壊れたオルゴール

kou

壊れたオルゴール

 深夜のことだった。

 中学校の修学旅行中。

 桜木美月がふと目を覚ましてしまったのは、まだ夜も明けていない時間だった。

 慣れない環境下なので眠りが浅かったのかと思ったが、そうではない。目覚めの原因は音だった。

「え?」

 部屋の中でオルゴールが鳴っているのだ。

 どうして?

 そう思いながら音の発生源を探すと、部屋にあるオルゴールだった。

 この部屋で泊まる時に触れると、オルゴールは蓋を開けないと鳴らないハズなのに、なぜか鳴っていた。

 美月は壊れたのかと思いながらも、オルゴールを止めようと手を伸ばす。

 だが、指先が触れようとしたその時、不意に音が止まった。

 美月は、胸騒ぎを覚える。

 何か良くないことが起こる気がしたからだ。

 そして――予感はすぐに的中する。

 廊下に出ると、明かり一つない真っ暗な空間が広がっていた。

 暗闇の向こうからは、何か物音が聞こえてくる。

 まるで、何者かが歩き回っているような……そんな音だ。

 暗い。

 しかし、そんな中でもはっきりと見える姿があった。

 黒い影のような人型のナニカだ。

 そいつは、廊下を徘徊していた。

 まるで何かを探しているかのように。

 美月は自分の見ているものが何なのか分からなかった。

 ただ、漠然と理解したのは、アレは危険だということだけだ。

 本能的に分かる。

 アレは絶対に関わってはいけないものだと。

 だが、黒い影の方がそれを許さない。

 目が合った瞬間、そいつはこちらに向かってきた。

 美月は腰を少し落とし、調息を行い気を練り上げる。

 経絡を活性化させ身体強化を行う。

 美月は気功法を体得していた。

 それから、襲い掛かってくる黒い影に対して迎撃の構えを取った。

 襲い掛かってきたソレに対して掌を叩きつけた。

 すると、黒い影は吹き飛び、壁へと激突し消滅する。

 その一撃で倒せたことに安堵しながらも、今のは何だと美月は不安が拭えなかった。


 【廃墟のオルゴール】

 オーストラリア、メルボルンの郊外に廃墟となった精神病院がある。

 そこでは、オルゴールを手にした寝間着姿の少女の幽霊が彷徨っているのが目撃される。

 ぞっとするのは、少女がオルゴールを鳴らす時間が決まっており、いつも午後11時55分だという。


 美月は後に知ったことだが、そのホテルは過去に火事が起こり、死者が出たことで一時的に閉鎖されていたらしい。

 それが今回の旅行で宿泊することになった場所だった。

 美月は、祈らずには居られなかった。

 どうか、このまま何も起こらないようにと……。

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