その花の色は、君の

鹿森千世

 ちひろの頬がこんなに白いのは、きっと春のせいだ。


 四月の光は白く、まだ少し冷たくて、

 ちらちら、ちらちら、雪のように花びらが降ってる。


「桜って毎年、思ってたよりも白いよね」


 ちひろの黒い頭の上、その一片が溶けずに残る。


「思い出補正ってやつじゃね?」

「思い出?」

「思い出は美化されるってやつ」


 どうせすぐに会えるのに、毎年美化するなんて馬鹿らしい、とちひろは笑い、


「じゃあうちらの関係も、思い出になれば美しくなる?」


 と俺に聞いた。



 ――うちらが大人になったら、この世界は狭くなる? 広くなる?


 それは俺が生まれて初めて好きな人とキスをした日、


 ――うちらが大人になったら、この距離は近くなる? 遠くなる?


 息のかかるような距離で、ちひろは俺にそう聞いた。



 ちひろはまだ十四歳。

 俺は先日、十五歳になった。


 

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