出会い─③

「え……、鳥……?」


俺は思わず呟く。


 俺の手の平よりも小さなその生き物は、紛れもなく小鳥だった。白と黒のその鳥は苦しそうに身体を激しく上下させ、片方の翼を守るようにして横たわっている。


 その小さな鳥は俺の気配に気がつくと、顔を上げて真っ黒な瞳で俺をじっと見据えた。吸い込まれてしまいそうな感覚に陥った。


 そっとしゃがんで目線を合わせると、小鳥は驚くことも逃げようとすることもしない。あまりにも警戒心がないので、飼育されていた鳥かと疑った。


「怪我、してるのか……?」


俺はそろりと手を伸ばす。小鳥は身体を僅かに強張らせ、警戒の色を見せた。


「……触るな」


 突然聞こえた低い声に肩を弾かせる。小鳥が俺を殺意のこもった目で睨みつけている。


「傷が悪化する」


 まるで俺を信用してないような物言いだ。しかし、俺を追い払おうというような気色は感じられない。


「まったく、わたしとしたことが。野良猫に襲われるなんて」


小鳥はぶつぶつと呟きながら、怪我した翼を庇いながら器用に立ち上がった。


「おい、手を差し出せ」


状況が飲み込めずにぽかんとしている俺を無視し、要求する。

 言われるがままに手を差し出すと、小鳥は俺の手の上に飛び乗った。鉤爪かぎづめの柔らかな痛みと羽根から伝わる熱い体温がじんわりと広がる。


「お前は……何者……?」


 俺が問うと、鳥は俺の目を見透かすようにじっと見つめた。


「……わたしは──」


そこで一度 くちばしをつぐむ。しかし、すぐに決意したかのように俺を見上げた。


「──わたしは四十雀しじゅうから。時の使い手だ」


 理解するのに時間がかかる。俺は固まって四十雀の瞳を見つめ返した。


「今すぐ全てを理解しろとは言わん。そのうちその時がくる」


四十雀はそう言って俺の両手の上で翼を広げた。そしてその瞬間、ふんわりとした風とともに浮き上がる。


「あれ、怪我は……!」


 俺の肩にそっと降り立つ四十雀は、短くため息を吐いた。


「わたしは不死身だ。このくらいの傷などすぐ治る」

「不死身……」


頭がパンクしそうだ。


「とにかく帰るぞ、蒼汰」

「は、お前も一緒に帰るのか? まて、俺の名前……」


情報量が多すぎる。一瞬くらっと目眩がした。


「うむ。お前がわたしを助けた限り、わたしにしばらく付き合ってもらう義務がある」


 なんて理不尽な奴だ。俺はむっとして四十雀を振り向いた。


「付き合うってなにに? 俺に拒否権はないのかよ」

「それは後で説明する」


四十雀はもう一度翼を広げ、俺の前でホバリングしながら真剣な面持ちで目線を合わせる。


「お前とわたしが出会ったのも何かの縁。この運命から逃れることはできないのだ」


 四十雀のその言葉に、妙に説得力を感じた。俺はもやもやしながらもゆっくりと頷く。


「まあ、どうしてもと言うのなら断っても構わん。だが、その決断はわたしの説明を聞いてからにしてもらおう」


四十雀が薄暗い空の中で言った。


 はっとして辺りを見渡すと、夕陽はすっかり見えなくなっている。あとには夕方の空気だけがうっすらと残されていた。

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