ちいさなひかり。
葉月楓羽
ちいさなひかり。
コンコン
扉を叩く音がする。
「どうぞ。」
そう答えながら、そっと悲しみを机の下へ隠す。
「……泣いてたのか。」
部屋に入ってきてそうそう、彼は言った。
「そんなこと、ない。」
机の下でぎゅっと手を握る。悲しみが、どうかこの中から逃げ出さないように。
「そうか、ごめん。」
ごめん…。その言葉、もう聞き飽きた。喉元まで出かけたその言葉を慌ててぐっと飲み込む。
そして、その言葉の代わりにふわりと悲しく微笑む。
すると彼は悟ったようにうつむいた。
そして、思い出したかのようにカバンの中をあさりはじめ、小さな小さな金木犀の香水をことりと机の上に置いた。
消耗品は嫌いって言ったじゃない。
口の中で小さくつぶやく。
彼はうつむきがちに私をちらりと見ると、そのまま扉へと向かって行ってしまった。
もう二度と会うことはないだろう。
初めからすべてわかっていた。こうなることなんて、すべて。
大丈夫、これでよかったのよ……。
彼が完全に部屋から出て行ったことを見届けてから、ぎゅっと握っていた手の力をふっと抜く。
小さな窓からの光に照らされて、彼の置いて行った金木犀の香水がちらちらと揺れて静かに輝いていた。
ちいさなひかり。 葉月楓羽 @temisu00
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