第96話

面倒なことは早く片付けようと、侯爵の所から直接冒険者ギルドにやってきた。

広いギルド内を冒険者用の窓口まで歩いていると、窓口に見たことのある人物が立っている。

思わず、何でここにいるんだ?と疑問に思っていると、その人物が俺の視線に気付いたのか振り返った。


「おうっ!エドガー。丁度良いとこに来たな」と片手を挙げて俺を呼ぶ。


さっきまで話題にしてた人物に呼ばれることに、何となく違和感があったが無視もできない。


「どうしたんだ?漁業ギルドのギルド長がこんなとこに来て」と話し掛けるしかなかった。


「お前に保留してもらってた例の件の処分内容を伝えに来たんだ」

「別に宿でも良かっただろ?」


「お前の猫に手出ししかけたなんて、あの宿で話してみろ、惨いことになるぞ」

「あぁー女将さんが怒り狂うかも・・・」


「だろ?だから、こっちに来たんだ」

「で、あの馬鹿の処分はどうなったんだ?」


「流石に漁師にギルドからの脱退はやり過ぎだって意見が多くてな、厳重注意と罰金で勘弁してくれないか?」

「おいおい、俺に処分内容を決めさせようってか?」


「そう言う訳じゃ無いんだが、俺も色々あってな。あいつだけを厳しく処分できんのだ」


自分も侯爵に処分されてるからか?


「それで、罰金ってのは具体的にいくらで?どうするつもりなんだ?」

「仮で決まっているのは金貨五枚、あいつの半年分の収入だな。それを被害を受けたエドガーに払うってことになる」


「それを払おうとすれば生活ができんだろ?」

「勿論、あいつに一括で払えるなんて思ってねぇ。ギルドで建て替えて、分割で返済させる」


ふむ、割とまともな処分だろうな。

金額はちょっと多過ぎる気がするが、俺が冒険者で侯爵と面識があって、あの宿を敵に廻す可能性を考えるなら妥当か?


「分かった、それで良い。罰金はギルドに渡しておいてくれ」

「おう、話がまとまって良かったぜ!明日にでも手配しとくぞ」と俺の肩をバシンッと叩いてギルドを出て行った。


『痛ってぇよ!馬鹿力がっ!』と言葉には出さずに内心で文句を言いつつ、窓口へ達成報告を差し出した。


「指名依頼の達成報告ですね。サインと追加報酬ですか?分かりました。少々お待ちください」

そう言って報酬の精算に行ってしまった。

まあ俺は、ボーっと待ってるだけだ。


「ようっ!あんちゃん。他所から来たのか?」

突然背後から声を掛けられ、ゆっくりと振り向く。

目の前にはニカッっと笑った無精髭のデカイ男が両手斧を背に立っていた。


特に隠すことも無いので「ちょっと前からここで依頼を受けてるが?」と答えた。


「やっぱり他所から来たんだな!何となく俺と同じ感じがしてな!俺は連合から商隊の護衛で来たんだ。あんちゃんは何処からだ?」

「俺は王国からだが、何か用があるのか?」


「そうそう、それだ!俺はレッドス。俺も相棒がいてな、同伴しても良い宿があるなら教えて欲しかったんだ」とアンバーを指す。

「俺はエドガーだ。良い宿は知ってるが、連れは?」


「あそこで寝てる狼だ」と立てた親指で壁際で寝てる相棒を指した。


うん、あの大きさなら問題無いだろう。


「少し待てるか?報酬を受け取ったら宿に戻るつもりだし案内するぞ」

「そりゃあ助かる。あそこで相棒と待ってるから声掛けてくれ」


そう言って立ち去る男と入れ替えに窓口に報酬の入った袋を持って戻って来た男性と受け取りの手続きをした。

当初の指名依頼報酬が金貨二十枚、追加報酬が金貨五枚、合わせて金貨二十五枚。

確かに、確認した袋の中身は二十五枚の金貨がある。

受け取り証にサインをして終了!


さて、じゃあ宿に帰るか。


『アンバー、さっきの男と相棒の狼を連れて宿に戻るぞ。戻ったら昼飯にしよう』

『やったぁ、お腹すいてたんだよ』

『分かった、分かった。待たせて悪かったよ』


アンバーの喉元をワシワシっと撫でて歩き出す。


「すまんな、待たせた」

「たいした時間じゃなかったからな、大丈夫だ。紹介しとくな、こいつが相棒のブロムってんだ」と隣で大人しくしている狼を紹介してくれた。


「じゃあ俺の相棒も紹介するか、アンバーって言うんだ」

「そうかアンバーか、瞳の色からか?」


「分かるか?綺麗な色をしてるだろ?」

「そうだな、美人さんだ」

「ウ、ニャン『美人だなんて・・・』」とアンバーが照れてた。


じゃあ宿に案内しよう。


「宿の名前は"動物の憩い亭”って言ってな、この辺じゃあ珍しい獣人の女将がいるんだ。獣人?問題無いよな?」

「ああ、問題無いぞ。俺も何人か知り合いがいるしな」


「そこには猫、犬、鳥と色んな動物がいる。相棒にとっては居心地の良い宿だと思うぞ。動物や従魔用の食事も用意してくれるしな」

「そりゃあ良い!」


宿の説明などをしながら歩いていると、あっと言う間に宿に到着してた。


「女将さん!客を連れてきたぞ!」

「はいニャ!エドガーニャ!お客さんて、その人かニャ?」

「ああ、ギルドで知り合ってな。相棒の狼がいるから良い宿を紹介してくれって言うから連れて来たぞ」

「ありがとニャ!で、お客さんは何泊するニャ?」

「女将さん、俺は部屋に行くから、後は頼むよ。レッドスまたな」

「ああー、エドガー助かった!」


部屋に入って荷物を置き、アンバーに話しかけた。


『直ぐに昼飯にするか?』

『直ぐ行こう』


そう言われて、折り返しで階下へ下り食堂に向かった。

カウンターで旦那に声を掛け、昼食を頼むと礼を言われた。


「客を連れてきてくれたんだって、ありがとよ」

「別に構わないさ。俺も宿に戻る所だったってだけだからな」


「まあ、礼だ。肉を追加しといたぞ」と昼食を受け取った。


席に座って、アンバーと一緒に昼飯を食べつつ、今後のことを相談する。


四日はこの街で時間を潰す必要があるし、何かしてないと暇過ぎる。


『エドガーは、斃した魔物からスキルを自分の物にできるんだよね?もっと集めれば役に立つんじゃないの?』

『そりゃあ、理屈ではそうだけど・・・沢山あっても、何があったか忘れてしまって思い出せないってことになるだろ?』

『でも、あると便利でしょ?』

『確かにそうだけど・・・アンバーは何があると便利だと思うんだ?』

『収納!もっと沢山入るようになったり、長い間保管できたりすると便利!』

『収納か?確かに便利だけど、収納スキル持ってる魔物なんて知らないぞ?』

『ギルドで調べるとか、聞くとかしたら?』

『なるほど、そういう情報を取り扱うのもギルドだな。ちょっと興味はあるし調べて見るか』

『そうしよ!で、長く保管できるようになったら、沢山料理を入れておくの!そうしたら、いつでも美味しい物が食べられるでしょ!』


おいおい、食い意地が酷くなってないか?

料理のために収納スキルを集めろってかよ!



アンバーにも困ったもんだなぁ。

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