第153話

ギルド内で今現在一番熱い話題は、何と言っても大暴走を単独で撃破した七つ星冒険者のことであった。

既に、十日は経っているのに、その話題が沈静化することは無く、更に盛り上がっている。

理由は・・・昨日の騎士との容赦の無い模擬戦が原因である。


最初は理由も知らずに見ていた者達に嫌悪感を抱かせるほどで、その一方的な力の差を見せ付け嬲るような模擬戦の内容は「惨い!」と感じていたのだ。

だが、ギルマスから模擬戦に至るまでの説明を聞けば、あの行為の本当の意味が理解できた。


調査しなければ分からないが、不正な方法で騎士になったであろう者の傲慢不遜な行いが自分以外の冒険者にとって非常に不味い状況を引き起こす可能性を排除するため、敢えて非情と言われるであろう戦い方をしている。

自己負担で薬を提供して絶対に死なぬように準備を整え、どのように育ったか分からない歪んだ性格を短時間で叩き折るための非情で容赦の無い模擬戦を行っている。


その方法や見た目が非情に恐ろしい行為の裏に、そんな理由が秘められていたことに皆が驚き、持っていた嫌悪感が逆転した。

そして、それが今現在のギルド内での話題になってる訳だ。


そんな熱い話題の飛び交うギルドに、その話題の人物が入ってくる。

気付いた者から言葉を奪い、静まり返っていくギルド。

いつもの喧騒が無くなったギルドの中を、多少の居心地の悪さを感じながら横切る話題の人物。

全員の視線を集めているその人物は、カウンターに近付き小声で「なあ、今日のギルドの様子が異様なんだが?何があった?」と聞いた。


「エドガーさんが原因ですよ。昨日の模擬戦、ここの冒険者達も見学してましたから」

それって、俺が怖がられてるってことじゃないか?

少々過激にやり過ぎた気はしてたが、不味い!

とっとと話を聞いて、街を出た方が良さそうだ。


本人は何故か周囲と違うことを思っているようだが、基本的な行動方針に変更は無いようで、ギルマスの呼び出しの件を伝えると奥へと案内されて行くのだった。


「昨日の今日で呼び出したりしてすまんな!少々キナ臭い話になりそうなんで、お前にも情報を渡してくれと頼まれたんだ」

「キナ臭い情報か・・・騎士団長からだろ?」

そんな話は、あの時にしかしてないし。


「お前、この街に着たばかりだよな?どんな情報網もってやがんだよ!」

「情報網なんて持ってる訳無いだろうが!単純な推測だよ!で、旧貴族が権力を取り戻すために秘密組織でも作ってたか?」

「ホントに情報網持ってないんだよな?」

「えっ!適当に言ったんだけど当たったか?」

「適当?」

「当てずっぽうとも言う」

本当に適当に考えただけだから、当てずっぽうなんだよな。


「・・・どっちでも同じだろうが!まあ良い。大まかにはお前が言った通りだ。正確には元貴族の子供達が集まって秘密裏に権力を取り戻そうとしてる」

「でも、それって魔王様を引き摺り下ろさないと無理だろ?」

「ああ、そうだな。そして、現実的に考えて魔王様を引き摺り下ろすくらいなら、どこかの国を乗っ取る方が成功する可能性が高い」

そうだよなぁ、俺が街中で集められる情報だけでも、魔王様への国民の信頼って異常に高いんだよ。

支持率が飛び抜けてるのに、政治的に乗っ取りとか絶対に無理だと思うんだよな。

でもって、力技ってのも無理だと思うんだよな。

何せ、魔王様って竜殺しで有名だし。


「つまり、無理ってことだな」

「そう言うことだ。で、前城主の息子が噛んでたみたいでな、それであんなクズが騎士になってたんだってよ。それで、お前の名前は出してないはずなんだが、どこから漏れるかまでは把握できてないのが現状でな。何かしらの攻撃がある可能性がある訳だ」

「そう言うことか。分かった。で、そいつ等に襲われたら返り討ちで良いのか?」

「できれば、取れるだけ情報を取って欲しいところだな。手段は・・・任せるわ!」

つまり徹底的にやれってことだな。


「へいへい、分かったよ。あっ!俺はこのまま街を出るけど、何か適当な依頼はあるか?」

「もう出るのか?」

「ギルドの中が面倒な感じになってるからな」

あれは居心地が悪いとかのレベルじゃ無かったからな。


「あぁ~あれか。俺が知る限りで上級向けの依頼なんて入ってないはずだぞ。できて護衛依頼ぐらいじゃないか?」

「それは、好きじゃ無い。まあ良いや。このまま出るよ、じゃあな!」

「エドガー!お前が来てくれて助かった!街の人間を代表して礼を言う、ありがとう!」

ギルマスの言葉には応えず、肩越しにヒラヒラと手を振って部屋を出た。


再度、居心地の悪いギルド内を横切って通りに出る。

絶対に変な二つ名とか付きそうだし、早く街を出るに限る!


俺は、どこにも寄らず、そのまま東側の門を目指した。

足早に通りを歩いていると、視界に新神教の神殿が見えてきた。

そう言えば、旧貴族街の方にあるって聞いてたが、行く気が無かったから忘れてたな。

そんなことを考えていると『ねぇ、魔国に入ってから新神教の神殿に忍び込んでないけど良いの?』ってアンバーが聞いてきた。


『ああ、魔国は貴族はいないことになってるし孤児院が国営だからな。調べても良いけど、基本的に俺は孤児院での人身売買を潰したいってのが目的だしな』

『エドガーが孤児だったから?』

『そういうことだな』

そのまま通りに沿って歩けば、目的の東門が見えてきた。


朝のピークは過ぎてる時間帯なので、直ぐに街を出ることができた。

行き先は魔王城の城下町だが、一度北東にずれてから東に進む予定にしてる。


理由?そりゃぁ誘拐に係わりたくないから!

このまま東に進むと、被害が出てる街の一つ黄花城を通ることになるからな。


街道上は割りと人通りが多いので歩くしかないのだが、余りにのんびり過ぎる移動は直ぐに飽きてきた。

次の街との中間地点で分岐路があるはずなので、街道を外れて少し急ごうか!


分岐した行き先は白雲城で、その後東向きに街道沿いに進むと桃花城で、そこから南下すると魔王城に続いている。

真っ直ぐ東に向かうより遠回りではあるが、南の海に行けなかった代わりに北側の海の近くまで行ける。

特に予定がある訳でもないので、海に寄ってみるのも良いかもな。


っと、そんなことは白雲城に着いてから考えるとして、人目に付かないように街道から外れよう。


街道を外れて森を行くこと半日、今日の野営に向いた場所を発見したのだが、そこには先客がいた。


『嘘だろ、何だってこんな所に・・・』

『そんなこと言っても、先客としているんだから、見ない振りはできないでしょ』

『・・・主・・・悩む・・・無駄・・・』

お前達、俺への当たりが強くないか?


『で、あれって、どう思う?』

『見たまんまでしょ』

『・・・そのまま・・・』

やっぱり見間違いとかじゃないか。


『どうするのが良いんだ?俺は面倒を避けたいんだが』

『どうって、やるしかないでしょ。もしやらないなら、一番近いとこに報告するしかないけど、晴嵐に戻るのかしら?』

『・・・主・・・やる・・・ニジ・・・行く・・・』

だよなぁ。


『分かった。少しだけ確認して、間違い無く本物だって証拠が得られたらやろう』

『なら、私かニジが調べてくれば良いのね』

『・・・ニジ・・・任せて・・・調べる・・・』

おっ!ニジが潜入をやる気になってるな。


『じゃあ、ニジお願い』

『・・・了・・・』

そう言ったニジが目の前で消える。

アンバーの視線を追うと、木々の間を高速で移動姿が見えた。

どうやら、お尻から糸を出して、それで高速移動をしてるみたいだ。


『あれが魔粘張糸かな?』

『そうね、使い方次第だけど、結構面倒な能力ね』

そりゃそうだ、あんな光加減でキラッ!とかしないと見えない糸で、あれだけ高速移動されたんじゃ、姿を捉えるのも難しい。

アンバーが面倒って言うのも良く分かるってもんだ。


『・・・主・・・証拠・・・あった・・・次・・・襲う・・・計画・・・立ててる・・・』

『分かった。そのままそこで待機しててくれ』

『・・・了・・・』

『アンバー、やっぱり盗賊らしいし、ここで殲滅するぞ。盗賊のかしら以外は生かす必要無しだ。俺は誘導のために正面から行く。アンバーは先行してるニジと合流後、人質の確認。いたら保護を頼む』

『分かったわ』

『じゃあ、頼むぞ』

隠密全開で走り去るアンバーを見送る。



さて、久しぶりの盗賊退治だな。

気合を入れよう。

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