第7話

いつ来てもお洒落な雰囲気のカフェテリアの片隅で、持参したタブレットで送って貰った資料を読み込んでいると、とん、と後ろから肩を叩かれた。


振り向けば、高校時代の同級生の丹下響子がお待たせーと笑って立っている。


彼女は、智咲と同じく地元を出ることなく社会人になった数少ない友人の一人だ。


向かいに座った彼女のトレーでは、美味しそうなカレードリアが湯気を立てていた。


どこのシェフがメニューを考えているんだろうと気になるくらい、毎回豪華なランチメニューが用意されている。


「あ、ドリアにしたんだ?ここのランチってほんといつ来ても迷うのよ。何食べても美味しいんだもん」


「一口交換する?ちさっちの天そばも気になってた」


「する。お墓参りの日、通り雨あったでしょ?大丈夫だった?」


羽柴智咲の勤める医療都市推進機構は、西園寺メディカルセンターと共同でセミナー運営などを行っており、定期的に会議でここを訪れるのだが、時間が合えばこうして懐かしい友人とランチを一緒に摂る事もある。


彼女と偶然施設内で再会したのは半年ほど前で、高校卒業以降全く連絡を取っていなかったお互いの近況報告を兼ねて飲みに出かけてから、すっかり昔の頃の距離感が戻っていた。


不思議なもので一度距離が縮まると、一気に高校時代の記憶が甦って来て、子育て真っ最中の同級生たちの中でどこか浮いていた二人だったこともあって、今では一番の友人だ。


高校の時父親が亡くなってから、母と姉の三人暮らしをしていた彼女が、いつの間にか母親と、早くに結婚した姉夫婦も失くし、一人残った甥っ子を引き取っていたことには驚いたが、何だか面倒見の良い彼女らしいなとも思った。


きょーちゃんどーしよー!と相談を持ち込んでくる友人たちを、嫌な顔一つせず受け入れていたあの頃の彼女の良いところがそのままなことが嬉しい。


出産も子育ても未経験の智咲には、その苦労は想像することしかできないが、きっと彼女だからここまで育ててこられたのだろう。


「うん。ちょうど車戻ったところで雨になって、樹とタイミングよかったねって話してたのよ。そうそう、この前言ってた熱帯魚のカフェ、帰りに寄ってお茶してきた。めちゃくちゃお洒落なの!ありゃ女子会か、デートで行くべきだわ。雰囲気良かったからまた一緒に行こうよ」


「うんぜひ!っていうか、樹くん高1でしょ?一緒にお茶してくれるんだ?いいなぁー若い燕だ」


思春期真っ只中だろう男子高校生は、これといった反抗期もなくすくすくと成長しているらしい。


休日のたびに、バスケットボールの遠征だ、試合だと忙しくしている響子は、すっかり母親役が定着していた。


「何が良いのよ。そっちこそ、新婚生活どうなの?なんかまたエロい人妻感滲み出てますけど?」


相手が年下且つ、昔からよく知る元上司の息子であることなどから、付き合っても結婚は無いだろうと踏んでいた智咲の予想を覆して、交際開始直後から結婚したいとアプローチをして来た夫に折れる形で37歳で名字を変えた友人の近況が、響子は気になって仕方がないらしい。


本人は、恋愛よりも今は子育て優先だと仕事と母親の両立で手一杯な素振りを見せているが、智咲から見ても、響子はまだまだ現役である。


「エロい言うな。うん、まあ、それなりに・・・」


向けられた矛先をどうにか戻そうと曖昧な笑みを返せば。


「順調よねー。年下の夫ってどうなの?色々凄い?体力持つの?」


なんとも赤裸々な質問が飛んできて、こういう開けっ広げなところも相変わらずだな、と苦笑いが零れた。


理汰の体力も性欲も相変わらずで、智咲は完全に翻弄される新婚生活を送っている。


週末はもちろんのこと、早く帰れた平日まで仕掛けてこられて、さすがにそれは無理とじゃれ合いながら諫めたら、結構本気で拗ねられた。


「いや、持たない。だから、ほんとに週末限定にしてくれって言ってる。やばいよ、あと3年もしたら私の腰死にそう。てか出来なさそう」


理汰はがつがつ腰を使うような抱き方はして来ないのだが、毎回嫌になるほど焦らしてくるので身体を繋げる前にへとへとになることも多くて、その上一度では終わらない。


彼の年齢を考えれば当然なのだろうが、四十路が見えて来たアラフォー的には色々しんどい。


これも夫婦のスキンシップだし、理汰がそうやって毎回愛情を示してくれて、決して魅力的とは言い難い年上の智咲の身体に興奮してくれるのは嬉しいし、女性として求められている実感は、やっぱり自尊心を高めてくれる。


が、何年も恋愛自体お休みしていた智咲は、サハラ砂漠からいきなりオアシスに飛び込んだようなもので、色々と勝手が追い付かないことが多い。


「出来ないことはないだろうけど、身体のどっかは傷めそうよね」


「ほんと理汰の体力どうなってんだろ・・・」


「え、だって羽柴くんまだ三十路過ぎでしょ?当分元気だよー男盛りがあと10年は続くでしょ」


「10年・・・うわ・・・飽きられそう」


「ええーそれはないんじゃない。いまだに智咲さん智咲さんだもんね、彼。夜もそうなんでしょ」


「・・・今日もさ、ケロッとした顔で出勤して行ってさぁ。こちとらギリギリまで布団の中に居たって言うのに」


「体力きついよね。私もさー試合の応援行ってもずっと立ってらんないのよ。運動不足なのもあるとは思うんだけど、周りのパパママは上の世代の人もいるのに、やたら元気でさぁ。何食べてるんだろ」


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