第13話

増産を始めて二ヶ月。

特に問題も起きず、平穏な日々を過ごした。


まあ、たまにデズットが乱入して騒いだりしてたけど、それも騒がしいってだけで俺に害は無かったし。

そうそう、ゼルシア様とも、かなり仲良くなった。

流石にギルドのお偉いさんだっただけあって、色々と知ってるし情報の宝庫みたいな人だ。

この街しか知らない俺には、彼女の話は刺激的で聞いていて引き込まれるようだった。


そんなゼルシア様は信用できる人物だと判断した。

だから・・・ずっと秘密にしてた神殿の事を話そうと決心した。


いつ?

今からだ。

俺は明日は休日だし、話が長引いても問題無いから。


事前に相談があると伝言してたからか、既に部屋には二人がいた。

ゼルシア様とリザベスさんだ。


「それで、エドガーの用って?」とリザベスさんが砕けた感じで聞いてきた。

切り出し方が分からなかった俺からすれば良い感じに聞いてもらって助かる。


「えーっと、二人とも神殿について、どう思います?」

この問いは単純に新神教の信者かどうかを確認するためだった。


「「あれは宗教じゃない」わい」

絶妙にハモった二人に驚いた。


「信者の方なら、これからの話は不味いんで一応確認しただけです」

そう断ってから話を始める事にした。

まず「最初に断っておきますが、話の途中に質問は無しで。後でまとめて答えますんで」と前置きをした。


知っているだろうが、俺が孤児だった事。

神殿の孤児院にいた事。

神殿で奉仕と言う名の清掃作業をしていた事。

それらを話す事で、これからの話の信憑性がアガルと判断した。


ある日、神殿で清掃作業をしていると、何故か気になる場所があった。

見ただけでは何も違和感が無さそうだが、拭き作業で触ると確かに手に感じる違和感があったのだ。

視界のかなり下の方、床から拳一つ分ほどの飾り巾木はばきの一部が微かに動くのだ。

一瞬、壁の不具合か?と考えたが、周囲は問題無い事から子供らしい好奇心に駆られた。

人目が無い事を確認して、再度その部分だけを重点的に調べてみた。

すると飾り巾木の装飾の一部だけが、押し込める事が分かったのだ。

好奇心のままにその部分を押し込んで・・・そこが隠し通路の開閉装置だと知った。


そこからは、まさに子供ならではの行動力で隠し通路の中の探検が始まった。

右に左にと通路を歩き回り、幾つかの発見をする事になった。


一つは、この通路の行き先。

行き先と言う言葉は間違いかもしれないが、それは領主の屋敷に通じているらしい。

途中に金属製の扉があって先には進めなかったが、扉には見覚えのある紋章が刻印されていたからだった。


二つ目は通路が崩れて埋まってしまっていたので、行き先を確認できなかった。

しかし方向から考えて、壁外(街を囲う壁の外)に続いていると思っている。


三つ目は神殿の奥の間、御神体の保管場所に続く通路だった。


最後に四つ目、今日の話で一番重要な場所。

それは神殿の神官の部屋へ通じていた。


何故神官の部屋へ通じる隠し通路が重要か?

それは、そこで俺がある事を聞き、目撃したからだ。


そこまで話した時、ゼルシア様の目に何か目に見えない力が宿ったように感じた。


まず、神官がいなくても神像と祭壇があれば誰でも儀式はできる事を知られないように神殿が隠している。

貴族からスラムの住人まで区別無く無料で誰でもスキル付与の儀式に参加できるはずだが、御布施と称して金を要求しているらしい。

基本が寄付や領主からの補助である孤児院の運営資金を神官が一部着服している。

有用なスキルを貰った子供は直ぐに引き取り手が現れていなくなるが、ただの引き取り手では無く金を貰って違法な人身売買をしている。

そして最後に、その証拠の書類や金の隠し場所も知っている。


「以上だ」と告げた瞬間、ゼルシア様は「今まで儂等の事を信用できるか見定めていたのかい?」と言った。

その言葉に俺は直ぐに頷いた。


「さて、リザベス。今の話は他言無用だわい。神殿の制圧のためにも、極秘裏に動かねばならんのだわい」

ゼルシア様が口止めをした。


その後は俺の話を聞き取るのかと思っていたのだが、数日待って欲しいと言う。

何故かと思えば、応援の人間を手配するので、同じ説明を何度もさせたくないとの事だった。

確かに何回も同じ話をするのは面倒だと感じたので了承した。


これで話は終わりだと思えば、何故か雑談につき合わされる。

時間にして一時間程、神殿の話をしてた時間も含めれば二時間を少し過ぎていただろう。

流石に宿で食事が食べれなくなると不味いので、そこで切り上げて戻る事にしたのだった。

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