異能に目覚めた幼馴染が悪戯を仕掛けてきたので、同じく異能持ちの俺が分からせをしたら大変なことになった。

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異能のご利用は計画的に。


 突然だが、俺は異能力者だ。パチモンじゃなく、本物の。……とはいっても、それを誰かの前で自慢げに使うことはない。


 やろうと思えば犯罪にだって使えるし、女相手に好き放題することもできる。ほぼ万能な能力だと思ってもらっていいだろう。



 だけど俺は、そんなことに異能を使うほど愚かじゃない。


 この広い世の中にはきっと、俺以外にも同じような異能力者がいるはず。なのに異能がおおやけになっていないということは、そうならない理由があるということ。

 つまりは何者かが異能力者を監視し、暴走しないように管理しているのだろう。


 まぁ普通の知能を持っている奴ならば、異能力者なんて危険な存在を社会が野放しにするわけないって気付くよな。



 だから俺は家族や友人にさえ、決して異能のことをバラさなかった。


 特に目立つようなことはせず、異能はたまに試す程度。ただの平凡な高校生でいれば、いつまでも平穏な日常を過ごせるはず。


 そう思っていたのだが……。



大槻おおつき祥吾しょうごに命ずるっ! アタシが良いというまで、椅子の上で停止しなさいっ!!」


 ――ある日の放課後。

 空き教室へ呼び出された俺は、幼馴染の梓紗あずさからおかしな命令を受けていた。


 だがそれは、ただの悪ふざけではない。俺は彼女の言葉通り、椅子の上で身体を硬直させられていた。そう、まるで金縛りにあったときのように。



「ふふん、どうよ。アタシが目覚めた超能力の威力は!!」


(マジかよコイツ……!!)


 セーラー服姿の梓紗は貧相な胸を精いっぱい張りながら、得意げにこちらを見下ろしていた。その表情からは何かの冗談のようには見えない。どうやらコイツは、本気で俺の自由を奪いにきたようだ。



 しかし、さすがに驚いたな。こんなことができるのは、異能力者だけだ。まさか本当に俺以外の異能力者がいたなんて。しかもよりによって、幼馴染の梓紗が……。


 しかもこの女、何の躊躇ためらいもなく俺に異能を使ってきた。それも相手の行動を完全に掌握しょうあくする系統のものだ。


 そんな凶悪なモンを普通、幼馴染にやるか? マジで何考えてるんだコイツ。



(まぁ、俺には無意味なんだけどな)


 パキン、と頭の中で音が鳴ると、身体の拘束が一瞬で解けた。



(残念だったな、梓紗。この程度の異能なら、俺はすぐに無効化できるぜ)


 というのも、俺は異能者との遭遇を想定して、事前に一通りの防御プロテクトを自身に掛けてあるのだ。



(異能の中でも一番厄介なのは精神系だからな。いつ攻撃を仕掛けられても平気なように、普段から対策をしてあるんだよ)


 常に防御を掛けっぱなしの状態にしているおかげで、たいていの不意打ちは効かない。


 大人数が相手なら、さすがの俺も太刀打ちできないが……少なくとも目の前の馬鹿を相手に、俺が後れを取ることは有り得ない。



(さて、この馬鹿な幼馴染をどうするか。)


 ここでお仕置きをしてもいいのだが。

 俺は大人しく椅子に座ったまま、しばらく彼女の様子をうかがうことにした。



「ほ、本当に動かなくなっちゃった。ちゃんと効いているのよね? フリなんかしてたら……お、怒るからね?」


(フリに決まってんだろうが、バーカ。ていうか怒るのはこっちだっつーの)


 梓紗は向かいの席に腰掛けると、俺の頬を指でツンツンと突いてこちらの反応を確かめ始めた。


 普段の高飛車な態度とは打って変わって可愛らしい仕草だが、それでも俺は騙されない。


 こいつは昔から、自分が優位に立つとすぐに調子に乗るのだ。その証拠に、俺が何をしても無反応だと分かった瞬間、ニタァと意地の悪い笑みを浮かべた。



「ふふっ、ふふふふっ!! やった、やったわよ!! 遂に祥吾をアタシの手中に収めることができたわ!!」


 すっかり異能が決まったと勘違いしている梓紗は、スカートから伸びる健康的な太ももを見せつけるように脚を組み、勝ち誇ったように両手を広げた。


 すると彼女の長い髪が宙に浮かび上がり、まるで生き物のようにウネウネと動き出す。


 梓紗の異能は恐らく、自分の支配下に置いたものを自在に操れるサイコキネシス系なんだろう。たしかに便利な能力だが、こんなヤバそうな能力を人に使うなんて正気とは思えない。



「朝起きたらこの能力が使えるようになっててビックリしちゃったけど、これって結構すごいことだよね? うひひ、アタシの秘められし力がついに……」


(コイツ、異能を手に入れて舞い上がってやがる……!)


 梓紗は手をワキワキさせながら、気持ちの悪い笑みを浮かべている。一方で俺はそんな彼女に呆れた視線を向けていた。


 梓紗がいきなり呼び出してきた理由がこれで分かった。要するにコイツは、偶然にも異能を手に入れたから、幼馴染の俺に使ってみようと思い立ったわけだな?


 しかもこの女の性格上、このことを誰かに自慢したくて仕方がなかったんだろう。


 ……だがいくら何でも、これはやりすぎだ。異能を悪用すればどんな危険があるのか、コイツはまるで分かっていない。



(とはいえ、これはどうしたものか……)


 このまま放置しておくのはマズイ気がするが、だからといって俺も異能が使えるとはバラしたくない。



(逆にこの状況を利用して、コイツに分からせてやるか)


 どうせなら、もっと調子に乗らせてから叩こう。万能感に浸った人間は本性をむき出しにするっていうしな。


 天狗になったところを徹底的に落とす。コイツのことだから一度痛い目に遭わせないと、ちっとも反省しないだろうし。



 そう考えた俺は、梓紗に向かって異能を使ってみることにした。


(梓紗。今からお前は新たに、洗脳系の異能を手に入れる――と、思い込む)



「――あれ? なんだか急に、力が湧いてきたような……今のアタシなら、何でもできる気がする」


 さっきまでのドヤ顔が嘘のように消え、梓紗は目を丸くしながら自身の身体を見下ろした。そして手を握ったり開いたりすると、首をかしげながら俺の顔色をうかがってきた。


 よし、どうやら上手くいったようだな。これで梓紗は相手を自在に操れると思い込んだぞ。


「催眠? うぅん、洗脳っていうのかな。新しい力が目覚めたみたい……」


(さぁ、お前ならどうする?)


 梓紗の瞳をジッと見つめる。

 俺の眼差しを受けた彼女は、次第に頬が赤くなっていき、落ち着きなくモゾモゾし始めた。


 ん? おかしいな。コイツのことだから、すぐに異能を試してくると思ったんだけど……何を迷っているんだろうか。



「あ、あの……祥吾?」


 上目遣いで俺の名を呼ぶ梓紗。

 その声にいつもの威勢はなく、不安と期待が入り混じった甘えた感じの声だった。



「祥吾はアタシのこと……どう思ってるの?」


(……あ?)


 今、なんつった?


 梓紗は急に恥ずかしくなったのか、顔を伏せてしまう。



「そっか、忘れてた。えっと……大槻省吾に停止の解除を命ずるわ。代わりに、アタシの言うことをなんでも聞く奴隷になりなさい」


 梓紗は命令口調でそう言った後、ゆっくりと顔を上げた。


 いや、そんな期待に満ちた顔で言われても。しかも奴隷って。



「ねぇ、お願い。アタシのことをどう思っているか、教えて?」


(…………)


 まるで愛おしい相手を見るかのような熱い視線。だが俺は質問の意図が分からず、思考が停止してしまっていた。



「え、ちょっと。どうして何も答えないのよ!? こうしてアタシがお願いしてるのに!!」


 焦った表情を浮かべた梓紗は立ち上がって文句を言ってくる。


 だが、それでも俺は何も言わない。いや、言えなかった。


(どうしてって言われても……なんて言ったら正解なのか分かんねぇよ……)


 俺が黙ったままでいると、梓紗は悔しそうな顔をしながら唇を噛み締め始めた。



「好きって言ってよぉ……幼馴染としてじゃなくて、一人の女として……」


(は? なに言ってんだコイツ)


 俺は演技をしているのも忘れ、思わずポカンとした表情になる。


 だってそうだろ? ついさっきまで、俺を便利な道具のように扱っていたくせに。


 すると梓紗は泣きそうな顔になって、俺の手を掴んだ。



「ずっと昔から、祥吾のことが好きだったんだよ? なのにいつもアタシを冷たくあしらうだけで、全然振り向いてくれないじゃん!!」


 涙目の梓紗は必死に訴えかけてきた


 梓紗が俺のことが好きだったなんて……。それも恋愛的な意味で。だから異能まで使って俺の気持ちを確かめようと……。



「ねぇ、早く! 答えて!! じゃないと、アタシ……」


 そう言いながら、梓紗は俺の腕にしがみつく。その行動はとても大胆だったが、俺の心臓は全く高鳴らなかった。


 何故なら今の俺は、全力で自分に洗脳を使って冷静になろうとしていたから。



「す、好き……だよ?」


 どうにか自分の口を動かし、絞り出すように言葉を紡ぐ。


 すると梓紗の目が大きく見開かれた。そして信じられないものを見たような顔になると、俺の手を放して後ろに下がった。



「なっ、なにこれ。なんなの、この気持ち……頭がおかしくなりそう」


 頭をブンブン振った梓紗は、フラつきながらも再び俺に向かって歩いてきた。



「もっと、もっと欲しい……祥吾がアタシのこと、どう思っているか知りたい」


(いや、だから俺は……)


 だが梓紗は答えを待たず、手を伸ばして俺の頬に触れた。そして潤んだ瞳を向けてくる。



(待てまてまて!? お前、いったいなにを――)


「ねぇ、キスしたい。祥吾もアタシのことが好きなら……い、良いよね?」


 そう囁いた直後、梓紗の顔が近づいてきて……。



「や、やっぱり無理――!!」


 唇が触れ合う寸前。梓紗は反射的に俺の頬を右手で思いっきりぶっ叩いた。



「いってぇええ!!」


「……え? あれ?」


「いきなり人の頬っぺたを叩くとかお前、頭おかしいんじゃねぇのか!?」


「ご、ごめん!!――って、ちょっと待って。どうして反抗できるの? 祥吾はアタシの奴隷になったんじゃなかったの!?」


 あっ、やべぇ。俺が文句を言ったことで、洗脳が効いていないことがバレてしまった。


 梓紗は混乱した様子で俺の身体からバッと離れた。そして自分の身体をペタペタ触り始めると、俺をキッと睨みつけてきた。



 うわぁ……完全にキレてる。

 そりゃそうだよな。さっきまでのしおらしさが嘘みたいだもん。だけど俺は別に悪くなくない??



「じゃ、じゃあ。さっきの質問の答えも嘘だったってこと!?」

「あー……」


 ここで正直に答えるべきか悩む。

 だってコイツのことだ。なんて答えても、きっとまた逆ギレしてくるに違いない。


 すると梓紗は目尻に涙を浮かべると、俺の襟首を掴んできた。


(ヤバい、殴られる――!!)


 思わず目を瞑って歯を食いしばる。しかし、いつまで経っても痛みは襲ってこなかった。


 不思議に思って恐る恐る目蓋を開けると、梓紗がプルプル震えていた。どうしたんだろうか。まさか本当に泣いているわけじゃないよな。



「――――嘘だったの?」


 彼女は急に顔を俯かせると、もう一度小さな声で呟いた。


 それはあまりにも弱々しく、消え入りそうな声だったので、上手く聞き取ることができなかった。



 ……仕方ない、怒られるのを覚悟で本当のことを言ってやるか。



「梓紗は何か勘違いしているみたいだけど。さっき俺が言ったことは本当だよ」

「……え?」


 ゆっくりと顔を上げた梓紗は呆然としていた。



「俺だってお前のこと、ずっと前から好きだったよ。だけどお前は男子からいつもモテていたし、俺なんかじゃ釣り合わねーって思ってて……」


 今まで俺が洗脳を悪用しなかった本当の理由。それは一度でも異能でコイツの気を惹こうとしたら駄目だと思ったからだ。


 異能で作り上げた偽物の愛情なんて、いつか絶対に破綻するに決まっている。それに、こんな力を持ってしまった以上、俺にはコイツを愛する資格はないと思っていた。


 だから俺はこの恋心を捨てたのだ。



 しかし……。


 俺はふっと笑うと、梓紗の肩を優しく抱いてやった。すると驚いたように顔を上げた彼女と目が合った。



「俺の気持ち、分かってくれたか? だからもう泣くなって」

「……うん」


 そう言うと、梓紗は涙を拭いていつもの明るい笑顔を見せた。

 そして俺の胸にコテンと頭を乗せてくると、上目遣いで見つめてきた。



「やっと、アタシの想いが届いたんだね……」


 そう言って嬉しそうに微笑む。

 ドキリとするくらい可愛くて、心臓の鼓動が激しくなった。


 俺はゴクリと唾を飲み込むと、彼女の顎に手を添えて顔を近づけていく。


 梓紗はスッと瞼を閉じた。そして俺たちはどちらからともなく、唇を重ね合わせた。


 最初は軽く触れるだけのキス。

 それから少しずつ深くしていく。



「……んっ」


 舌を差し入れると、梓紗はピクンと反応したが、すぐに受け入れてくれた。そのまましばらく互いの唾液を交換し合う。


 やがて口を離すと透明な粘性のある糸が伸びていき、プツンと切れた。


 梓紗はトロンとした表情をしていて凄く色っぽい。


 そんな彼女にもう一度口づけをしようとした時、梓紗の手が俺の口を塞いだ。



「ちょっ、ちょっと待って。ねぇ、アタシひとつ気になったことがあるんだけど」


 なんだよ、せっかく良いところなのに……。


 少しムカついたが、俺は仕方なく動きを止める。



「もしかしてだけど、祥吾も変な力を持っていたりするの……?」

「え? なんでそれを……」


 俺が驚いて訊ねると、梓紗は恥ずかしげに頬を染めた。



「その、さっきアタシの身体に触れた時に違和感があったというか……。あと、今のキスがすごく上手かったから」

「あぁ、そういう……たしかに俺も異能を持っている。だけど今は何もしていないぞ」


 そこまで俺は空気を読めない男じゃない。


 異能持ちの証拠として教室の机や椅子を空中に浮かばせてやると、梓紗の顔が強張った。


 まぁ、驚くのも無理はないよな。

 今まで俺の能力を知らなかったのなら、なおさらだ。



 梓紗は目を丸くして固まっていたが、突然ハッと我に返るとニシシシと笑い出した。



「なんだ、アタシたちってお揃いじゃん!」

「そうだな。……あぁ、でも、このことは誰にも言っちゃダメだぞ」

「分かってるって! これはアタシたちだけの秘密だね♪」


 嬉しそうに笑みを浮かべる梓紗。

 俺は苦笑しながら、頭を撫でてやる。すると彼女は猫のように擦り寄ってきた。



「これからもよろしくね、祥吾」

「ああ、こちらこそ」


 夕焼けよりも更に顔を赤くした俺たちは、お互いに照れ笑いをしながら、再び唇を重ねあった。


 いろいろと遠回りがあったものの、こうして俺たちは結ばれた。


 しかし、この時の俺は知る由もなかった。

 この先の未来で、大きな災いが待ち受けているということを――。




「ところでさ。祥吾はサイコキネシス以外にも、時間を止めたりとかってできるの?」


 二人で学校から帰る途中、隣を歩いていた梓紗が何の前触れもなく質問をしてきた。ちなみに俺たちの手はしっかりと握られている。



「ん? あぁ、使えるよ。梓紗が使ったみたいに対象だけフリーズさせる異能とか、逆に自分の時間だけを加速させたりとか……ん? 急に黙りこくってどうしたんだよ」


 指を折りながら、幾つか試したことのある異能を数えていると、梓紗が無言になっていることに気が付いた。



「――それ、アタシにも使ったことあるの?」


「…………」


「たまに下着の場所が移動していたり、飲みかけのジュースが減っていたりしたことがあったんだけど……祥吾、知らない?」


「よ、用事を思い出したのでお先に失礼しまーっす!!」



 この後あえなく捕まった俺は、梓紗の異能でボッコボコにされのであった。


 異能のご利用は計画的に――。






――――――――――――――――

ご覧くださりありがとうございます!


本日より、ラブコメ長編を投稿開始しました。

『エロゲ世界にモブ転生!?主人公を美少女暗殺者から守らないとバッドエンドを迎えるそうなので、犯人と思しきヒロイン達を片っ端から寝返らせようと思います。』

https://kakuyomu.jp/works/16816927862685318842

こちらの作品は更に甘々とギャグをマシマシなので、

是非とも読んでみてください!<m(__)m>

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