第65話
「あー美味かったよな、あのキノコ・・・」
寝てから朝起きても忘れられない、あのキノコの美味さ。
マジで、あのキノコは危ないな!
本当にギルドに買い取りに出しても良いんだろうか?
なんか奪い合いが起きる予感がするんだが・・・
採取場所は非常に分かり難い所だし、簡単に見つかりはしないだろうから、余計に俺へ視線が集まりそうだよなぁ。
あれは・・・アンバーが見つけたアンバーぐらい小さくないと入れない岩の割れ目の奥だしな。
アンバーが別に俺が入れるぐらいの入口を見つけてくれたから行けただけで普通なら無理。
俺が入れるって言っても、四つん這いでギリギリだったし。
周囲を岩に囲まれていて、適度に湿気があって、でも岩の隙間から光が入っていて、確かに菌類の生息に適した場所だった。
もっと採ってこいとか言われそうだけど、これしか手に入らなかったって事で断ろう。
そう心に決めて、でも自分の分はいくらか欲しいんで採取には行くぞ!
・・・乾燥させたら、保存できないかな?
あっ!でも、不味くなったら嫌だなぁ。
小さいやつで、乾燥させてみようか。
上手くいけば保存しといて、また食べられるんだし。
その日は採取してきたキノコの小さい物を干しキノコに加工してみた。
結果としては、俺的には成功だが、ギルドではどう評価されるか分からん感じ。
まあ、納品用は未加工で、俺達の分は日持ちがする加工ずみにする事にした。
それから二日間は、採取と周辺の地理や素材の情報集め、あと例のキノコを干すなどの作業をして過ごした。
で、今はラフターンに向かって移動中。
既に森から出て街道を進んでいるのだが、荷馬車の往来が多い。
流石は"交易都市"と言う事だろう。
街道の先にラフターンの街壁が見えてきたな。
進んで行くと、街に入るための列が二つある。
一つは荷馬車用かな、荷馬車ばかりが並んでいる。
もう一つが旅人用だろう、こっちは徒歩の人間ばかりが並んでいた。
俺も旅人用の列に並んで順番を待った。
「次!・・・冒険者か・・・」
冒険者証を提示したから、その確認をしている門衛。
「犯罪歴は無いようだな、通って良し!次!」
返された冒険者証を受け取り、門を潜った。
ラフターンは、なかなか人の多い活気のある街のようだった。
朝食を食べ、仮の拠点を引き払い、森と街道を抜けて到着したとは思えない早い時間での到着だったこともあり、まだ充分に昼時と言える。
先に食事にするか、ギルドに顔を出すか、宿屋の確保を優先するかの三択で悩む。
だが、人の多さを考えると宿屋の確保を優先したいところである。
といって、良い宿屋を知っているはずも無い。
結果として、ギルドに顔を出し、宿を紹介してもらうという方法を取る事にした。
道端にある屋台で昼食代わりに色々買って食べながら、ギルドの場所や街の様子を聞いておく。
食べ歩きに近い状況だったが、それほど時間も掛からずにギルドに到着できたのだった。
ギルドは、とても大きかった。
交易都市の名前通りに商隊の護衛が多いためだろうか、入口も冒険者用と依頼用と分かれていた。
中に入ると、入口は分かれていたが中は腰ぐらいの高さの仕切りで分かれているだけで、どちらを見るのにも支障は無い。
これは、なかなか考えられていると感心した。
仮とはいえ、冒険者ギルドで働いていた俺は、依頼人と冒険者のトラブルを見た事があるからだ。
たかが腰高の仕切りとはいえ、明確に区分しているのが良い。
双方が入り乱れると無駄な争いが生まれる可能性があるからだ。
ギルドを他に二箇所しか知らないが、随分と違うものだと感じながら受付に向かう。
二つ空いていた受け付けの内、男性職員の方を選んだのだが、特に理由は無かった。
なにやら、やらかしそうな気がしたのかもしれない。
「すまない。今日来たばかりだが、道中でちょっと珍しい物を手に入れたんだ。余り目立ちたくないし、別の場所で見てもらえないか?」
そう男性に声を掛けた。
男性は何も言わずに一瞬だけ俺を見て「付いて来てくれ」と席を立った。
他のギルドにもある小さな個室に案内され向かい合って座る。
冒険者証を渡し、荷背負いから布袋を出す。
「一つ星が随分と遠出をしたんだな」
「色々事情があるんだ。で、本題はこれなんだが、見てくれ」
出した布袋を男性の前に押し出した。
男性の顔には、疑いの感情が見える。
たぶん『一つ星の珍しい物なんて、どうせ』みたいな感じだろう。
だが男性は無造作に袋の中を覗き込み、次の瞬間・・・固まった。
ギギギと音のしそうな動きで俺を見た男性の目は『コレが何か知ってるのか?』と『どこで見つけた?』という感情を俺にぶつけてきた。
まあ、その気持ちは分かるが、採取場所の情報なんか教えられる訳が無い。
「そりゃそうだな」
随分あっさりと引いたなと思いながらも話を続ける。
余りに珍し過ぎて、相場も分からんシロモノである。
受付で他人に見せるなど、トラブルを呼び込むだけだと分かってもらえるだろう。
「コイツには、相場なんて無いんだよ。欲しいと言う奴は山ほどいるんだ。あると分かれば競って競り始める」
それほどか?
いや、それほどだな!
アレはマジでヤバイもんな。
そうは言っても、ギルドで買い取ってくれるんだろ?
「直ぐに現金化はできない。ってか、すると不味いんだ」
そう言って説明を始める男性の言葉に、呆れるしかなかった。
要は、交易都市と言うだけあって商家の力が強いらしい。
領主はともかくとして、一般貴族では商家を抑えられないのだと。
で、貴族も商家も関係無く、コレは取り合いになる。
通常なら、依頼の順番に処理するのが普通なので、問題にもならない。
だが、コイツだけは、依頼を出している全ての人間に連絡してセリをしないと死人が出るかもしれない。
・・・どこの中毒患者だよ!
と言いたかったが我慢をした。
「分かった、預けるよ」
「ありがたい!感謝する!」と頭を下げる男性に「止めろ」と言う。
「それと隣の王国のスラージャルの騎士団から俺宛に金貨四枚の報酬があるはずなんで確認してくれるか?」
「何をしたんだ?」
「盗賊団の情報を売ったんだよ」
「分かった、それも確認しておこう。支払いは急ぐか?それともコレと一緒にするか?」
「先にくれ。ソレを待ってると時間が掛かりそうだ」
「確かにな」
それよりも聞きたいのは、良い宿の情報だった。
どれだけ滞在するか分からないが、居心地の良い宿屋が良いのは誰でも一緒だろう。
「それならお勧めがある。ギルドの裏手にある"回る車輪"って宿屋だ。冒険者向きの宿だし、飯も美味い」
おおー、それは良いな。
食事は、不味いより美味い方が断然良い。
「ザーレに紹介されたって言えば、確実に泊まれる。今後の連絡も、ギルドか宿の方にするからな」
連絡方法を明確にしてくれると助かるな。
預かり証と報酬の金貨四枚を貰い、ザーレのサインを確認して席を立つ。
が、肩のアンバーが俺の顔をテシテシと叩いてきた。
どうもキノコを売るのが気に入らない様子・・・だが、売るって言ってあったよな?
「嫌なのか?」
「ナーゥ『やっぱり嫌』」
うーん、困ったぞ。
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