第31話

俺の予想では、リザベスさんの反応が怖かったけど、現実は違ってた。


一瞬だけ目を見張って、直ぐに俺達を個室に連れて行った。

それから俺達の姿を上から下まで確認して、溜息を一つ。


「デズット、エドガー君を無傷で送り届けてくれて、ありがとう」と頭を下げたのには、デズットも驚いたようでアタフタしてた。


まずは座ってから、何が起きたかの説明と対処、状況の予想、門での頼み事などを話した。

デズットの判断は間違っていなかった事をリザベスさんも保証し、ホッと一安心。


「それで、デズットの予想だけど、本当に縄張り争いかしら?」

何が気になってるんだ?

あくまで予想だし、外れる事もあるだろう?


「一番無難で一般的な予想だろ?ただ、違う可能性もあるにはある」

何があるってんだ?

冒険者の常識が分からん!


「やっぱりね。より強い魔物に縄張りを奪われた。それも群れで太刀打ちできないほどの強力な魔物。どう?」

ふぇっ!何それ?

そんなの超が付くほど不味いんじゃないか!


「だよな・・・どう考えたって群れ丸ごとってのは、そっちの可能性が高ぇよな」

・・・そうかっ!

縄張り争いなら、争ってるから数が減ってたり、傷を負ったりしてるはず。

でも、俺達が戦ったブッシュウルフには、そんな事は無かった。

つまり争う前に逃げ出したって事か!


「やっぱり、調査が必要ね。ちょっとゼルシア様に相談してみるわ。上手くいけば上級の助けが借りれると思うから」

そりゃ確かにラズーレさんの"蒼き水面"やエメラスさんの"灼熱の息吹"の力が借りられたら助かるだろうな。

ただ、進捗の具合が分からないが、神殿関係の動きしだいってとこかな?


「おっ!婆さんかっ!上級を動かせるとか、流石に元オエライサンだってか」

相変わらずデズットは口が悪いなぁ。

ゼルシア様を婆さんって、いつか本気で怒られるぞ!


「デズットが、そう、言ってたって伝えとくわ」

「まっ、待ってくれっ!そりゃ無いだろ」

「知らないわよ。自業自得でしょ」

あぁーあ、やっぱりこうなったか。

デズット、御愁傷様!



結局、話し合いと言う名の聞き取り調査がデズットの叫びで終わり、西の森の立ち入り禁止が決定した。

期間はギルドの調査が終了して安全が確保されるまでである。

これは、一般人が入っていた浅い部分も含んでいる。

状況が分からない以上、仕方無い判断だろう。

が、俺は採取ができないから、ちょっと不満だったりする。

言ってもどうにもならないけど・・・



あの突発的魔物遭遇イベントから二日、流石冒険者ギルド、というかリザベスさんだな、は迅速に情報を周知していた。

街のどこでも西の森の事を知らない者はいない、みたいな感じ。


俺の方は、自分で採取はできなかったが、リザベスさんに依頼してギルドから薬草を買取して新しい回復薬を試作している。


素人でも作れる回復薬は低級、今俺が試作してるのが通常品、その上に中級、上級、特級、完全回復薬、で神話にしか出てこない神級のエリクサーがある。

級が上がれば効果も上がる。

特級なら、切断された腕や足でも元に戻せるし、完全回復薬なら欠損も元に戻る。

神級のエリクサーに至っては、死んで三日以内なら生き返らせる事も可能だと言うから驚きだ。


ちなみに、俺の錬金術師スキルではエリクサーは作れないっぽい。

スキルを意識して、名前を思い浮かべると必要な素材が頭に浮かぶんだけど、エリクサーでは何も思い浮かばなかったんだ。

つまりは、作れないって事だとあきらめた。

あっさりとあきらめたのは、特に必要としてないからかな。

死にそうな知り合いとか、誰もいないし。


低級だと擦り傷、切り傷あたりは治せる。

もっと大きな傷なら通常品が必要だ。

毒や麻痺なんかを傷と同時に受けてるなら中級、その他の状態異常と大怪我なら上級が必要だろう。

勿論、それぞれの状態異常に対する薬もあるが、何故か割高になってしまう。

それでも中級や上級の回復薬を買うよりは安いけど、分けるのって効率が良く無いみたいだ。


今のところ用は無いけど、いつかはエリクサーも作りたい。

だけど、どのスキルが必要なのか、さっぱり見当が付かないのが現状。

やっぱ、地道にスキル集めするしかないよな。


スキル集めって言っても、その方法は思い付いてない。

まあ、魔物から得る事ができるのは分かってるし、人からも得られると知っているが、魔物は斃せば良いけど流石に人を殺して奪うのは・・・人として越えちゃあいけない壁だと思うんだよ。

って言っても、流石に悪党、例えば盗賊とかなら討伐するのに問題無いんだろうとは思う。

他の方法は・・・あっ!神殿で見付けたアノ石!

あれって最初から大量のスキルが保存されてたよな!

あれがあればスキルが手に入るじゃないか!


あっ!でも、あれが何か知らないや。

マジで何だったんだろう?アレ?

誰か知ってないかな?

あーでも、聞けないか、俺が神殿から盗ってきたの秘密にしてるし。

うーん、何も思い付かん!

取敢えず、棚上げだなっ!


だって、物が何かも、入手方法も何も分かって無いことに悩んでもどうにもならないからな。

って事は、やっぱり地道に魔物を斃して集めるのが一番簡単なのかも。

まあ、今は魔物も斃しに行けないけど。

はぁ~。

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