第154話

ニジと合流するためにアンバーが走り去ってから暫く待つ。

合流後に人質の有無を確認してもらう時間を考慮している訳だ。

その結果が念話で届けば、俺の出番である。

にしても、盗賊退治は約一年振りである。

守護者の盾に同行してた時、偶然通りかかった村が盗賊に襲われていて、全員で殲滅したのが最後だ。

あれ以来、不思議と盗賊に出会わなかったんだが・・・何の因果か、ここで出会うとは・・・


『エドガー、やっぱり人質がいたわよ。全部で五人』

『そうか。じゃあ予定通り、そっちの護衛は任せるよ。俺は今から正面突破する』

『怪我なんてしないでよね』

『分かってる。気は抜かないから心配すんな!』

さて、じゃあ行きますか!


別に急ぐでも無く、普通に歩いて盗賊が塒にしている洞窟に向かう。

勿論、そんなことをすれば見張りに見付かる訳で「おいっ!お前!何しに来た!」となる。


「お前ら盗賊だろ?見付けたら討伐するのが冒険者の義務なんだよ」

「クソッ!冒険者だと!仲間がいるかもしれない、俺が時間を稼ぐ、お前は応援を呼べ!」

おいおい、随分まともな指示だが、俺相手に時間を稼ぐねぇ?大きく出たもんだな!

それにしても随分と小奇麗な格好をしてるな?本当に盗賊か?

何か怪しいな『アンバー、ニジ、殺すのは無しだ。チョット気になることがある。ニジの麻痺毒で行動不能にしてくれ』と指示を出し直す。


アンバー達の返事の前に攻撃してきた見張りに穂先では無く、石突で三連突きをご馳走して意識を刈り取る。

『何が気になるの?』

『服装が盗賊らしく無い』

『人の着ている服の違いなんて分からないわよ』

アンバーやニジには理解できないことかもな。

どう説明するか?あっ!


『アンバー、洞窟の中って臭くないか?』

『えっ!・・・臭くは無いわね』

『今までの盗賊って臭かっただろ?でも今回は違う。何かおかしいと思わないか?』

『・・・分かったわ。私が人質を護衛するわ。で、ニジには麻痺毒で行動不能にしてもらうわ』

『頼んだよ』

さて、俺も洞窟の中に入ろうか!


テクテクと普通に歩いて洞窟内を進むと前方から六人ほどが走って来る。

二人ほど弓を持ってるのが見えたので、風魔法で防御しながら通路を進み、素早く突きを繰り出して気絶させていく。

まあ今の俺なら、訓練も碌にしていないような盗賊?を相手にするのに負けることなど無い。

気を抜いて、ちょっと怪我をするぐらいだろう。

それも事前に注意されたので、気を抜かないようにしてるし問題無し。

そのまま進んで行くと、奥から叫び声が聞こえてきた。


「助けてくれぇ!」「魔物だぁ!」「止めろぉ!」

どうもニジが暴れているようだ。


目の前で通路が分岐していて、叫び声が聞こえるのは左側。

ってことは、右側にアンバーがいるのかな?


『アンバー、叫び声聞こえてる?』

『聞こえてるわよ。エドガーも近くにいるんでしょ?』

『今分岐の所』

『そう。ニジの方を見てきて、あの子張り切ってたからやり過ぎてるかも?』

『この叫び声を聞くと、ありそうだな。そっちには誰も行かないと思うけど、よろしく。あっちを確認してくるよ』

念話を止めて、左の通路を進む。

直ぐに広い場所に出たが、あらら。

やっぱり、ちょっとやり過ぎっぽい?

でも、何か違う感じがする。


『ニジ、これってもしかして同士討ちしてたか?』

『・・・剣・・・振り回した・・・他の・・・人斬ってた・・・』

やっぱり!ニジを攻撃しようとして、仲間を攻撃してたか!


『全員麻痺させたか?』

『・・・ここ・・・終わった・・・』

確認したら、ここは終わってるようだ。


『通路と外に何人かいるから、そっちも麻痺させてくれるか』

『・・・了・・・』

糸を壁とかにくっ付けて、ヒュンって移動するニジを見送る。

で、その後に周囲を確認すると、やっぱり服装が小奇麗な男女が二十名ほどいた。

特に女性は、簡易だがドレスと呼べそうな服装をしてる。


・・・嫌な予感がバシバシと襲い掛かってくる。

これは絶対に深入りしちゃあダメなやつだな。


・・・始末をどうするか?

ちょっと、アンバーと相談しようか。


『アンバー、もう終わったから、ちょっとこっちに来てくれないか?』

『ここの人達はどうするの?』

『まだ、そのままにしといてくれるか。先に相談がしたいんだ』

『ふ~ん。行くわ』


その返事を聞いて、通路側に移動する。

転がってるヤツラに話を聞かれたくないからだ。


直ぐにやって来たアンバーに小声で「なあ、ここにいるヤツラ。どう見ても一般人じゃ無いんだ。例の元貴族がどうのってやつの関係者じゃ無いかな?」と聞いてみる。

俺の言葉でチラッと周囲を見回したアンバーは「私には分からないわ。でも、もしエドガーが言う通りだったら、どうするべきだと思うの?」

俺が思う始末の付け方か?

申し訳無いけどセイラン様とギルマスに任せるのが一番だと思うけど、俺は戻りたくないんだよな。

でも、それじゃあ始末が付けられないし困るんだよな。

その辺をアンバーに説明してみた。


「じゃあ、私が手紙を届けてあげるわよ。それなら問題無いんじゃない?」

「でも、アンバーだけじゃあ、街に入れ無「そんなの壁を越えれば良いだけでしょ」い・・・そういうことか」

アンバーが走れば、半日も掛からずに往復できる距離だし、ギルマスはアンバーを知ってる。

俺が買ったアクセサリーも見てるから、アンバーだって分かるだろう。

仮に攻撃されても、アンバーならどうにでもなる。

確かに、俺が行かなくても何とかなりそうだ。


「その案を認めます!アンバー手紙を書くから配達してくれるか?」

「私が言ったんだもの、やるわよ」

「じゃあ、先に色々片付けてしまおう」


まずは、外と通路のヤツラを奥に運び込みロープで縛り上げる。

人質の人達を解放して事情を話す。

盗賊だと思われるヤツラには、麻痺毒で麻痺させ更にロープで縛ってるから逃げられたり、再度襲われることは無い。

勿論ギルド証も見せて、俺が七つ星で偶々見付けたので捕まえたことや、晴嵐城のギルドに連絡している事なども説明した。


最後に「後俺はギルドの人間が来る前にここを離れることになる。ちょっと先を急いでるんだが、ここで時間を取り過ぎたんだ」と言う。

少し心配そうな顔をしていたが、捕まっていたのが商人と護衛依頼を受けた冒険者だったので、そこは任せることにした。


彼等が食事の準備をしている間に手紙を書き、アンバーに渡して晴嵐城に走ってもらう。

俺は彼等が用意した食事は断り、洞窟の入口でアンバーの帰りを待ちながら、無限庫から出した食事を摂った。



*** *** *** *** *** *** 



エドガーに提案したのは私だし、手紙を届けるのは良いのだけれど長く離れていたくない。

だから、私は全力で走ったわ。

地面を走るなんて面倒だったから、木々を蹴って空中を飛ぶように走るのが一番速いのよ!


エドガーと一緒にいる時は、のんびり歩くのも嫌いじゃないけれど、今は急いでるのよ。

あっと言う間に城下町の壁が見えてきたの。


木々を蹴って上に飛び上がって、更に空中疾走で壁を越えたの。

そこからは速度を落として隠密を使いながら建物の屋根を走るのよ。

これが一番人に見付かり難いのよ!


直ぐにギルドの建物が見えたわ。

隠密は使ったままで、そのままギルドに入って、ギルマスの部屋まで来たんだけど、どうやってドアを開けようかしら?

私の手足だと、ドアの取っ手を回せないのよね。

だから仕方無くドアをノックしてみたのよ。


「誰だ?入っても良いぞ」

そう聞こえたから、隠密を止めて「ニャアー」って少し大きめに鳴いてみたの。

そしたら足音が聞こえてドアが開いたんだけど、ギルマスは私を見て驚いていたわ。


「お前はエドガーの従魔だったよな?エドガーはどこだ?街を出たんじゃなかったのか?」

色々聞いてくる言葉は分かるし答えられるけど、私はエドガー以外と話さないように言われてるから知らない振りをしたわ。

代りに、咥えていた手紙をギルマスの前に落としたの。


それを彼が拾い上げて、手紙の宛名を見てまた驚いてたわ。

「おいおい、エドガーのやつ、お前さんに手紙を運ばせたのか?」だって。

私のことを知らないから、驚いているんだろうけど、そんなの大したことは無いのよ!


次の瞬間、私は突然伸ばされた手を避けて飛び下がったの。

彼は私に許可を求めずに体を撫でようとしたのよ!

巫山戯てるわ!

勝手にレディーの体に触るなんて!許されないのよ!

いつでもモフモフして良いのはエドガーだけなんだからっ!


私が触らせないと分かったのか、大人しく手紙を読むことにしたみたいね。

彼は手紙を読んだ途端、大慌てで部屋を出て行こうとしたの。

だから私も一緒に部屋を出たわ。

だって、ほって置いたら彼は私を部屋に閉じ込めたままにしそうなんですもの!


何だか慌しく騒ぎ出したのを見て、エドガーの手紙を理解したことが分かったから、そのまま私はギルドを出たわ。

だって最後まで見てたら、帰るのが遅くなるもの!


早く帰って、エドガーの料理を食べたいわ。

そんなことを考えたら、急にお腹が空いてきちゃった!


早く帰んなきゃ!

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