天が泣いている
夜梟
第一章
はじまり
晴れ渡る大空を見上げる。もくもくとした千切れ雲がゆったりと海の向こう側に進んでいる。
はあ、とため息をひとつ。
もう一度。
また一度。
夏の日差しは俺の肌をじりじりと焼いていく。これでは折角塗った日焼け止めも意味を成さない。
流れる汗をTシャツの裾で拭きながら、手に持っていたアイスバーを口に入れる。痛いほどの冷たさが口の中に広がり、束の間の
「
振り返ると、雑貨屋のおばあちゃんが汗を拭きながら手招きしていた。俺は短く返事をしてガードレールから飛び降りる。
何十年も前からある古い雑貨屋。なぜ今まで続いているのか不思議なくらい古い店だ。
そんな場所で、俺はバイトとして雇ってもらう代わりに住まわせてもらっている。身寄りのない俺をおばあちゃんは快く引取ってくれた。
彼女いわく、十数年前に亡くなった息子さんの若い頃に俺が似ているらしい。聞くところによると、息子さんは自殺だったとか。その未練から、俺が似ていると感じるのだろう。
「いやぁ、蒼ちゃんがいて助かったよぉ」
雑貨屋のおばあちゃんはにこにこしながら俺の背中に話しかける。レジ横に置いてある扇風機がカタカタと音を立てながら首を振った。もう何十回も言われた気がする。
「ありがとうねぇ」
「いえいえ」
俺の学校は先週から夏休みに入り、部活のとき以外は店の手伝いをするようにしている。それでも夏のコンクールの練習が続き、最近は手伝えていなかった。
「おばあちゃんこんにちはーっ!」
ドタドタというばらついた足音と共に近所の子どもたちが元気いっぱいで店に入ってくる。
「こんにちは。今日もいつものかい?」
おばあちゃんは顔をしわくちゃにして子どもたちに問うた。ここの雑貨屋は駄菓子も売っているので、駄菓子目的の子どもも多い。
「うん! それと、ラムネもちょうだい!」
「今日は暑いものねぇ。蒼ちゃん、ラムネ取って来てくれる?」
おばあちゃんが品出しをしている俺に目線を送る。俺は頷いてレジ台の奥にある冷蔵庫からラムネを五本取り出した。ひんやりとしたラムネのビンで熱い手のひらが冷える。
「蒼汰おにーちゃんありがとー!」
お金と交換でラムネを渡すと、子どもたちは眩しいほどの笑顔で店を駆け出して行った。
「子どもは元気ねぇ」
おばあちゃんは終始にこにこしている。俺は顎に垂れた汗を手の甲で拭い、静かに品出しに戻った。
遠くの方から海のさざめきと蝉の声が聞こえる。店の中は木製の時計の秒針の音、そしてゆっくりと動く扇風機の音だけ満たされていた。
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