第5話

「んっ?誰だ坊主?」


デズットの言葉に『覚えてないのかよーーー!』と思いながらも「四年前に魔物を見せてもらったんだけど?」と問い返す。

その問いに少し目を瞑って・・・「ああっ!あの時の坊主か!」と思い出したみたいだった。


「って事は、冒険者になりたいのか?」

「あー、相談する相手もいなくて。デズットさんを頼りに来たって感じ」

「まだ決められてないって事か!良いぞ、相談にのってやる。でも、その前に依頼の達成報告をさせてくれ!」って言って"リザベスお姉さん"と話し始めてしまった。


何やら背負い袋から素材らしき物を取り出し、羊皮紙の書類と一緒に渡してる。

素材は、牙?角?植物?石??と謎の物ばかりだった。

俺のスキル"錬金術師"なら素材鑑定ができるけど、触らないと分からないんだよな。

神殿の裏の森で色々試したんで、低級の回復薬も作れたし、その素材の鑑定もできたから間違いないはず。


「待たせたな!」って振り返ったデズットさんが俺に話し掛けてきた。

「全然!で、何処で相談を聞いてくれる?ここは・・・少し酒臭いし・・・」と後半は小さな声で告げる。

「ははっ!確かにな!夕飯まで時間があるし、俺の宿まで行こうか?お前も成人したんだろ?今日泊まる宿とか必要だろうしな」と背中を押されてギルドを出る事になった。

出る前に"リザベスお姉さん"に「ありがとう」と伝える事は忘れない。

女性には礼儀正しくするのが、世の中を渡るために必要な事だと教え込まれたからだ。

誰から?って、神殿に来てたおばちゃん達からだよ!

怖いんだよ!おばちゃん・・・


十分ほど歩いて、大通りから脇に入った所にある"森熊の寝床"って宿に入る。

ここが、昔からデズットが定宿にしてる場所なんだそうだ。


「女将!帰ったぜ!」

「あらっ!デズット。今日は早いわね?まだ夕食は出せないよ?」

「ああ、分かってる。ちょっと客がいてな、今日の宿を紹介がてら連れて来た」

「あらあら!デズット、気が利くじゃないか!」とバンバン音が聞こえるくらい背中を叩かれてるけど・・・デズット、痛くないんだろうか?


「で、あんた名前は?」と俺に聞く女将さん。

「エドガーって言います。一泊いくらですか?」と問えば「デズット!あんた、説明も無しに連れて来たんだね!少しは気が利くようになったかと思えば、まだまだだねぇ」と呆れてる。


デズットは「成人したての坊主に払わせられるかっ!今日は俺が払ってやるつもりだったんだ!」と言い返す。

「なんだい!そうなら、そうと言いな!」ってまた背中を叩く女将さん。

とても俺が会話に入れる隙間が無い!


「料金だったね?一泊銀貨一枚、一週間なら銀貨六枚と銅貨五十枚、一ヶ月なら銀貨二十五枚だよ!食事は朝食だけが付くよ!」と言う女将さん。

一週間で連泊で銅貨五十枚、一ヶ月なら銀貨三枚の値引きか!

良いせんを突いてくるな、良心的な金額だろうと思う。

聞けば、旦那さんが元冒険者で若い冒険者向けに宿を始めたんだと言う。

だから料金を安くしてるんだと納得した。


その後もなんやかんやと話して、やっと部屋を取り食堂に落ち着いた頃には、結構な時間が経ってた。


座った途端「で、何の相談だ?」とデズットは直球で聞いてくる。

俺としては何処まで話すか事前に決めていた内容は、回復薬の値段が高額過ぎた事で白紙に戻すしかなく、非常に難しい判断を迫られた状態だった。


「実は・・・俺スキルの儀式で"スキル無し"だったんだけど、その後に色々試してたら"調薬"のスキルが手に入ってたんだ。でも、そんな話聞いた事が無いし、俺って孤児院にいただろ?神官に言うと不味い気がして黙ってたんだ。で、回復薬を作れば生活できるかな?って思ってたんだけど・・・さっきギルドで聞いたら、凄い高額で販売されてるって聞いて。どうしたら良いか分からなくてさ」

「・・・マジか?後天的に中級スキルが発現したってのか?」と仰天した顔のデズット。


「・・・みたい」とバツが悪そうに伝える俺。

「・・・神殿に言わなかったのは、正解だな。後天的に中級スキルを発現させるには長い時間が掛かるって言われてるんだ。数年で発現するなんて、そんなの新神教の教えには無いからな。最悪、異端認定されるぞ」

「・・・やっぱり?どうすれば良いかな?他にスキルは無いし、でも生活するには稼ぎがいるし、他の街に行くほどの金銭的余裕は無いし、神殿にバレる訳にはいかないし・・・困ってるんだ」と真面目に告げた。


デズットは、しばらく考え込んでいたが「・・・悪いようにはしないから、俺に任せてくれるか?」と聞いてくる。

「・・・内容も分からないのに、任せるってのは・・・」と返事を渋る。


「ああっ!悪い。説明はする。エドガーは神殿に知られないように調薬のスキルを使って回復薬を売りたいって事で良いんだろ?」と俺の考えを確認してくる。

「そうだけど?」


「明日、冒険者ギルドに行ってみないと分からないが、俺が匿名で回復薬をギルドに買ってもらう交渉をしてやる。ギルドは今より多く回復薬が手に入るし、エドガーも内緒で売れるし、冒険者も助かる。値段も少し安くなるだろうし、みんなが助かるんだし悪い話じゃないだろう?」というのが提案らしい。

「そうだけど・・・」と言うが、心では『そんなに上手くいくのか?』って疑問符が浮かぶ。


「俺は、それなりにギルドの信用があるんだよ!その俺が提案する内容に、即答で"否"は無い!多少の交渉はいるだろうが、悪い条件にはさせない!」ってデズットは言い切るが、何かモヤモヤする。


「・・・冒険者ギルドで決定権のあるのって?」

「そりゃあギルド長だな!交渉もギルド長とするぞ」

ふと、脳裏に『飼い殺し』って嫌な言葉が過ぎる。

その嫌な考えを振り切れず「・・・ギルド長って、どんな人?」と聞いてみた。


「そうだなー、クッソ真面目なおっさん!」って、何て人物評価だよ!

でも、真面目なんだな・・・なら!

交渉は俺が直接しても良いかな?

少なくともギルド長にまで匿名ってのは良くない気がするし、真面目なら守秘も大丈夫だと思う。

交渉するにしても内容の確認を俺自身ができるし、それなら納得できる交渉になると思う。

ギルド長も誰が作ってる回復薬か分かってる分、信用もし易いんじゃないかな?

そう、デズットに話してみた。


「うーん、そうか・・・なら、明日はエドガーの事を秘密にしてもらえるかの事前交渉だな。神殿の件とかは面倒だし、そこに確約ができないんなら直接の顔合わせは無しにするしかないだろ?」

確かにそうだ。

俺の名前とかは伏せて、内容をデズットに伝えてもらう。

で、それで双方が納得できればお互いに顔合わせして交渉ってのが一番良い流れだろう。


「分かった。事前交渉はデズットさんに任せます。お願いします」と頭を下げれば「よっしゃ!任せとけ!」と良い返事が返ってきた。



二週間後。

俺は、冒険者ギルドの一室に仕事部屋を与えられていた。

何でかって?

そりゃあ、回復薬を作って販売するためだよ!

まあ、全部話してると長いから要点だけ。


交渉は割りとすんなり成立した。

俺の事情も神殿の事も、理解してくれた訳だ。

その上で、回復薬を作れる人間が増えるのはギルド的に大歓迎。

でも、そこで問題が浮上した。

作業する場所と納品の方法だ。

通常の調薬スキルだと、回復薬を作るさい匂いが出る。

宿で作業すれば、直ぐに匂いでバレてしまうのだ。

それに、匿名で作るのにギルドに納品に行けば、そこから俺の事がバレる可能性がある。


その問題の解決策がギルド長と担当になったリザベスさんのアイデア。

俺をデズットさんの紹介した見習いギルド員という形にして、半年間の期間限定で臨時職員にするって方法だった。

色々疑問はあるだろうが順番に説明すると、まずデズットさんは、このトリニードの街で一番強い冒険者なんだって。

そのため、ギルドに顔が効くって訳だった。

そのデズットさんの紹介した人物を断るのは、犯罪者でもなければギルド的に不味いらしいのだ。

次に、正規のギルド員になるには試験を合格しないとダメらしい。

年に一回しかないために、正規職員にするのは無理だった。


で最後が、半年っていう期間限定なんだけど。

これはリザベスさんが計算してくれたんだけど、半年分の生活費以外の売り上げを貯蓄すれば、少し街外れになるが工房付きの店舗を借りるための保証金額に届くらしい。

俺が保証金を払って、ギルドが保証人なら、神殿から街の反対側にある工房付きの店舗を借りて生活できるようになるって、そんなの反対できる訳が無い!

宿じゃなくて、自分の工房付きの店舗なんだから!


まあそんな訳で手続きや仕事部屋の準備等々に時間を使い、今日からギルドで秘密裏に回復薬を作る事になったのだ。

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