第85話

うわっ!本当に面倒な素材が必要な薬だな。


それが、流れ込んできた変身解除薬の最初の感想だった。

どう考えても、この状況を打破するのに必要な薬が簡単な物であるはずは無く。

必然と言えば、その通りである事を認めざるを得ない。


中でも扱いも薬としての製薬も面倒な素材が一つ〈髑髏草どくろそう〉と言うやつが含まれていた。

髑髏草は、本来別の呼び名のある普通の植物なのだが、花が枯れて種ができる時に、ある条件が揃うと髑髏草と言う素材に変化するのだ。

は分かっていないが、素材として扱うのは、その枯れた花と種子で葉や茎などは使わない。

何故?髑髏草と言うかと言えば、枯れた花が種子を作ると、その見た目が髑髏のように見えるからだ。


さて、この素材の何が扱い難いかと言いえば、その種子の持つ毒性だろう。

採取してから適切に処理するまでは、非常に強い毒性を持ってて、その毒が空気中にも発散されてるから、その場にいるだけでヤバいのだ。


そんな危険物をどうやって採取するかって言うと、その毒を中和してくれる中和薬を飲んでから採取するわけ。

だから採取前に、その中和薬を作る必要があるんだよ。


毒が発散される範囲はそれほど広くないけど、採取後も毒は発散されてるから、人がいる所では作業できないし、俺自身は中和薬を飲み続けないといけないのだ。

そんな理由で、面倒な薬なんだよ変身解除薬って。


はあー、アンバーは毒が効かないって言ってたけど、俺が心配だし一緒に薬を用意した方が良いだろうな。

中和薬は二倍必要になるけど・・・


現状は分かったから、後は湖の状況を確認しないと。


今の湖の状況を知ってるかな?


『魚が獲れなくなっているのでしょう。それは私の力が使えないのが原因です』


あーやっぱりそうなんだ。


じゃあ、どのくらいで全く獲れなくなるのかな?


『二週間程度で魚が全滅すると思います。そうなってからでは、回復させるのに時間が掛かります。できれば、それまでに力を取り戻したいです』


猶予は十日ってところか。

またまたギリギリの日程になりそうだな。

こりゃあ、早目に侯爵家に話をしないと間に合わなくなるぞ。


状況も希望も理解したし、俺達が来るまでは隠れてもらって、誰にも会わないように!


『分かったわ。これ以上何かされても困るし、大人しく隠れておくわ』


了承の返事も貰ったし、一端、街に帰る事にしよう。

で、明日から急いで準備しないとな。



翌朝一番に街に戻り、直ぐに侯爵邸に向かう。

侯爵家から指名依頼をしてもらうためである。

何故、指名依頼か?と言えば、漁業ギルドと揉めないための布石と言うところかな。


侯爵邸の門前で守衛に執事長への取次ぎを願い出た。

俺は平民の冒険者だし、前回の指名依頼の件は伏せることになっているからだ。


その後、思ったよりも待たされたが、無事執事長に会うことができた。


「エドガー様、何やら相談があると聞きましたが?」

ここは単刀直入に聞くしかないだろ。


漁業ギルドから緊急会談の話があったんじゃないかな?


「・・・ございました。もしや、何か解決策がおありで?」


俺には無い、けど、俺の仲介してる薬師にはあるようだ。


「っ!直ぐに旦那様との面会の準備を整えます。こちらで少々お待ちください」


侯爵家の面々は指名依頼の件で俺を信用してくれてるからか、動きが早いなぁ。

執事長のさっきの動きなんか、早いのに動きに無駄が無くて、その上音も立てずにドアを閉めて行ったんだぞ!

見た目の年齢とは、かけ離れた動きに驚いたわ!

まあ俺としては話が早く進みそうで良いことなんだけど、信用し過ぎは良く無いんだけどな。

俺は罠に嵌めたりしないけど、他の人間は分からないだろ?

そういう意味で、もっと注意した方が良いとは思ってるってことだ。


少し待っていると廊下の方で、足早に近付いて来る足音が聞こえた。

この部屋のドア越しに足音が聞こえるってことは、相当急いでるから足音なんか気にしてないって感じだ。


バンッ!

「エドガー殿、本当か?」


あんまりな登場と質問にポカ~ンとしてしまい『いやいや侯爵様、何が聞きたいのか、さっぱり分からんのだが?』という心の声を口に出さないのが精一杯だった。


「旦那様、それでは何がお聞きになりたいのか伝わりません」という執事長の突っ込みで侯爵が我に返ったようだった。

「すまん。緊急事態に対して、対処方法が無く焦っておったのだ。それで、何か情報を持っているのだろう?」


俺は詳しいことは話さず、用件だけを伝えることにしていた。

と言うのも、神や神獣のことなど話しても誰も信用してはくれないと思ってのことだ。


情報と言っても、仲介してる薬師からの伝言みたいなものだ。

今現在、湖で発生している異常に対して有効な薬を作るためにある素材が必要らしい。

素材の名前はと言って、とても危険な毒草だ。

素材のある場所を探してるので、その情報が欲しい。

それと重要な伝言が一つ、猶予期間が短い。

十日以内に薬を用意できなければ、湖が元に戻るのに長い時間が必要になるらしい。


「なっなっなんということだ!その薬師殿は今どこに?」


他の素材を集めている最中だ。


「ならば必要だと言うの情報を集めれば良いのだな?」


あと、漁業ギルドと揉めたくないんで、ギルド経由で指名依頼を頼めないか?


「ああ、それも手配しよう。その薬師殿との仲介ができるエドガー殿がいてくれて助かっているのだ。それくらい何でも無い」


上手く話がまとまって良かった。

色々と嘘を吐くのは嫌だけど、本当のことが話せない以上、こうするよりも他に方法が無いんだ。

特に神に関係することと新神教のことは話がややこしくなりそうだからな。

俺としては新神教が裏で暗躍して良からぬことをしていると話したいところだが、それをすると説明のために神との会話も話さないとならなくなりそうで避けただけなのだ。


しかし、仲介人の俺の相手役である薬師という人物を作っておいてよかった。

俺が目立たずにすむのは、全部薬師のお陰だしな。


えっ!充分目立ってるって、薬師がいなかった時と比べたら目立ち具合が全然違うだろ!



ホントに感謝するわ、俺の影武者である幻の薬師よっ!

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