020:対アンデッド部隊攻略作戦
『出してぇぇ! ここから出してよぉぉ!! 暗いのいやぁぁぁ!! もっといじめてぇぇぇ!!』
夜間に家に帰り、人目を避けながら何とかワイトを地下室に監禁することに成功した。
困ったなぁ、そろそろ王都に行かなくちゃならんって時に……厄介極まりない爆弾アンデッドを捕まえちまった。人類全体で見りゃ、ビッグな情報をゲットできたんだからプラスではあるんだがな……。どうも維持管理の方法に困るぜ。
「ノクトさん、アレ何?」
「……カミナは見ちゃダメなものだ」
「そうなんですか?」
「あぁ。デュラハンの仲間と言ったら分かるか?」
「えっ、捕まえてきたんですか。凄いですね……」
デュラハンを殺した恨みで何をされるか分からないから、カミナとワイトは引き離した方が良いだろう。
しかし、俺ん家にはイロモノしか居ねぇな。メドゥーサにワイトにモヒカン。まともな人間はいないのかしら。しかも他人にバレたら俺の立場が無くなるようなやべーやつばっかりだ。
逆に考えるなら、ワイトのことは大々的に報告していいのかもしれない。「こういう奴を捕まえました」「そんでもって監禁してます」とギルドや冒険者に知ってもらうことで、良い方向にコトが転ぶかもしれないし。
まぁ、ワイトから仕入れた情報はギルドに逐一報告するとして……情報源を公にバラすのはまた先の話だな。しばらくは放置しておくことにしよう。
「アハ! ノクトさん、また新しいオモチャ持ち帰ってきたの?」
「あぁ。今度のオモチャは壊していいからな」
「ほんとぉ?」
「クヒヒ……兄貴、どんなヤツ捕らえてきたん――うわっ、スケルトンだ」
「ノクトさん、ボクこのオモチャいらな〜い。何か気持ち悪いや」
「えぇ……」
トミーはともかく、何とあのレックスにもドン引きされてしまった。雰囲気だけでやべーやつだって看破されてるのウケるな。
「……いや、待ってください。これ本当にスケルトンですか?」
「よく分かったな。こいつはワイトだ。この前倒したデュラハンの部下で、俺とカミナを殺しに来たらしいぜ」
「……ワイトと言ったらAクラスのモンスターですね。どうやって捕まえたんです?」
「転送魔法でこっちに来てたらしくてな、火炎放射器で何とかしたよ」
「なるほど……」
「アハ! 転送魔法って……やっぱり魔王軍は魔法技術が進んでるんだねぇ」
「おう。ここに監禁する理由は、その転送魔法のことを含めて情報を吐いてもらうためさ」
「なるほど、賢いですね」
転送魔法と言っても、そうポンポンとワープできるような魔法ではないらしい。魔力を大幅に消耗して疲弊してしまうから、ダンジョン内に専用の中継地点を用意しているほどなんだとか。
明日にでもその部屋を潰しに行くとして、転送魔法を使って襲撃されると休まる暇がなくて若干つれぇな。さっきの通話で、ワイトが人間サイドに無理矢理堕とされたことはバレちまっただろうし……明日明後日、ワイトの仲間が襲ってきても全然おかしくない。
「やることが多くて困るぜ」
魔王軍の撃退、カミナの育成、王都への移動、デイリークエストの消化……人手が足りねぇんだわ。優先度が高いのは魔王軍の撃退だが、かといって他の要素を欠かすわけにゃいかん。Aランク冒険者の辛いところだぜ。
次に襲ってくる魔王軍の手先としては、ヴァンパイア部長かスコーピオン君か……はたまた別のアンデッドか。俺の心情としては、襲われるよりも襲いに行く方が気持ちが楽だぜ。どうにかしてダンジョン内の転送部屋を潰さなきゃな。
「まぁいい、今日のところは解散だ。俺が色々決めておくから、今夜はしっかり休むこと!」
「ウス!」
「お疲れ様でした兄貴!」
俺は
それは魔法機械学の本だったが、正直内容は全然入ってこなかった。明日何をするべきかの取捨選択に悩んでいたのだ。
『放置プレイなんて酷いですよぉ! 触ってぇ! わたしのこと触ってぇ!!』
まぁ、集中できないのはこの声のせいもあるけど。
とにかく状況を整理しよう。
今の俺の生きる理由は、(エクシアの街の)人々を守ること。それと仲間の成長の手助け、後押しをすることだ。もっと欲を出すなら、更に金を稼いでデケェ家に住んで肉食いてぇってところか……。
で、現在の俺に立ちはだかる課題は大きく分けて4つ。
魔王軍の撃退、カミナの育成、王都への移動、デイリークエストの消化。
まず魔王軍の撃退について考えると、日常生活を送る上では最も厄介な問題である。いつ襲ってくるか分からないというのは途方もないストレスだし、襲われる場所や場面によっては最悪の結末を想定しなければならないのだから。
個人的には、対応の優先順位は1番。これを放置するのは俺の命に関わるだろう。
次にカミナの育成。これは
この問題の優先順位は低めか。もちろんカミナを蔑ろにしたいわけじゃないが、何も急ぐことはないんだ。今日のカミナの成果は手にマメができたこと。彼女なりのペースでゆっくりやっていけばいいのさ。
そして王都への移動。これも優先順位は低めだ。そのための催しがあるのは2週間ほど後だからな。ちょっとした長旅にはなるが、単なる移動だし大した用事じゃねぇ。
王室から「服装は自由です」と言われているので、服を買いに行く必要も無い。だって服装自由なんだから。裏を読めとか言われても知らん。
……そう思っていた時期もあった。ちゃんとTPOをわきまえて、正装を持って王都に行きましょう。
最後の問題は日々積もっていくクエストの消化。これが如何ともしがたい。
デイリークエストにも様々な種類があり、まぁ簡単に言えば緊急性の高いものとそこまで高くないものがある。本気でヤバい問題は緊急クエストとして個別に発注されたり、中にはレイドクエストとしてぶち上がったりするものだが……内容によって揺らぎがあるという話だ。
しばらくの間、緊急性の高いクエストが湧いてこないと助かるな。優先度は日替わりになるか。
そういうわけで、明日の任務は魔王軍の撃退に決定だ。ダンジョン内にあるという中継地点を潰しに行くため、今夜はワイトに場所を吐かせるとしよう。
頭の中で状況整理が終わり、俺は本を閉じる。そのまま地下室に入ろうとすると、カミナが俺の裾を引いてきた。
「……ノクトさん、だいじょぶですか?」
「何がだ?」
「んや、色々と」
「しっかり寝てるし大丈夫だよ。オメーこそ手のマメは大丈夫か?」
「はい! お風呂では染みて痛かったですけど、今は全然!」
カミナの小さな手を取って確かめると、彼女の右手には血豆の痕ができていた。
初日からマメを作るとは才能ありかな? 真面目に取り組んでいるようで何より。
「カミナは寝てろ。ワイトの拷問は見るに堪えないだろう」
「そうみたいですね……」
「おやすみカミナ。しっかり寝るんだぞ」
「おやすみなさい、ノクトさん」
「あぁ、また明日」
俺はカミナを寝室に送り届けて布団を被せると、地下室に戻ってワイトと対面した。
「待たせたなワイト、お触りに来たぜ」
『フ――……ッ、フ――……ッ……早く触ってくださいぃ……』
「言われなくてもそのつもりだ」
椅子に拘束されながら、可能な限り大きくくねくねして肋骨をアピールするワイト。その心意気に感銘を受けて、俺は羽根ペンを身体中に這わせてやった。
夜中になるまでワイトの嬌声は鳴り響く。完全に堕ちたワイトを弄り回して、俺は更なる情報を引き出すべく羽根ペンを動かし続けるのだった。
――翌日。俺は
その理由は2つ。ひとつはダンジョンにある中継地点を潰すため。もうひとつの理由としては、昨日の深夜にワイトがこう言ったからだ。
『とっ、当初の予定ではっ、んほぉ! 私の任務が失敗した時っ、スコーピオン君がこっちに来て任務を遂行するって……イッ……てましたぁん!』
そう。あのスコーピオン君がこちらに来る――かもしれない――と吐いたのである。中継地点を潰しに行く際、もしも中継地点にスコーピオン君が来てたら潰してやろうと思ったわけよ。
何故ワイトを連れてきたかと言うと、ワイトと親密な様子だったスコーピオン君なら、俺達に強く出られないはず――そう踏んでいるからだ。
ワイトの任務は俺やカミナを殺すこと。その任務を引き継いだスコーピオン君を相手にするのであれば、最悪ワイトを盾にして脅せば楽に済むだろうということで連れてきた。
仮にスコーピオン君がワイトごと俺達を殺すつもりなら、俺達5人でタコ殴りにして返り討ちだ。
現在のメンバーは、俺、トミー、レックス、ゴン、ピピン、サイドカーで亀甲縛りされているワイト。自称サキュバス1名とモヒカン5人という大所帯のパーティで、ダンジョン攻略とスコーピオン君討伐に挑む。
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