第128話

あの怒涛の様な初日と二日目の朝を乗り越えて、その後はのんびり過ごせたことで気分転換できた。

今はボチボチと歩きながら、街に戻っているところだ。


あの後どうなったか?って言うと、祭壇でもう一度お祈りしてお礼を言った後は、一日アンバーと日向ぼっこしながらゴロゴロしてた。

料理以外は何もしないで、アンバーのお腹や背中を枕にしてゴロゴロ。

陽に当たったアンバーの毛はフカフカのモフモフで、抱きついたり枕にしたりすると、自然と眠りに引き込まれるんだよ。

あれは危ないな、自堕落になりそうだ。


三日目は、アンバーと一緒に狩りに出掛けて鹿を二頭狩った。

草原には兎くらいしかいないんで、少し離れた場所まで足を延ばした感じ。


そうそう、この草原って割りと広いのに、何で人の手が入ってないのか不思議だったんだけど、足を延ばして空間認識してみて理由が分かった。

神殿跡地周辺以外がなだらかに下っていて、一番低い所とだと俺の身長じゃ足りないくらいの高低差があったのだ。

こんな窪地の様な場所だと、大雨でも降ったら水没する可能性が高い。

そりゃあ、災害が発生する可能性のある所に態々手を入れたりはしないだろう。

もう一つ、近くに水源になる川が無いのだ。

いくら広い場所でも、水源が無いのでは人は暮らせないし、農業などもできないのだ。

帝都が近いのに、人の手が入っていないことに疑問を持ったが、それなりの理由があったのだなと勝手に納得した。


三日目と四日目は採取をしたり、それを材料に薬を作ったり、ゴロゴロしたりと、のんびり過ごした。

そうそう!薬に使う水を聖水に変えるだけで、一段階どころか二段階は上の回復薬とかが作れるんだぞ。


聖水すげぇー!ってなって、色々と薬を追加してしまった。


色々と肉体的にも、精神的にも疲れが溜まってたのがスッキリした感じだ。

ここからは気を引き締めないとならなくなるので、良いタイミングで気分転換できたってことだろう。


街に戻りながら見た森は、一瞬、森林火災?と疑いたくなるほど煙が立ち上がっていたが、火の手が見えなかったことで納得できた。

たぶん、スロー・モンキーを追いやるために生木とかを燃やして、強制的に煙を出していると思ったのだ。

こういう自然災害的な状況を作れば、動物的な本能を持つ魔物なら逃げるという選択をするものが多い。

そういう本能的なところを突いた作戦ってことだ。


煙臭いのか、肩の上でアンバーがモゾモゾと身動ぎしているが、大丈夫か?

『消臭薬を用意しようか?』

『風向きがアッチ向きだから平気。風が変わったらお願いするかも?』


なるほどな答えに了承して歩き続けた。


街の中は、出発する前より賑やかだった。

屋台で串焼きを買いながら聞いてみると、数日中に街道が安全になると言う噂が流れて商人達が集まって来ているらしい。

大きく迂回せずに通行できるなら、早い方が良いのは誰でも考えることだろう。

仮にここで数日潰したとしても、迂回していれば数週間掛かるところが、街道が通れれば一週間になるのだ。

俺でもこっちを選んでいるはずだ。


宿に顔を出すと、俺の部屋はガルさんがキープしてくれてたみたいで、そのままだと言われた。

ちょっとばかり感謝しつつ、次の目的である伯爵邸に行く。

まあ、納品するだけなので時間は掛からない、というか掛けないつもりだ。

たぶん、ギルドでもやられた勧誘とかをされそうなので、守護者の盾の後ろに隠れるつもりだから。


執事長に会って、伯爵が待ってると言われたが、丁寧にお断りする。

上級の回復薬を数だけ渡して「少しの間、守護者の盾に同行することになったので、御用があればそちら宛にお願いします」と告げておいた。

これで伯爵の動きも牽制できただろう。


後は、旅支度とガルさん達が戻って来るのを待つだけになったな。

スロー・モンキーの件が片付くまでは待機だろうし、何をして時間を潰すか・・・あっ!

『一つ思い付いたぞ。なあ、アンバー相談があるんだが・・・あのな・・・そこに・・・隠れて・・・見て・・・。頼めるか?』

『それって何のため?』

『少なくとも俺のためにはなるかな?』

『エドガーのためになるならやっても良いよ』

『報酬は、例のキノコ料理でどうだ?』

『やるやる!』



街に戻ってから四日、スロー・モンキーの追い込みが終わり、街道の通行が可能になって、朝から商人達が街を出発して行った。

ここ数日は賑やかだったが、それも少しだけ落ち着き、それでも最初に来た頃と比べれば街の雰囲気に活気がある。


俺は、ここ三日ほどの時間を使いあることをしていた。

俺は、ある場所に通い空間認識、空間走査、地図化を使って、その場所の情報を集めた。

それを手書きの図面にして、そこに色々と書き加えたりしてた。

あとは、アンバーが集めてくれた情報を聞いて文章にしたりしていたのだ。


何処の?ってのは、ある程度予想がつくだろうが、まあそう、この街の殿だ。

神殿の後ろ暗い証拠を集めてたんだ。


俺が魔法を使って建物や隠し部屋、隠された証拠の在り処を調べ、アンバーが隠れ潜んで、神官達の会話を盗み聞きしてきたんだ。

それを書類にしてナイフォード侯爵に送ろうと思ってる。

トルナーバ伯爵に、俺のことを話そうとは思えないからだ。


何でこんなことを始めたのか?って思うかもしれないが、元々俺は新神教が嫌いだし、無くなってくれた方が平和になりそうだと思ってるからだ。

特にビュルギャの件を考えると、放置は不味いと思った。


そうそう、無償奉仕じゃないぞ。

きちんと俺に合った報酬を貰ってる。

何か?って、保存石だよ。

やっぱり、この神殿にもあったんだよな。

俺以外に使える人間は、神殿でスキルを移し変えるだけみたいだし、有効活用のために貰っておいた。


えっ!窃盗だって。

確かに、その通りだが、コレは神殿に無い方が良いと思ってる。

だって、コレにスキルを移し変えるために金を払うヤツがいる訳だろ。

それが神殿の活動資金になるんだから、無ければ移し変えができなくて、資金も集められないって訳だ。

少しでも神殿にダメージを与えておかないと、ビュルギャみたいなことが起きれば広範囲に被害が出るからな。



さて、手紙も書き終わったし、ギルド経由で手紙を送って、あとは帰って来るはずのガルさん達と旅の予定を立てないと!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る