第103話
「すまない、君が悪く無いことは分かってるんだ。こいつの早とちりだってことも分かってる。君には意味が分から無いと思うが、今この森は伯爵家からの通達で入ってはならないと通達されてるんだよ」
・・・なるほど!やっと意味が分かってきた。
俺が入っちゃいけないはずの森から出てきた。
シンガは俺が通達を無視して森に入ったと勘違いしたってことか!
「やっと、何を言われてたか分かったよ。俺は反対側から街道を通って森を抜けて来たんだ。進入禁止の通達なんて知らなかった」
「だろうな。俺達はギルドの依頼で森の監視をしてるんだ。魔物が出てこないようにと、無謀な冒険者や商人が森に入らないようにだな」
ふーん、ギルドの依頼で監視をしてたのか。
「で、誤解が解けたんなら、もう行っても良いか?疲れてるんだ」
「もう少し良いか?俺はバーグ、四つ星だ。森の中のことを聞きたいんだが?」
「エドガーだ。凄い数のスロー・モンキーがいることしか知らないぞ?」
「どうやって森を抜けたんだ?」
「スキルを使って走り抜けたとしか言えないな」
「どんなスキルだってんだ!抜けれる訳無いだろ!」
「シンガ黙れ!スキルを詮索するようなことをして、すまない!こいつにもマナー違反だってことは分かってるはず、後でしっかりと言い聞かせるから許してやってくれ」
あのシンガってのは、普通に喋れないのか?
どうにも敵対心剥き出しで、雰囲気が雑魚っぽいぞ。
「元々聞かれても答える気なんか無いから、気にしなくていい。俺はもう行く。届け物があるんでな」
「そのために森を抜けて来たのか?」
「ああ、急ぎだってことだったからな」
「ちなみに誰に届けるのか聞いても良いか?」
まあ、これから向かうんだし、どうせ俺が行けばバレるだろうな。
「トルナーバ伯爵。送り主も聞きたいか?聞いて後悔しないならだが」
「いや、やめておく。命は惜しい」
そこまでじゃないと思うが、聞かないならそれで良いだろう。
疲れてるのに、変なヤツに絡まれて面倒だったなと思いつつ俺は歩き出した。
*** *** *** *** *** ***
俺は、槍を片手に持って肩に猫を乗せた変わった冒険者が去って行く姿を見送っていた。
星の数は分からないが、エドガーと名乗った彼は、それなりの使い手だと分かった。
身のこなし、重心の取り方、そんな僅かなところで判断しただけだったが、同じ槍を使う者として、俺では勝てないと感じたのだ。
「バーグさん、本当に行かせて良かったんですか?」
「お前は本当に頭を使えよ!俺やお前じゃあ手も足も出ない相手だぞ」
「そっ、そんな馬鹿な!」
「はぁー、どっちみち彼は通達されていない森の向こうから来たんだ、俺達に彼を咎めることはできないだろ?」
「それは、そうかもしれないけど・・・」
「それと人のスキルを聞くようなマナー違反をするな!お前が痛い目を見ることになるぞ!分かったな!分かったら監視に戻れ!」
話を切り上げ、シンガを持ち場に戻しながら、もう一度彼が歩いて行った方を見る。
遠くに点にしか見えない彼の後ろ姿を見て、『世の中は広い。彼のような実力者がゴロゴロしてるんだろうな』俺は、そんな風に思った。
*** *** *** *** *** ***
伯爵の領都に入り、一路伯爵邸を目指す。
まあ一番大きな建物に向かってるだけだが。
立派な門の両脇に門衛が立っていた。
「ナイフォード侯爵様からトルナーバ伯爵宛に手紙を届けるよう依頼された冒険者だ。すまないが伯爵様に取次ぎを願いたい」
「侯爵様から伯爵様にか?手紙を確認できるか?」
あー贋物だと不味いだろうしな。
「これだ。こちらに侯爵様の印章も押されている」
「確かに帝国貴族の蝋封だな。私では侯爵様の印章の確認はできないので、分かる者を呼んでくる、しばし待っていてくれ」
それから来た人が印章の確認をして中に案内され、執事に引き継がれ、長い廊下を歩き、立派な扉の前まで案内された。
「旦那様、お客様です」
「誰だ?」
「ナイフォード侯爵様からの手紙を届けに来た冒険者の方です」
「ナイフォード侯爵・・・分かった、入ってもらいなさい」
今、間があったよな、何でだ?
「失礼いたします。どうぞ中へ」
「失礼します。侯爵様から依頼された冒険者、エドガーです。こちらがお預かりした手紙です」
手元の手紙を見せ、執事に渡す。
「確かに侯爵家の印章。読ませてもらおう・・・・・・執事長のセバーを呼んで、交代を」
「畏まりました。少々お待ちくださいませ」
執事を下がらせ執事長を呼ぶって事は、ここからは内密の話かな?
「どうぞ座ってくれたまえ。執事長が来る前に一つ聞きたい。手紙の内容を知っているか?」
「事前に聞いた内容だけで、正確な内容は知りません」
だって、読んだらヤバイって言われたし。
「そうか。事前の内容とは?」
「二つ目の質問ですが答えましょう。仲介人として薬師から回復薬を調達することですね」
まあ、俺が提案したことだけど。
コンッコンッ!
「旦那様、セバーでございます」
「入りなさい」
入って来た執事長のセバーさんは、白髪の渋い見た目の人だった。
うわっ!かっこいいな!
「これを読んでくれ」
伯爵が侯爵の手紙を渡してる。
執事長の意見が聞きたいのかな?
「・・・旦那様、これが本当でしたら、交渉が楽になるかと」
「セバーも、そう思うか。しかし、現物を見ないで早計に交渉はできん。ここに書かれている上級の回復薬はどのくらいで準備できるかな?」
慎重なことは良いことだ。
「上級ですか。素材の入手からになりますし、三本程度なら五日程度は時間が必要かと。数が必要なら、もっと時間が掛かりますが」
じっさいは二日もあれば作れると思うけど、やりたいこともあるし余裕は必要だよな。
「旦那様、五日で三本は破格の早さかと。普通に探せば年単位の時間が必要です」
「分かった。それで、薬師殿に会わせていただくことはできないのかな?」
それは会いたいでしょうね。
でも無理ですよ。
「それは難しいかと。薬師は北の街道の先、分岐路の町にいますので」
「なっ!君はどうやって、この街に来たと言うんだね」
あっ!疑ってる?
「北の街道を通って」
「あの魔物の群れを突っ切って来たと?」
証拠としてスロー・モンキーの尻尾を束で見せておいた。
やっぱり驚いてるな。
「ああ、それで一つお願いがあります。森を封鎖されているようですが、通行する許可をいただきたい。迂回すると時間が掛かるので」
「・・・・・・」
その「また森を通るのか?」って顔、ポーカーフェイスが崩れてますよ、伯爵。
まあ、結局は通行許可証を発行して貰えることになったし、薬も依頼された。
三本のでき具合によっては、追加注文あり、だそうだ。
報酬は、成功報酬で一本金貨十五枚と破格の値段だった。
普通でも金貨十枚程度が上限のはずなのだが、まあ多い分には困ることは無い。
最終的には執事長のセバーさんが、用意してくれた通行許可証の説明を兼ねてギルドに付き添うことになってしまった、それも伯爵家の馬車で・・・
目立つことこの上ない状況だけど、断ることはできなかったよ。
はぁー、面倒事の臭いがする・・・
その後、ギルドは問題無く通行許可証のことを周知すると言ってくれたんだけど、セバーさんは現在森を監視してる冒険者にも話をすると言って一緒に森に行くことになってしまった。
さっきのことがあるのに・・・行きたくないなぁ。
凄く嫌だったが行かない訳にもいかず、行ってみたら拍子抜け。
トラブった彼らは夜勤の冒険者と交代した後だった。
なので、話もすんなりと終了。
で、今日はもう遅いし、伯爵家の紹介で宿に宿泊することになった。
宿は案の定高級宿で、何か凄く敷居が高い感じの所だった。
セバーさんには「明日朝一で移動するので、戻ってくるのは五日後の午後になる」と伝えておいた。
これで余計な干渉はされないだろう。
ゆっくり寝て明日に備えるか!
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