七月七日
ベランダから星のない夜空を見上げ、ちひろが長いため息をついた。
この時期の日本はたいてい梅雨の真っ只中で、
俺が知る限り、織姫と彦星は会えた試しがない。
「もともと一年に一度しか会えないのに、その一日さえも会えない恋愛って続くと思う?」
ちひろがまるで自分のことのように暗い顔をするので、
俺は自分でも感心するような屁理屈を思いついた。
「会えてるんじゃない? 雲は地球の表面にあるだけで、天の川はそれよりずっと先にあるんだろ? 地球からは見えないだけで、雲の向こうは晴れてると思う」
ちひろは俺の屁理屈に満足したようで、目を輝かせて話を膨らませる。
「そっか。見えないほうが都合がいいから、わざと曇らせてるんだね」
「都合がいいって、どういうこと?」
聞き返すと、ちひろは試すように俺の顔を覗き込んだ。
こんなときちひろは、ふだんよりずっと大人びて見えて、
俺は内心ひやりとする。
「一年ぶりに会えた恋人同士が、何をするかわからない?」
そうして俺たちは、
曇った空色のカーテンにくるまり、地球の端っこで隠れてキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます