11-3
改札を潜り、ホームへと昇る長いエスカレーターに乗り込んだ。
ふと、振り返る。
改札の向こうにはまだ犬養と牛尾の姿があった。犬養は両手をめいっぱい降って、周囲の誰よりも目立っていた。
申谷はふたりに向かって右手を挙げた。
こういう時にどうすればいいのかわからず、正解を探るようなぎこちない動きになった。
誰かが自分を送り出してくれる。自分を送り出してくれる誰かがいる。
ふいに直面した出来事に、胸のなかが熱くなる。
復讐の炎はまだ燃えている。しかし、それとは異なる優しい熱だった。
エスカレーターが昇るにつれ、犬養たちの姿は見えなくなった。
頭上が開けていく。白い光が溢れだすように降り注いできて、目を細めながら見上げた。
ホームを覆う、ガラス張りの天井。
突き抜けるような青い空が広がっていた。
見ているだけで飲み込まれそうな、吸い込まれそうな、圧倒的な青い空だった。
群れを成して飛んで行く鳥の影。
常に頭上にあったはずの光景なのに、随分久しく見ていないもののように思えた。
「……次この街に来たときも、こんな空だといいな」
そっと呟く。
そして、腹の底で粛々と燃える炎を抱いて、歩き出す。
了
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