかなって……」
クレアさんは反対か。まぁ分からんでもない。コイツら街ひとつくらいなら簡単に吹っ飛ばせるからな。
「俺っちは監禁に賛成」
「魔王軍の情報はあればあるだけ良いですしね、ボクも今殺すには勿体ないと思います」
「ワシも同じく」
シャーナイ、ココン、ロンドは賛成。Aランク冒険者は腕っ節に自信があるからかな。
「私としては監禁して情報を吐かせたいですね」
「……反対。リスクが大きいように思います」
ディーヴァは賛成。レイヴンは反対。
Bランク冒険者達は意見が別れたな。問題の中心にいるのがAランクモンスターだから、監禁に失敗した時に倒せそうかどうかで判断しているのかもしれない。
デトリタス局長の意見を待つまでもなく、賛成5反対2でワイト達は監禁されるべきという結論になった。
デトリタス局長は何か言いたそうだったが、ディーヴァに「私が監禁場所を用意します」と付け加えられると、結論に渋々ながら納得してくれたようだ。野次馬の不安そうな表情が印象的なギルド・ホールで、円卓会議は終わりを迎えた。
会議が終わってすぐ。円卓会議のメンバーは、ディーヴァに連れられて監禁場所を案内されていた。
場所はギルドの2つ隣にある倉庫。今は使っていないため自由に使って良いらしい。
「局長には鍵を渡しておきます。上手く使ってやってください」
「お、おぉ……助かるよ」
ワイトとスコーピオン君を倉庫に運び込みながら、俺達Aランク冒険者はディーヴァの手際の良さに感心していた。
流石にソロでBランクまで登り詰めただけのことはある。俺もずっとソロでやってたけど、ここまで手際良くやれる自信はねぇ。コイツは将来的にAランク……いや、Sランクも有り得るな。
「氷魔法と闇属性魔法の維持はこちらでやっておきますし、拷問も仲間うちで済ませます。皆さんは帰ってもらって良いですよ」
「え?」
「いえ、拷問はギルド職員立ち会いの元行いますよ」
「おいおい、それくらい常識だろ」
「おや、そうでしたか。ならそういうことで」
…………。
このディーヴァってやつ、何か怪しいな。
手際が良すぎるし、あまりにもトントン拍子で都合が良すぎる。しかも「仲間うち」って……オメーはソロでやってきたんじゃないのかよ?
そう思ってAランク冒険者達を見ると――彼ら3人もそう思ったようで、俺と視線が合った。
――この冒険者、何かあるな?
その感覚が共有された瞬間、俺達の行動は決まった。
「まぁいいや! 今日は解散しようぜ!」
「俺っち飲みに行くから、誰かついてくる人ー!」
「は〜い!」
「行く行くぅ!」
「ギャハハ! 俺も良いかぁ!?」
「全然構わねぇよ! よっしゃ、Aランク冒険者4人で久々に飲みに行くかぁ!」
俺達4人は適当な演技をしつつ、さっさとその場を離れて酒場にしけ込む。
酒場に入ってディーヴァの視線を切った瞬間、俺達4人の双眸には鋭い光が宿っていた。
――もしかすると。万が一の可能性ではあるが。
有望株の冒険者ディーヴァは魔王軍の手先かもしれない。
俺、シャーナイ、ロンド、ココン。エクシアの街を代表する4人の冒険者は、再び会議を開始するのだった。
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