第45話

森での野営訓練は、想像してたより過酷?スパルタ?言い方は色々あるが、言ってた通りハードだった。

スレップスさんは理論派、バージェンさん実践派、って事もあって指示がバラバラ、受ける方の俺はアタフタしてた。

それでも経験に基いた知識と言うのは貴重で、そんな理由が!とか、それは重要だ!とか、目から鱗が落ちるような知識がいっぱいだった。


例えば森で動物除けに使える植物とか、魔物除けに使える植物とかは調薬スキルの知識で何種類かを混合するのが普通なのに、単体でも使い方で効果があるなんて知らなかった。


そんな現役冒険者でも上位のチームの斥候に教えてもらえる機会などもう無いだろうと、寝る間も惜しんで話を聞き、実践し、失敗して知識を蓄えた二日間だった。

楽しかったのは警戒用とか狩猟用の罠の作り方や設置の仕方。

一人で野営するには必須だと思ったし、なかなか興味深かった。


あと、街に近い森なら確実にあって有効利用できそうなのが、斥候の訓練用の金具。

木の幹の俺の身長の三倍ぐらいの所に輪になった金具が打ち込んであって、それにロープを通して寝床を吊るすって方法。

動物や魔物に襲われ難く、一人でもそれなりに睡眠が取れるとあって、見つけ方をしっかりと教えてもらった。


最終的には、本当に憶えきれたか分からないほどの知識を惜しげも無く教えてもらえ、疑問が湧くほどだった。


「良いんだって!冒険者の知識ってなぁ、引き継いで、有効利用してナンボってもんだ」

「そうそう!しっかり憶えて使ってくれよ。そんで、お前が生き残ってくれりゃあ文句はねぇさ!」


そんな言葉に、不意に目から汗が出そうになるけど我慢!

だって、もうそろそろ二人とも別れる時間が迫ってる。

最後に泣き顔など見せるもんじゃ無いだろ!


二人が荷物をまとめて用意してるのを見守る。

用意の終わった荷物を背に、二人が俺を見る。

「「俺達のリーダーからお前に選別だ!」」と差し出されたのは・・・アノ石か!これっ!


「これって宝石ですか?」

惚けて、何だか分からない振りで聞いて見る。


「いや、違うらしいぞ。何か良く分かってねぇんだ。でも、お前が同じモン持ってるだろ?」

「だったら、何かに使えるんだろうってな!盗賊団の分配の時に見つけてブン取っといた!」

えっ!知ってたの?俺が持ってるの!

でも、何で持ってるか?とかは知らないって感じか。


「えーっと、それ、たぶん、調薬スキルの上の製薬スキルとかで使えるんじゃないかと思って大事にしてるヤツと一緒かと?」

「あーやっぱりかぁ!そんな気がしてたわっ!」

「随分とコソコソしてっから、一瞬どっかから盗んできたのかと思っちまったぜ」

いやいや、勘が良過ぎだし。

確かに意図はして無かったとはいえ、盗んでるの確かだからアレ。


「まあ、貰っとけや!」とポンっと投げてきた。

慌てて受け取って、二人を見ると既に歩き始めている。


「あのっ!これっ!」

後ろ手に手を振る二人は、俺の言葉には答えず「じゃあなっ!元気でやれよっ!」「生きてりゃあ、どっかで会えるだろうよっ!」と言って帰って行った。


・・・やべっ!何か込み上げてきた。

ギルドの人達との付き合いでも半年足らず、あの二人のチームとの付き合いなんて数ヶ月しかない。

それでも、何年も過ごした街の中でこれほど心に残ってる人達は他にはいない。

理不尽に街を出る事になってしまったが、何時か・・・戻って来れたら、もう一度会いたいな・・・


*** *** *** *** *** ***


「ゼルシア様!戻って来られたんですね!」

「帰ったわい」

鷹揚に返事をしたゼルシアを見てリザベスは、領主の説得という建前の説教が効果が無かったと気付いた。


ゼルシアは割り当てられている部屋に入った途端、腹に貯まっていた何かを吐き出すように深い溜息を吐く。

「それで、ダメだったのは分かりますが、どうなったんです?」

「あの馬鹿ボンはダメだわい。人の話も忠告も聞きやしないわい」

それはつまり、エドガーを拘束するつもりだという事だ。

リザベスは、逃がして正解だった事を残念に思う。

短い付き合いだったが、エドガーの人柄はとても良かったからだ。


「で、そっちは?」

「彼は無事に外へ出ましたよ。予定通り二人が付いて行って指導してるはずです」

「そうかい、何処に向かうかは聞いたのかい?」

「いいえ、問題が起きた時に知らない方が良いかと・・・」

「そうだねぇ、その方が良いわい」

二人が残念そうにしている。


「・・・生きてる内に会えると良いが、どうなる事か分からんわい・・・」

「・・・そうですね。もう一度会えると良いですね・・・」

二人の言葉が部屋の中で、静かに溶けて消えていった。


*** *** *** *** *** ***


どれほどの時間立ち尽くしていただろう。

気付いた時には随分時間が経っていた。


「ヤバっ!今夜もここで野営じゃん!」

時間的に移動するリスクを考えて、もう一晩夜を明かす事を決めた。

どっちみち、今後何処に向かうのか決めないと行動もできない。


食糧は手持ちで二週間分ほど、乾燥させた肉や野菜、果物やパンである。

水は重量があるので革袋一つだけ。

水のある所で必ず入れ替えと補給をする必要がある。


って事で、今の内に水を汲んでこよう。

それからさっきの保存石を確認して地図と相談だな。



戻って最初に、貰った保存石を確認してみる。

確かに保存石であるようだったが、中身は空だった。

そりゃそうだ、神殿関係者から奪ったのでなければ天然の石にスキルが入っている訳がないよな。

多少残念に思いながらも、折角の餞別なので大切にしまっておいた。


その後、硬い干し肉を齧りながら、俺がせっせと集めた手書きの地図を見る。

この手書きの地図は、冒険者ギルドの書庫にあった素材関連の資料の中にあった断片的な地図を繋ぎ合わせて作った物だ。

だから街や村の位置とかは一部しか分からない。

そこに、リザベスさんがくれた水源の地図を合わせると、随分と詳しくなるんだな。


今、俺のいるのは「カルク・マンナム王国」で俗に言われる中央大陸の北西に位置してる。

南隣に「パヌミス商国連合」、東に「トライデルフト帝国」が存在し、三国の交わる中央には「大陸のヘソ」と呼ばれる秘境が存在する。

本では、深い深い谷で隔てられた土地があるらしく、色んな冒険者が挑戦したが帰って来た者がいないと言われていて「帰らずの谷」と呼ばれる方が多いらしい。


北側は北大陸と呼ばれる場所で「四獣守護王国」と言う、獣人族が統治する国がある。

「パヌミス商国連合」の更に西には西大陸があり、そこには新神教の総本山である宗教国家「デコルタ神王国」がある。


この辺までが俺が地図で確認できる国々で、それ以外に本には「メンバルト協議国」「酒と鋼の王国」「魔国」「ラー海洋国」などの名前があったが、詳しい場所はよく分かって無い。

それは、今直ぐに困る事も無いし追々調べれば良いだろうって思ってる。


で、本題。

何処に向かうかってことだ。

俺のいたトリニードの街は、「カルク・マンナム王国」内でも南の方にあって、「パヌミス商国連合」「トライデルフト帝国」のどちらに行くにも同じくらいの日数が掛かる。

今回問題になった事で、調薬スキルでやっていくのはリスキーだと反省した。

まさか、あんなに穴だらけの法律が罷り通るとは考えてなかった。

だから、折角、冒険者証があるのだし、取敢えずは冒険者で行くつもりだ。

何処か定住できそうな場所があれば、その時には考えるけど、旅の間はコッチの方が安全だと思う。


そう考えていくと、新神教が嫌いなので「デコルタ神王国」に近い「パヌミス商国連合」より、「トライデルフト帝国」の方が良い気がしてきた。



「よっし!決まりだ。トライデルフト帝国の方に行こう!」



えっ!何で国を出るのか?って今更何?

考えれば分かるだろ!

領主でアレなんだぞ!

同じ国にいたら、追われる日々が待ってそうだろっ!

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