第104話
夜明け前、ゴソゴソと動き出す影があった。
「ブッハァ!息苦しいと思ったら顔の上にアンバーが乗ってたとは、一瞬両親の顔が見えた気がしたわぁっ!」
俺は小さな声で文句を言って、荒く息を吐いた。
文句を言われてる当の本人であるアンバーは、両手両足を投げ出したヘソ天状態でまだ寝てる。
図太いその姿を横目に、今日の予定を考えることにした。
もう一度、森を抜けて野営した場所に戻る。
そこで上級の回復薬を用意する。
現在の手持ちで作れる上限は八本、既に三本は売れることが確定してるし、品質を確認してもらえば追加で売れるだろうし上限まで作っても問題は無いだろう。
回復薬が準備できたら、それから約束の時間までは検証の時間だ。
まず収蔵庫スキル同士で合成ができないか?の確認。
その結果によって、次の検証内容が変わるからな。
できれば限定って文字が無くなると嬉しいんだが、まあそれは試してみてからだ。
あとはメスのスキルも確認したい。
ただ、そうなると確実に戦闘でスロー・モンキーを排除していかないと難しいだろう。
槍の間合いより離れた相手と戦う術は、遠距離だと必中、中距離だと衝撃波、あとは魔法か。
森で火は使っては不味い、水は水場が近くに無い、結果として土と風か。
土は初歩だし、風は一段階は育ってるとなれば使えるのは風かな。
風で使えるのは・・・風撃、風壁、風槌、風牙、風牢、疾風、風舞、風陣か。
疾風が補助系か、これで投げた物を加速できるな。
風壁は前面、風陣は全周の防御系か、移動ができないのが問題だな。
風牢は風陣を相手に使って閉じ込めるのか。
風撃は風の塊をぶつけて打ち上げる攻撃、風槌は逆に打ち下ろす攻撃だな。
風舞は周囲の砂や枯葉などを巻き上げて、相手の視界を奪う。
風牙は刺突攻撃の威力増加だな。
何で突然魔法系のスキルを確認してるかって言うと、今までは使えなかったからだ。
使えなかったでは、言い方が悪いな。
スキルは持っていれば使い方が分かるから使えるのだが、状況が使うことを許さなかったと言った方が誤解が無いかもしれない。
魔法系のスキルを使うと目立つから、俺が複数のスキルを持ってることがバレ易い。
それは俺が望むことでは無かったし、アンバーがいれば特に必要性を感じなかったという理由もある。
何せ、アンバーが魔法を使えるからな。
しかし今回は森の中で他の冒険者の目が届かず、遠距離攻撃の魔物相手と来れば、魔法を使ってでも安全を確保したかった。
状況的に使っても問題無いと思えるし、必要性もある、そして良い機会だとも思ったのだ。
まあ、街道が森に入る入口部分は、冒険者の目が光っているから魔法は使えないが、奥に入ってしまえば目も届かない。
では入口部分を、どう乗り切るかだが、普通に走りながら避けて、間に合わない分を槍で弾くなりすれば良いと思ってる。
要は出て来る時の方法で、入って行こうと思ってる訳だ。
それなら、体捌きや槍の腕前しか見せなくてすむからな。
そこまで考えて、ドアの隙間から焼き立てのパンの香りが匂ってきた。
嗅いでしまうと途端に腹が減る。
急いで準備をしないと、焼き立てのパンは美味いからな!
勿論寝てるアンバーも連れて降りるぞ、匂いで起きるはずだからな。
焼き立てのパンは美味い。
そこに具沢山のシチューも付いていて文句無しだった。
そんな朝食を食べながら、頭の中で出発前に買って置かなければならない物を考えていた。
食料は勿論だが、薬草の補充可能な物も見ておきたいし、遠距離攻撃用に何か無いかな?
宿を出る時に近い肉屋を聞き、肉の補充に向かう。
アンバーの食糧として必要なのだから多目に確保しないとな。
そういえば、肉を焼く時に使う金串も余分が欲しい。
最近はアンバーが大きい姿でいることが頻繁にあるから、焼く時の金串が足りないのだ。
金串自体は安い物だし、多目に持っていても問題無いだろう。
そういえばバージェンさんが金串でも立派な投擲武器になるって言ってたような・・・えっと、なんて言ってたかな?
よく思い出せないが、何となく使えそうだという記憶だけはある。
料理用以外にも余分に買い込んどくかっ!
そうすると肉を買って、その後に金物屋だな、ついでに少し大きい鍋も買っとこう。
王国より南に来たとは言え、流石に冬が近いから寒くなってきた。
温かいスープを作るにも、大きいアンバーが相手では小さな一人用の鍋では全く足りてないからな。
買う物を買って、準備ができたと判断し森へ向かう。
森の周りには監視している冒険者が見える。
バーグとシンガの姿が見えるし、どうやら昨日と同じメンバーみたいだな。
俺が歩いていくと、いち早くバーグが近付いて来た。
「もしかして、君が森の通行許可証を貰ったのか?」
流石にギルドから連絡を受けてたか。
「そうだ。何度か出入りすることになると思う」
「なるほど、取り合えず許可証の確認をさせてくれ。言葉だけじゃ流石に不味いからな」
「確かにそうだろうな。これだ」
「確かに伯爵家の印章だな、返すよ。で魔物は斃すのか?」
「必要とあれば。必要なければ、そのまま素通りするつもりだ」
「そうか、まあ気を付けて行ってくれ」
バーグを置いて森の入口に向かう。
槍を構えて一歩を踏み出すと、早速石が何個か飛んでくる。
それを合図に俺は一気に走り出した。
暫く走り、冒険者から見えなくなった頃合いで隠密スキルを使い気配を消す。
途端にスロー・モンキーが慌て出し、それを俺はジッと観察する。
見える範囲で二十程のスロー・モンキーがいるが、慌て出したやつらは同じ方向を気にしてるみたいだ。
俺も確認するために遠見スキルも使用して、その方向に注視した。
すると、木の陰から今までで一番大きなスロー・モンキーが姿を出して何やら指示してる様子だった。
たぶん大きなヤツがリーダーで、部下に指示を出してるのだろう。
となるとリーダーらしきヤツをを斃して、様子を見てみた方が良さそうだな。
さて、どう攻撃するかだが?
木に刺さって回収が面倒になるから、槍を投げるのはダメだ。
金串は試してないから自信が無い。
消去法だと魔法になるが、距離が遠過ぎる。
ならば魔法の有効圏内まで近付くしかないな。
ゆっくり慎重に背後に回り込むように移動をする。
慌てて動くと隠密の効力が下がるから見付かり易くなってしまう。
隠密で消せるのは気配だけだし、音に注意しなければならない。
特にこんな森の中では、注意していなければ音の鳴る物は多いのだ。
枯れ草、落ち葉、枯れ枝などなど。
直ぐ背後の木の陰まで到着し、対象の姿を再確認する。
やはり明らかに体が大きい、二周りぐらいだろうか?
背中に三つ、瘤の様な物がある?と違和感に気付いた。
ジッと観察していると、瘤の一つが動いた。
あっ!子供!
つまり、あの大きな個体はメスってことか!
これは絶対に確保したい!
『アンバー、怖い声を出してくれるか?あいつを動けなくしたい』
『良いよ、今日はまだやってないから大丈夫!』
槍を構え、いつでも飛び出せるように準備し、ついで魔法も準備をする。
使うのは風槌、あいつが動け無い所を上から叩き落す。
落ちてきた所で俺が槍で仕留めるという流れだ。
『じゃあ、やるぞ。今だ』
「ニ゙ャーーー!」
上手く硬直したな。
じゃあ俺の番「風槌!」。
当たった!
落ちてくるぞ!
俺は待ち構えるように槍を構えて飛び出す。
地面に落ちきる前の空中で槍を一突き!
「仕留めた!」
俺はつい嬉しさの余り声を上げてしまった。
そこに「「「「ギャー!ギー!キー!」」」」と連続して周囲のスロー・モンキーが狂った様に叫びだした。
何が起きたんだ!
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