第6話 閑話 デズット

俺はデズット、トリニードの街を拠点にしてる冒険者だ。

俺は通常通り隔日で受注する依頼を達成して街に戻る途中だった。

って言っても、もう街の外壁が視界に入ってるんだがな。


いつも通りの依頼。

いつも通りに帰還。

いつも通りにギルドに報告して終わるはずだった。



「デズット!お客さんが待ってるわよ!」

「リザベス、依頼終わったぞ!で、客って誰?」と聞く。

「この人よ!」と覚えの無い坊主を紹介してきた。


「んっ?誰だ坊主?」と聞けば、俺が四年前に魔物を見せて成人したら会いに来いって言ったらしい。

少しの間目を瞑って思い出す事に専念する。

・・・ああー、思い出した。

確かに、そんな話をした覚えがあるぜ!


だから聞いたんだ「って事は、冒険者になりたいのか?」ってな。

だけど坊主は、俺に相談したいって言うんだぜ。

冒険者って仕事以外で頼られるなんて、今まで無かったぜ。


そんなこんなで宿の紹介を兼ねて、定宿の"森熊の寝床"に案内したんだが・・・相談内容がスッゲー面倒臭かった。

なんなんだよ、スキル無しで中級スキルが後天的に出るって?

ありえるのか?

ってか、新神教の神殿にバレたら異端認定されるだろ?それ・・・

不味いな!成人したばっかのやつにそれは・・・


しかし調薬って、また珍しいスキルを授かったもんだな。

五年ぐらい前までは、この街にも調薬スキルを錬金術師にまで上げた爺さんがいたみたいだが、今は調薬スキル持ちが数人しかいないはず。

その影響で回復薬の値段がドンドンと値上がりしてて、俺の所属してる冒険者ギルドでも問題になってたはずだ。

確か「一番必要とする中級以下の冒険者に手が出せない値段でしか回復薬が売れないなんて!」って、リザベスが嘆いてた記憶がある。


・・・あっ!

エドガーは神殿にバレないように金が稼ぎたい。

ギルドは安定的に回復薬を手に入れて価格を下げたい。

って事は、ギルドで上手くエドガーを庇って回復薬を作ってもらえば・・・良いんじゃねぇか?


さっそく「・・・悪いようにはしないから、俺に任せてくれるか?」と聞いてみる。

悩んでる顔で「・・・内容も分からないのに、任せるってのは・・・」って、そりゃぁそうだな。


「ああっ!悪い。説明はする。エドガーは神殿に知られないように調薬のスキルを使って回復薬を売りたいって事で良いんだろ?」と確認。

エドガーの「そうだけど」って返事で、俺の考えも纏まったな。


俺は勘は良いが、頭は良く無い。

交渉なんてのは一番苦手な事だ。

こういうエドガーみたいなやつに頼られるのは嫌いじゃねぇ。

細けぇ話はリザベスに任せるしかないが、何とかしてやりてぇと思っちまうんだ。


「明日、冒険者ギルドに行ってみないと分からないが・・・」と前置きして匿名で回復薬をギルドに販売できないか交渉するって言ってやる。

その後も、なんだかんだと話をして二人で色々決め終わった頃には、外は真っ暗だったな。

「分かった。事前交渉はデズットさんに任せます。お願いします」とエドガーに頭を下げられ「よっしゃ!任せとけ!」と良い返事をしちまった。



早い時間はギルドに冒険者が溢れて依頼の奪い合いが起きるし、職員も忙しいんだ。

そんな中でリザベスに相談なんかしてられねぇ。

だから、いつもより遅い時間になってからギルドに向かった。


「あら?デズット今日は遅いわね?」


俺を見つけて一番に声を掛けてくれたのは、相談する予定のリザベスだった。

運が良いなと喜んで彼女の所に向かった.


「ちょっとリザベスに相談があるんだが?」

「相談?デズットが?私に?喧嘩?借金?・・・まさか、女性関係?」

おいおい!俺のことを何だと思ってるんだ!

「リザベス!冗談は止めろ、真面目な話だ」とチャカすリザベスを止める。


少し俺の目を見つめていた彼女は「・・・そう、誰かに頼られてるのね。分かったわ、そっちの個室で話しましょう」とカウンターの横にある個室に入っていった。

・・・?なんで分かったんだ?


「で、何を頼られているの?」

彼女から、部屋に入った瞬間に前置きも無く直球で質問されちまった。


「あー、昨日の坊主を覚えてるか?エドガーってやつなんだが?」

「勿論、私が対応したんだもの」


その返事を合図に昨夜の相談について説明を始めた。

まあ、リザベスの反応は俺の予想通りだったとだけ言っとく。


「はぁー、また随分と新神教に喧嘩を売りそうな内容なのね。その上、エドガーは孤児院出身でスキル無しなのが知られてると・・・確かに、デズットが言う通り匿名で回復薬を作らせるのが最善でしょう。冒険者ギルドが後ろ盾になるのも良い案だと思うわ。ただ、一つだけ問題があるのよ」と彼女の顔が曇った。


「何が問題だってんだ?」

「ギルド長よ。最近の回復薬不足が随分なストレスになっているみたい。真面目な性格が災いして、ちょっと歯止めが利かない感じなのよ」

「って言っても、エドガーが回復薬を作り出したら、状況も良くなるんだろう?」

「そうだとは思うわよ。でも、何か嫌な予感がするって言うか・・・」

リザベスの勘は無視できねぇ。

良く当たんだよな・・・さて、どうしたもんか?



なんだかんだと昼食を挿んでからも話し込んで、終わったのは夕刻だったぜ。

ギルド側の話はリザベスが担当してギルド長を抑えるって事に決まった。

俺の方はエドガーに話をして、リザベスの連絡を待つ事になった。


いやー、エドガーに「任せろ!」って言ったは良いが、どうなるかとヒヤヒヤしたぜ。

リザベスが頼りになるやつで良かった、良かった。


さーて、宿に戻ってエドガーに話をしとくか!

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