第30話

デズットが中央やや左寄りに陣取り、俺がその後ろからデズットがカバーできない右側を牽制するって作戦だけど、まあ、抑え込んだスキルで斃せるヤツは斃すつもりだ。

ってか、近くでデズットの戦いを見るのは初めて『アサルトラビットの時は戦闘って程でも無かったし』で、強いって聞いてはいたけど強さが良く分かってなかった。

でも、じっさいに目の前の光景は、凄い、と思った。

確かにスキルの恩恵で戦える事は分かったが、経験っていう積み重ねが無い俺には、デズットの経験を積んだ戦いはカッコ良く映ったのだ。


まあ、デズットが見てないのが分かってるから、こんな無駄な事を考えながらでも牽制の役目が全うできているんだけど。


おっ!アイツ怪我してる!アイツなら(スキルを抑え込んだ)今の俺でも斃せるな。

前ではデズットが既に四頭を斃してるし、俺も二頭、いや三頭は斃しても大丈夫かな?


その後は、特に問題も無く全滅させられた。

デズットが裂け目に合流してからは凄い楽だったな。

俺が一時的にとはいえ、戦いに慣れたのと戦う事への精神的な不安が無くなった事が良かったんだろう。

あと、デズットの戦い方は"凄い"じゃなくて"上手い"だった。

俺がやったように、一頭の進路をズラす事で次のヤツの進路を妨害したり、ワザと強めに弾いて後ろのヤツにぶつけたりと、一度に沢山のヤツと戦わなくていいように上手くコントロールしてるみたいだった。

あれが経験なんだろうな、と納得したよ。


「エドガーっ!怪我はっ!」と終わった直後に聞かれたが、特に怪我はしてなかったし「大丈夫だ!」と答えると深く溜息を吐いてた。

小声で「リザベスに殺されないですんだぜ」と言っていたが、確かに怒った時のリザベスさんは『俺も怖いな』と思った事は秘密だ。


デズットは、いきなり厳しい戦いになった事に申し訳無さそうにしてたけど、俺の頼みで採取に来たんだし、面倒なとこに出くわしたのは不可抗力だろう。


結局は、たいして採取などできずにブッシュウルフの始末に追われ、早々に帰る事になってしまったのが残念だったぐらいか。


合計三十四頭の始末は無理で、討伐した証明となる牙と"魔物石"という黒い石みたいなヤツだけを回収した。

勿論、俺はスキルを集める事も忘れなかった。

集まったスキルは爪技、牙技、遠吠え、指示、手伝い、駆け足、嗅覚、聴覚、バランスと狼系の魔物らしいスキルから、そうでないものまで沢山あった。


そうそう、何故かブッシュウルフはスキルを二つずつ持ってたんだ。

戦うのが得意なブッシュウルフは爪技と牙技、リーダーらしいのは遠吠えと指示みたいな感じ。

人間は一つしか持てないのに、おかしいだろ?

何か理由があるんじゃないかと思うんだが、思い当たる事が無かった。


「よっしっ!終わったなっ!今回の件は緊急報告案件だ、急いで帰るぞっ!」

荷物をまとめたデズットがそんな事を言ってる。

何?緊急報告案件って?


「緊急報告案件ってなぁ、今回みてぇな、いないはずの魔物と出くわした時にやるんだ。ここら辺は星の少ないヤツが出入りする所だろ、そこにこんな群れが出てみろ、皆ヤラレちまうじゃねぇか。それを防ぐのに必要なんだよっ!」

ああー、いないはずの強い魔物と遭遇したらギルドに報告して、出入りを制限するのか!

確かに、俺一人だったら死んでたもんな。

デズットに頼んで良かった、良かった。


そんな話をしながら来た道を帰るんだけど、デズットが周囲に警戒してるのかチョットピリピリしてた。

あと、返り血でチョット見た目がヤバいからかも・・・


デズットの警戒は空しくも空振り。

返り血の匂いに寄って来そうな動物も魔物も出て来なかった。

そう言う訳で街の門にも、すんなり到着したが、門の警備兵とのやり取りに時間を取られた。


何があった?とか、大丈夫か?とか、たぶん当番の警備兵が全員出てきたんじゃないか?

代わる代わる聞かれて、辟易しているとやっと事情説明を終えたデズットが出てきて「ギルドの連絡が間に合わねぇ可能性がある。ここでも注意してくれりゃあ被害が減んだろ。って事で頼んどいた」だって。


警備兵達は、デズットの背中を叩きながら「よくやった!」とか「護衛ご苦労!」とか言って称えてる。

確かに俺は助かったから、聞こえないくらい小さな声で「ありがと」と呟いといた。

本人に言うのは、恥ずか死ねる。

俺はそんなキャラじゃねぇし!


通りを歩くデズットはチラチラと見られてるが、たぶん返り血のせい。

格好が冒険者だから、何も言われず、視線も直ぐに外れる。


あっ!冒険者ギルドが見えた!せいか、帰ってきたって実感する。

けど・・・これからリザベスさんに説明する事を思い出すと途端に、気が重くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る