第114話

大勢の冒険者と馬車に囲まれて歩くのは慣れないな。

総勢百名近いんじゃないだろうか?


馬車が五台で、それぞれに十名ほどが乗ってるだろ。

で、その周囲に冒険者が四十数名はいるから、やっぱり百名近いな。


流石は伯爵家主導で組んだゴブリン討伐隊だな。

ありえん位に豪華な顔ぶれだ。

上級の冒険者チームに魔法使いが二十名、それに薬師が十五名とギルドの関係者が十五名に冒険者が四十名以上、それに加えて俺。


ゴブリンが百体以上と言っても、多過ぎるぐらいの戦力だろう。

だが伯爵に待たされた六日間の間に、伯爵主導で偵察も行ったらしい。

その結果、ゴブリンの集落化は確定、更に複数の上位種、特に魔法を使う上位種の姿を確認しているらしい。


その偵察でゴブリンの総数の予想が五百程度(最低五体の上位種を見たらしい)と言うことで、魔法使いを増強したのだと聞いている。

戦闘は冒険者と魔法使いが担当し、怪我人の治療を薬師が、事後処理をギルドの関係者が行うということだ。


名目上俺は、第一発見者で案内役ってことになってるらしい。

異常事態の確認はギルドの関係者で行うと言われたことで、急遽俺を案内役にしたらしい。

伯爵が、その説明で押し込んだと言ってた。

だいたい偵察に斥候を出してるんだから、俺が案内役ってゴリ押し過ぎるだろう?


まあ、行かなければならない個人的な事情もあることだし、直接文句は言わないが・・・


そんな理由で、こんな大所帯でゴブリン討伐に向かってる訳だ。


今日中には目的の森の前までは到着できるだろうし、明日の早朝には作戦開始だ。

今回は完全な殲滅を予定しているので、この人数で完全に囲い込んで、一体の漏れも無いようにするらしい。


はー、それにしても、集団行動って苦手だな。

途中からアンバーって相棒はできたけど人では無いし、トリニードを出てからずっと一人だったからかなぁ?

どうにも落ち着かない。


この状態を客観的に考えると、今の俺って人嫌いってことか?

まあ、思い当たる節は多い気がするな。

色々嫌な物を見てきてるからなぁ、自分でも気付かない内に人間不信になってるのかも?

これって努力して直るのかなぁ?


個人的な悩みを抱えて考え込んでる内に、野営予定地に到着し、野営の準備もほぼ整っていた。


俺何もしてないや。

手伝いもしないで、皆に悪かったかもな。

だけど、あの混雑の中に入って行くのは・・・ちょっと遠慮したいかも。


目の前で食事の配膳が行われているが、そこは飢えた獣が群れているように見えたのだ。


あれは無いな、入る勇気以前に、同類になりたくない。

どのみち人が多いのは、どうにも落ち着かないし、少し離れたところで一人で野営しよう。


少し離れた岩の陰に野営場所を決め、食事の準備を始めた。



食後のお茶を飲みつつ、膝の上のアンバーを撫でて和んでいると、背後の岩の向こうから近付いて来る人の気配がする。

気配を消している訳では無いので、害意や悪意は無いと思うが、一応「止まって下さい、何か御用ですか?」と制止させた。


「悪いな、別に何かしようって訳じゃ無い。明日は案内をしてもらう立場だし、親睦を深めようかと思っただけだ」


えっ!案内?ってことは!

俺は自分が思い付いた内容に驚き、立ち上がって岩の向こうの人物を確かめた。

そこには、思い付いた通りの厳つい鎧で身を包んだ人が立っていた。

上級冒険者チーム"守護者の盾"のリーダー、ガルディスさんである。

二つ星の俺などが気楽に話せる人ではないんだが。


えっ、上級の冒険者二チームと知り合いだろ?って、あれはゼルシア様がいたからで、俺一人じゃ無理!


「すいませんでした。まさかガルディスさんだとは思わなくて」

「構わんさ。不用意に背後から近付いたのは俺の方だ。で、何で一人で離れてるんだ?あっちを探したけど見付からんから困ったぞ」


「そのー、一人で行動することが多いので、どうにも慣れなくて」

「はっ、はっはっはっそうか!慣れないか。そりゃあ、慣れない内はしかたないな。でもな、こういうことは、これからも起きるぞ。早目に慣れる努力をしとけよ」

確かにその通りだ、苦手をそのままにしても得は無いな。


「ガルー、もうっ!勝手に一人で行かないで!」

ガルディスさんから忠告を受けていると、更に五人が近付いてきて、そのうちの一人の女性が文句を言っている。

たぶんチームの残りの人達だ。


「何で一人で行くのっ!」

「そうですよ。皆で行こうと決めたではないですか」

何やらガルディスさんが先走って怒られてる感じなんだが、何となく見たことがあるような?

あれ?


「ガルディスさん、すいませんが"蒼き水面"のラズーレさんて知り合いですか?」

思わず聞いちゃったけど。


「あら、まだ言ってないの?エドガー君よね?私"灼熱の息吹"でリーダーやってるエメラスの妹、エスクラよ。で、ガルはラズーレのお兄さんなの」

「えっ!ええっ!えええっ!兄弟姉妹で上級冒険者なんですか!」

何てこった!


上級冒険者なんて、何千人もいる冒険者の中から一人とか二人とかしかなれないのに、それをどっちも兄弟姉妹でなんて凄過ぎるぞ!

更に言うと、そのどのチームとも知り合えるなんて奇跡に近いかも。


あれ?でも何か俺のこと知ってるっぽい気がしたんだが?


「不思議そうね?私もガルも姉さんや弟さんから聞いてるのよ君の事。トリニードの領主から逃げて帝国に来たんでしょ?」

「俺もラズーレから、良いやつだから見掛けたらヨロシクって言われてるぞ」

うわー、それでエドガーって名前を聞いて俺に声を掛けてくれたのか。


「二人だけで話さないで私達にも自己紹介をさせてくださいよ」

そう言って残りの四人が参戦してきた。

ガルディスさんはチームのリーダーで上級冒険者では珍しい盾役の前衛。

エスクラさんは魔術師で後衛、キャスリーンさんが斥候で遊撃、エドバンさんが剣で前衛、ローベンさんが弓と細剣の中衛、ガビムさんが大剣で前衛というかなり攻撃に重点を置いたチームだった。


ちなみに、さっき会話に割り込んできたのはローベンさん。

ローベンさんは見た感じエルフっぽくないエルフに見えるから、ハーフなのかもな。


「で、みなさんが俺の所に来た理由って親睦だけですか?」

何か他の理由がありそうで、聞いて見たんだけど。


「分かっちゃった?実はね、色々エドガーのことを頼まれてるの、姉さん経由でゼルシア様から。ねえ、薬師さん」

・・・何故バレた?それもゼルシア様?

理由が分からんが、バレてるのは間違い無さそうだ。

どうすれば良い?逃げる?無理だろうな。

アンバーのことまでバラせば、可能だろうけど・・・


「あー別に何かしようとか思ってないからね。ゼルシア様が気にしてたのは、エドガー君がまだ経験不足で脇が甘そうだから、何かあった時に後ろ盾になってくれって」

「丁度俺達が帝国にいるからって、連絡を取ってきたんだ。まあ、随分と早く会えたもんで驚いたがな」


「で、どうなの?どうなの?」

答えられないって。


「コラッ!エスクラ!スキルの詮索をするな!」

「えー戦闘系じゃないんだし良いじゃないの?」

どっちもダメでしょ。


「ダメだ!それが冒険者のルールだろっ!」

「えー、上級の回復薬って絶対にエドガー君が噛んでると思ったんだもの、聞いてみたいじゃない」

マジでバレてるじゃん!

ヤバイかも。


「五月蝿い!ねぇ、エドガー。その猫ちゃんの名前は?」

いきなり話をブッタ切ったのがキャスリーンさんで、猫獣人っぽい。


何か凄い賑やかになってしまったな。

それに、色々バレてるっぽいし。

どうしたもんかな?



騒々しいままに、ゴブリン討伐を明日に控えた夜がふけていった。

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