第六章 交錯する思惑

 十二月二十四日月曜日。依頼期限の年末まであと一週間を切った。榊原と瑞穂は事務所で落ち合うと、今回はマンションではなく夕凪哀のいるイベント会場へと向かった。

「事務所の話だと、今日は『ジャンヌ・ピュア』のイベントでお台場のイベントホールにいるらしい。バイオレット役の野鹿翠も一緒だそうだ」

「じゃあ、二人一緒に話が聞けますね」

「イベントは正午から。事務所に話はつけてあるから、それまでに話が聞けそうだ」

 お台場のイベントホールに行くと、その入口はすでにたくさんの人であふれかえっていた。開場数時間前だというのにもう並んでいる様子である。ただ、その大半はなぜか大人の男性中心で、さすがの榊原もやや引き気味であった。

「ええっと、確かあのアニメは小さな女の子向けだったと記憶しているんだが」

「こういう『大きなお友達』も多いみたいですよ」

「理解できない……」

 とはいえ、榊原はこんな行列に並ぶつもりなど毛頭ない。そのまま裏口の方へ回り、警備員に用件を伝える。警備員は内部に連絡を取った後、二人を中に案内した。

「なんか、少しズルをしたみたいですね」

「イベントまでには帰るから問題ないし、私はそもそもこの手のイベントには興味がない」

 そんな話をしているうちに、榊原たちは哀のいる楽屋の前に到着した。軽くノックすると、中から返事がする。

「失礼します」

 中に入ると、ちょうど哀は何かイベントの準備をしているところだった。

「探偵さん、すみません、こんなところで……」

「いえ、私も無理を言って来たわけですから」

 榊原は一応そう言って頭を下げた。

「それで、今日は何か?」

「実は、改めてお聞きしたい事がありまして。問題の十二月四日から五日にかけての事なんですが、あなたは収録終了後、そのまま家に帰ったと言っていましたね」

 榊原は当たり障りのないところから尋ねる。

「はい、確かにそう言いましたけど……それがどうかしたんですか?」

 一方、哀は本当にそれがどうしたと言わんばかりの口調で聞き返した。その口調には嘘をついている様子は一切感じられない。むしろ、こっちの情報が間違っているのではないかと思えるような態度だった。瑞穂は不安そうに榊原を見やる。

「せ、先生……」

「大丈夫だ。さすがはプロの声優、役者根性だけは一人前だな。だが、私もこの程度は想定済みだ」

「土田さんの証言が間違っていたなんて事はないんですか?」

「ありえんね。いけ好かないやつらだが、情報収集に関してはこれ以上信用できるものはないと断言できる。その辺は私もプロとしてあいつらを信用しているつもりだ」

 そうささやくと、榊原は哀に切り込んでいく。

「実はですね、問題の日時にあなたが大学の同窓生と居酒屋で飲んでいたという情報を聞いたんですよ。しかし、だとするとあなたの証言とは合わない事になりますのでね。その情報が正しいのかどうかを確認しに来たと、こういうわけです」

 一方、哀もこの程度では崩れなかった。

「へぇ、そんな情報があったんですか。でも、残念ですけど私はずっと自宅にいましたよ。多分、それは何かの勘違いじゃないんですか?」

「間違い、ですか」

 榊原はそう言いながらもじろりと睨む。榊原も土田の情報だけでここに立っているわけではない。情報を受けてすぐに問題の居酒屋にも確認を取って、あの夜彼女が飲んでいた事実を確認しているのだ。彼女が嘘をついているのは明白なのである。

 にもかかわらずここまで隠すからには、何かがあるのは間違いない。むしろ、否定された事でその確信をより強く持った。

「しかしですね。実際に一緒に飲んだという方々からも話を聞いたんですよ。間違いとは思えないんですけどね。あぁ、ちなみに、問題の居酒屋の店員からも話を聞いています。『飲兵衛』という居酒屋でしたかね」

 はったりである。居酒屋に確認をしたのは事実だが、他のメンバー三人からはついに話を聞けなかったのだ。情報提供者の土田もかなり奮闘し、榊原自身も話を聞きたいとコンタクトをとったのだが、いい返事は聞けなかった。皆が皆、自分たち三人が居酒屋で飲んでいた事こそ認めたものの、飲んでいたのは三人だけで哀や美津子はいなかったと証言しているのである。その際の態度から、どう考えても事前に口裏を合わせているのは明白だった。

 それがわかっているのか、哀にも余裕はあった。

「えー、知りませんよ。日付を間違えているんじゃないですか? 飲み会なら何度かやっていますし」

「あくまで、あなたはあの日自宅にいたと?」

「そう言ってるじゃないですか。証明はできませんけど」

 アリバイがない事を逆手にとって、逆にそんな事を言ってくる始末である。榊原はしばらく黙って哀を見つめていたが、やがて小さくため息をついた。

「この際です、単刀直入にお尋ねしますが、何を隠しているんですか?」

「別に、隠すなんて……」

「正直、私には理解しがたい。事は単に居酒屋で飲んでいたかどうかというだけです。別にばれたところでどうにかなる話でもありません。それを隠す事自体が普通ではないんですよ。逆に隠しているからこそ何かあると勘繰りたくもなる」

「言いがかりです」

「私はそうは思っていないんですけどね」

「とにかく、私はあの日飲んでなんかいません。それは他の三人に確認してもらえればわかるはずです。すみませんけど、話がそれだけなら帰ってもらえませんか? この後イベントが忙しいんです」

 そう言うと、哀はやんわりと榊原を追い出しにかかろうとした。が、そこで榊原は不敵に微笑む。

「ボロが出ましたね。やはり、いくら声優といえども嘘をつき慣れているというわけではないらしい。なら、こちらの方がまだ有利だ」

「え?」

「あなたはあの日飲んでいないと言っている。それにしては、飲んでいた友人の数がどうして『三人』だと知っているんですか? 私は『一緒に飲んだ方々』としか言っていませんよ」

「あ……」

 どうやら、哀も口を滑らせたことに気が付いたようだ。というより、そのたった一言を瞬時に判別して即座に切り返す榊原の力量が上回ったというべきだろうか。

「そ、それは普段からそのメンバーで飲んでいる事が多かったから、多分そうなんじゃないかなぁって……」

「それは違うでしょう。あなたが普段から付き合っている同窓生の人数は四人のはず。これは私も調べましたから間違いありませんし、それ自体は他の三人も認めています。普段からあなたを含めたこの五人でよく飲んでいるようですね。しかし、あなたはなぜかメンバーの数を三人と言った。なぜあなたは四人ではなく三人と言ったんですか?」

「え、あ……」

 だんだん哀の余裕も崩れてくる。

「確かにあの日、最後まで飲んでいたのは三人のようです。なぜなら、その途中であなたともう一人……石渡美津子さんが途中退席しているからです。石渡美津子さん、もちろんご存知ですよね。大学の同窓生でいつもよく一緒に飲んでいるらしいじゃないですか。まさか、この期に及んで彼女まで知らないとは言わせませんよ」

「……探偵さん、どこまで調べているんですか?」

 恐る恐る聞く哀に対し、榊原は肩をすくめた。

「私は、必要とあればなんだって調べます。そのための労力は惜しみません。私もこれが仕事ですのでね。当然、石渡さんが失踪している事も知っています」

「っ!」

 その言葉を発した瞬間、哀の顔が歪んだのを榊原ははっきり見て取った。

「どうやら、あなたもこの事は知っていたようですね」

「でも、それとこれとは……」

「関係ない、と言いたいんですか? あいにく、私はそれを鵜呑みにするほどお人好しじゃない」

 榊原の言葉は容赦がなかった。哀はこわばった表情で榊原を睨んでいる。

「私が聞きたいのは二つです。なぜ、あなたはあの夜の事を隠そうとしたのか? そして、店を出た後、あなたと石渡美津子はどこで何をしていたのか?」

「探偵さんが調べているのは北町さんの事ですよね。そんな事が何か関係あるんですか?」

「北町奈々子さんと関係のあるあなたがアリバイを偽証しており、しかもそのアリバイ証人たる石渡美津子さんは失踪中。怪しいと思うには充分すぎるでしょう」

「それは……」

「とりあえず、あの日居酒屋にいた事は認めてもらえますかね? もっとも、認めてもらわなくてもかまいません。居酒屋の店主の証言もありますし、残りのメンバー三人だっていつまでも誤魔化しきれるとは思えない。隠せば隠すだけあなたが不利になるだけです。さぁ、どうしますか?」

 哀はしばらく唇を噛みしめていたが、その追求に、ついに耐えられなくなったようだった。

「……わかりました。確かに、あの日私は五人で『飲兵衛』に行っています。探偵さんの言うように、居酒屋の店主さんや他の三人が証人です」

「あなたと石渡さんが居酒屋を出た時刻は?」

「……確か、午前二時半頃だったと思います」

 哀は少しふてくされた風に答える。と、瑞穂が榊原に小声で話しかける。

「北町さんの死亡推定時刻は二時から三時。『飲兵衛』から問題のマンションまではどれくらいかかるんですか?」

「この時間では電車は動いていない。『飲兵衛』は同じ世田谷区内だから、徒歩で二十分~三十分、タクシーなら十分と言ったところだ。もっとも、石渡美津子失踪に関連して土田も彼女の行動を追っているが、彼女を乗せたというタクシーは見つかっていない」

「じゃあ、徒歩ですか。だとしてもぎりぎり死亡推定時刻の範囲内ですね」

「だが、石渡美津子が実際にマンションに帰宅したのは四時半。少し時間がかかりすぎている。したがって、その間に彼女たちが何をしていたのかが問題になる」

 そう言うと、榊原は改めて哀を見やった。

「さっきも言ったように、私が聞きたいのは二つの事だけです。あなたがなぜアリバイを偽証したのかと、あなた方二人が店を出た後に何をしていたのか。答えてもらえますか?」

「し、知りません」

 榊原の鋭い問いに対し、哀が発した言葉はそれだった。

「知らない、というのは?」

「店を出た後、美津子ちゃんとは駅前ですぐに別れたんです。だから、その後の事はわからないんです」

「別れた後、あなたはどうしたんですか?」

「家に帰って寝ていました。これは本当です。飲み会を中座したのだって、次の日の収録に差支えがないようにと思ったからなんです」

「あなたの住んでいるアパートは文京区だ。とてもじゃないが世田谷区内にある『飲兵衛』から歩いて帰れる距離じゃない。電車も走っていないのに、どうやって帰ったんですか?」

「タクシーを使ったんです」

「そのタクシーはどこの会社のタクシーでしたか?」

「そんな事、覚えていません。酔っていたものですから」

 哀は必死に訴える。が、何もなかったのなら隠す必要もない。榊原は疑いを解いてはいなかった。

「なぜ、あなたはそれを隠そうとしたんですか? わざわざ一緒に飲んでいた三人に口止めまでして」

「それは……疑われると思ったから」

「疑われる、と言うのは北町さんの死に関してですか?」

「ち、違うの! あの後すぐに美津子ちゃんが姿を消したって聞いたから、その前に会っていた私が疑われるんじゃないかって思って……」

 その答えに、榊原は眉をひそめた。

「妙な話ですね。彼女が失踪したのは十二月十日。十二月五日の時点でそんな風に思うのは変じゃないですか?」

「え、あ、その……」

 もはや哀の口調はしどろもどろになりつつあった。そこに榊原は畳みかける。

「つまり、あなたは石渡さんが失踪したのがあの日の帰宅後直後だと考えているわけですか?」

「違うの! 私は何も知らない!」

 哀は頭を抱えながらイヤイヤと言わんばかりに首を振って否定した。

 現状、榊原は以前瑞穂に話したように、石渡美津子が失踪したとされる十日にはすでにマンションから脱出していて、五日に帰宅したという情報自体が彼女の仕組んだ欺瞞ではないかと考えている。つまり、あの日帰宅したのはよく似た偽者で本人はマンションに帰宅しておらず、十日の騒動は彼女が外部から電話越しにマスコミを操って最初から誰もいないマンションの自室を漁らせた結果ではないかというものだ。もっともこの場合、入っていった偽者はどこへ消えたのかという新たな問題が浮上するが、それは追々解明していく腹積もりだったのである。

 しかし、こんな考えは所詮榊原の想像にすぎず、榊原自身も瑞穂以外に話した事はない。にもかかわらず、哀はその可能性を示唆するような発言を自らしたのである。榊原にとって、これは見逃せない話だった。だが、現状では哀を追い詰めるだけの材料はない。ここは一度仕切り直す必要があった。

「わかりました。それでは別の質問をしましょう」

「まだ、何かあるんですか?」

 涙目になりながら哀が恐る恐る尋ねる。

「今度は北町さんに関する事です。北町さんがなくなる数日前の十二月二日、あなた方声優陣はあのマンションの北町さんの部屋に招待されていますね? これは海端さんに聞いた話ですが」

「は、はい。それが何か?」

 何が出てくるかわからず、哀も警戒気味である。

「海端さんの話だと、あなたはこの時電話がかかってきて、一度部屋から出ていますね。仕事の電話だったそうですが」

「そうです。ややこしい話だったので廊下に出て話しました。でも、どうしてそんな事を?」

「調べてみたんですがね。あなたの仕事の関係各所で、あの夜あなたに電話をかけたところなど存在しませんでしたよ」

 哀の顔が再び青ざめる。

「し、調べたんですか?」

「言ったはずです。気になる事があったらすべて調べる、と。それで、本当は何の電話だったんですか?」

「それが北町さんの件に関係あるんですか?」

 哀の精一杯の虚勢に、榊原は肩をすくめる。

「まさか、単なる興味からくる雑談です。でも、もし何もないなら、別に拒否する話でもありませんよね。話さないとなると、逆に勘ぐりたくもなります」

 口ではそう言いながらも、榊原の目は絶対に逃さないと言わんばかりに鋭い。ようやく、哀は自分が対峙している相手がいかに危険なのかを悟ったようだった。が、そんな事を気にする様子もなく、榊原は追及を続ける。

「海端さんの話だと、あなたが部屋を出たのは少しの間だけで、すぐに戻って来たようですね。どこに行ったんですか?」

「だから、廊下に出て少し電話をしていただけです」

 だが、この反論に対して榊原は首を振った。

「いいえ。その時廊下には誰もいなかったはずです」

「何でそんな事が……」

「実は、同じく部屋に招待されていた中木さんが、あなたが出ていった直後にあの部屋を辞去しているんです。この時、彼は当然廊下に出ていますが、あなたはどこにもいなかったと証言しています。今朝になって彼本人に電話をして確認しました。彼はあなたがもう帰ってしまったのだと思って気にも留めていなかったようですけどね」

 思わぬ伏兵に、哀は呆然とする。一方の瑞穂も、いつの間にそんな事を聞いたのかと少し驚いていた。

「あのマンションは警備員の許可がなければ他の階に行く事もできませんし、そもそもエレベーターホールには防犯カメラがあって警備員が常時監視しています。だとするなら、あなたはどこに行っていたのでしょう。マンションから外に出たとするなら戻ってきたときに警備員から北町さんに連絡が入るはず。ですからマンションの外ではありえないし、他の階でもない。しかし、同じ五階にいたとしたらますますどこにいたのかわからなくなる。中木さんの証言で廊下にあなたがいなかった事は証明済みだからです。状況は、マンションから消えた石渡さんと同じなんですよ」

「……」

「もう一度聞きます。この時、あなたはどこで何をしていたんですか?」

 哀は唇を噛みしめる。意地でも言わないと言わんばかりの態度である。榊原はしばらくそんな様子の哀をジッと見つめていたが、やがてなぜかため息をついた。

「また、だんまりですか。とはいえ、ある程度の推測はもうできているんですけどね」

「え……」

「単純に考えればわかります。あなたは廊下にもいなかったし、マンションの外に出たわけでもない。にもかかわらず出て行ってすぐに戻ってこられたとなれば、行きつく先は一つしかありません。同じ五階の部屋のどこか、です」

 その瞬間、哀が息を飲んだのを瑞穂も見て取っていた。そして、榊原がそれを見逃すはずもない。

「どうやら大当たりのようですね。だとするなら、あなたがいたのはどの部屋なのでしょうか。私の予想では……」

「やめて!」

 突然、哀が叫んだ。その場を不気味な沈黙が支配する。榊原は黙って哀の反応をうかがっていた。

「……帰ってください。これ以上は何も話す事はありません」

 やがて、哀はかすれた声でそう告げた。榊原も現段階でこれ以上は無理と判断したのか、無言で立ち上がった。

「……わかりました。今日のところはこれで帰ります。ですが、あなたが何を隠そうと、私はプロの探偵として必ずそれを明らかにしてみせます。近いうちに、またお会いしましょう」

 そのまま榊原は一礼して控室を出て行き、瑞穂も慌てて後を追った。後には、憔悴しきった表情の哀だけが残されていた。


「さすが先生ですね。正直、あそこまで追い詰められるとは思っていませんでした」

「思った以上に収穫があったな」

「はい。最後の方なんか反応があからさまでしたから」

 会場の廊下を歩きながら二人は今の哀に対する追及を思い返していた。

「私が言うのもなんですけど、あの五階で哀さんが入った可能性がある部屋なんか限られていると思います」

「だろうな。当の五階の住人達の事は私も調べたが、夕凪哀とつながりのあるような人間は存在しなかった。ただ一人調べられなかった、五一二号室のミシェルを除いて、だが」

 瑞穂は沈黙する。

「そもそもの話として、北町奈々子の部屋を除く五階の部屋の中で事件に関係している可能性があるのはあの五一二号室だけだ。この帰結は当然のものだろう」

「それでも他の部屋の住人の事を調べた先生はさすがですけど……じゃあ、先生は夕凪さんがミシェルにかかわっていると思っているんですか? 事件三日前のあの日、ミシェルは日本にいなかったはずですけど」

「それはわからない。だが、重要なのは、夕凪哀の友人である石渡美津子の部屋が、ミシェルの部屋の真上である六一二号室であるという点だ。そして、我々は未だにこの両者の部屋は調べられていない。これが何を意味するかわかるかね?」

 この問いに対し、普段から榊原に鍛えられている瑞穂はすぐにピンときたようだった。

「部屋が真下なら、石渡さんはロープか何かを使ってベランダから留守宅である五一二号室に侵入できる。部屋に侵入さえできれば、玄関のドアはカードキーがなくても内側から開く事ができる」

「そういう事だ」

「つまり、先生は自室である六一二号室から五一二号室に侵入した石渡さんが、内側から鍵を開けて夕凪さんを五一二号室に招き入れたと考えているんですか?」

「他の部屋に入れない以上、現状ではこの可能性が一番高い。私の予想では、五一二号室のベランダの窓ガラスは、外から見えない位置で小さく割られているはずだ」

 確かに、今までの話を総合するとその可能性は充分にあり得るものだった。しかし、そうなるとまた別の問題が浮上する。

「でも、何で石渡さんや夕凪さんはそんな事を?」

「そこが問題だ。それを聞き出せればよかったんだが、残念だがあの状況ではな。彼女たちがミシェルの許可を取ってあの部屋を使っていたのか、それとも無断で使っていたのかによってすべては大きく変わる」

「もし、ミシェルの許可があったとすれば?」

 あまり愉快でない話だったが瑞穂はあえて尋ねた。それに対し、榊原は淡々と事実を告げる。

「考えたくはないが……石渡美津子と夕凪哀、この二人が麻薬密売に何らかのかかわりを持っていた事になりかねない」

「それこそ大スキャンダルになりかねない話ですね。特に夕凪さんは大人気の魔女っ娘アニメの主役、いわば正義の味方ですよ。そんな彼女が麻薬になんかかかわっていたとなれば……」

「正義の味方どころか、冗談でもなんでもなく本物の堕天使という事になるな」

 榊原に遠慮というものはないようだった。

「……先生。ミシェルと同じ階に住んでいた北町さんが麻薬に関係していた可能性はあるでしょうか?」

「それはないと思う。彼女の遺体は行政解剖されているから、体内から薬物が出れば必ずわかるはずだし、注射針なんかの跡を見逃すとも思えない。また、いくら警察でも室内から麻薬の類が出たらそれなりの対応をしているはずだ。それがなかったという事は、彼女の周囲からは麻薬は出ていないという事になる。麻薬に関して彼女は無関係だろう」

「じゃあ、次の質問です。仮にさっきの推測が正しくて、哀さんが麻薬に関与していたとして、もし北町さんがそれに気づいたらどうしたでしょうか?」

「……なるほど、君は夕凪哀と石渡美津子に殺人の動機があると言いたいのかね」

 瑞穂は小さく頷いた。

「確かに、もしさっきの推測が正しいとすれば、この一件は二人にとって致命傷になりかねない。口封じにかかっても不思議ではない、か」

「何とか証明できませんかね?」

「……現状では無理だな。証拠がない」

 榊原は簡単にそう言った。

「そうですか……」

「まぁ、その件はとりあえず頭の隅に置いておくだけにしよう。今は、残った一人の話を聞く事に集中しようか」

「野鹿翠さん、ですね」

 声優陣の中で最後に残った一人である。二人は、その控室に向かっていたのだ。

「えっと、そこですね」

 やがて、先程の場所から少し離れたところにある翠の控室にたどり着く。二人はドアの前に立ち、軽くノックをした。中から返事がする。

「はい、どうぞ」

 榊原と瑞穂はドアを開けて中に入った。中は先程訪れた哀の控室とそう変化はないようだったが、もちろん中にいるのは「ジャンヌ・バイオレット」役の声優・野鹿翠であった。こちらはすでにある程度の準備を終えているらしく、どこかくつろいでいるような雰囲気が漂っている。

「あ、探偵さんですね。夕凪さんには会えましたか?」

 翠はそう落ち着いた様子で話しかけてきた。

「えぇ、まぁ。色々とお話を聞けました。それで、この際ですのであなたからもお話を聞きたく思いまして」

「構いませんよ。どうぞ」

 翠は二人に椅子を勧める。二人は言われるがままに座ると、早速榊原が質問を開始した。彼女に聞きたい事はある程度限られている。

「それでは時間もないので質問をさせて頂きますが、北町さんが亡くなる三日前の十二月二日、『ジャンヌ・ピュア』の声優陣が彼女の自室に招待されています。確認の意味を込めて聞きますが、あなたもこの招待に誘われていますね?」

「はい。みんなと話せて楽しい夜だったと記憶しています」

 翠は丁寧な口調で答えた。もっとも、これに関しては別に否定する意味もないのであろう。榊原は続けて質問をぶつけた。

「その集まりに関する質問です。その集まりに招待されたのは誰ですか? もちろん、あなたと北町さんを除けば、という事ですが」

 もちろんこの話はすでに他の人間から聞いているが、確認の意味を込めての問いである。翠は少し考えると、やがてはっきりと言った。

「確か私たち以外だと、夕凪さん、海端さん、才原さん、福島さん、中木さんがいたと思います。中木さんと海端さんは途中で帰りましたけど、残りは最後まで残っていました」

「部屋の中での皆さんの行動についてはどうでしょうか? 何か変わった事はありましたか?」

「どうでしょうか……。基本はリビングで宴会みたいなことをしていたんですけど、みんなお酒で酔っていた上に部屋を出たり入ったりしていましたし。あ、でも福島さんはずっとリビングの横にあるベランダにいたと思います。彼女お酒に弱くて、風で涼みたいって結局帰るまでずっとベランダで夜風に当たっていました。リビングに入ってきたらさすがに気付いたと思います」

 今までにない新情報である。が、榊原は顔に出す事なく慎重に尋ねた。

「確かですか?」

「間違いありません。他の人に聞いてもらっても構いません」

 ここまで言うからには事実なのだろう。榊原はさらに突っ込んでいく。

「ベランダで何をしていたのかは?」

「そこまでは……。ベランダにずっといたのは確かですけど、私たちもずっと見ていたわけじゃありませんし」

 つまり、恵梨香にはベランダで何かをする余裕があった事になる。ベランダは彼女の死体が吊るされていた場所だけに気になる話ではある。もっとも、そこで何か細工されていたとしても、事件当日まで被害者がそれに気づかないなどという事は考えにくいのだが。

「もう一つ。宴会の途中……中木さんが帰宅する少し前に夕凪さんが電話で外に出たはずです。その事は?」

「さぁ……言った通り、私も酔っていましたし、ベランダで涼んでいた福島さん以外は部屋を好き勝手に出入りしていましたから、正直他の誰がどんな事をしていたかなんて覚えていません。私も途中で何度かトイレに行きましたし」

「そうですか……」

 確かにそんなものであろう。むしろここで他の人間の行動を詳細に話せるほうがおかしいのだ。

「えーっと、あの、あの集まりに何かあったんですか?」

 翠が不安そうに聞く。が、榊原はあえて無視してさらに質問を重ねた。

「何か北町さんに関して知っている事はありますか?」

「知っている事ですか? さぁ、私は事務所も違いますし……同じ事務所の海端さんや才原さんに聞いた方がいいと思いますけど」

 翠は曖昧に首を傾げる。口調こそのんびりしているが、思った以上にガードが固い。脇で控える瑞穂は思わず周囲を見渡したが、特に何か注意を引くようなものもなかった。

「北町さんと共演した事は?」

「一度だけ『戦国女子高生』というアニメで共演した事はありますけど、それ以外は別に。調べてもらっても構いません」

「そうしましょう」

 榊原そう言いながらジッと相手を観察するように見据える。

「あの、何か?」

「いえ……最後に、夕凪哀さんについて知っている事はありますか?」

「え、夕凪さんですか? 彼女とは共演も今回が初めてですし……彼女に何か?」

「知らなければそれで構いません。貴重なお時間、ありがとうございます。それではこれで失礼します」

 そう言うと、榊原は来た時同様に唐突に立ち上がって一礼した。どうやら、彼女から得られる情報はこの程度と判断した様子である。瑞穂も慌ててそれに続く。

「あ、あの」

 と、部屋から出ようとした二人に、翠が後ろから声をかけた。榊原は足を止める。

「お二人は北町さんの死の真相を調べているんですよね?」

「そのつもりですが、何か?」

「……私、北町さんとは二回目の共演でしたけど、それでも彼女とは仲良くさせて頂いていました。だから、彼女の死が自殺じゃなかったとするなら……私はその相手を許す事ができません。同じ声優として、それに友人としてもです」

 そう言って、翠は頭を下げる。

「どうか、北町さんの死の真相を明らかにしてあげてください。よろしくお願いします」

「……もちろん、そのつもりです。ただし、私はあなた方みたいな正義の味方じゃない。私の仕事はあくまで真相を明らかにする事。ゆえに、捜査の結果が必ずしもあなた方にとって都合のいい方に傾くとは限りませんよ」

「え?」

「失礼します」

 榊原はそんな意味深な事を言うと、翠の言葉に答える事もなくそのまま控室を後にしたのだった。


 その電話がかかってきたのは、二人がイベント会場を出たところだった。

「尾崎だ」

 携帯の画面を見た瞬間、榊原は短く告げる。緊張する瑞穂に対し、榊原はゆっくりと着信ボタンを押した。

『どうも、榊原氏。早速ですが、昨日の件でお話がありましてな』

「早いな。さすがとだけは言っておこう」

『お褒めの言葉と受け取っておきましょう。それに、私の方こそ「さすが」と言いたいですな。榊原氏、あなたの直観は中々のものです』

「その様子だと、やはり何かあったか」

『詳しくは直接会ってお話を』

「昨日の喫茶店か? 今はお台場なんだが」

『それならわざわざ移動してもらうのもあれですので、私からそちらへ向かいますよ。東京ビッグサイト近くにある「レナ」という喫茶店で一時間後に落ち合うという事では?』

「私は構わん」

『それでは、一時間後に』

 電話が切れる。

「よくすぐに喫茶店の名前が出てきますね。記者の人って、そんなにあちこちの喫茶店を知っているものなんですか?」

「取材に使えるからだろうが、ここまで知っている奴は尾崎くらいなものだ。いつだったか、東京にある喫茶店なら任せろと言った事もある」

「それで、その『レナ』っていう喫茶店は?」

「私も知らん。ただ、あいつが指定するくらいだから行けばわかるだろう」

 幸い、東京ビッグサイトはすぐ近くである。何でも年に何回か、ここでは「コミケ」なるイベントが行われているそうだが、そういう事に一切興味のない榊原にとっては何だか変な形をした建物という印象でしかない。

「ちなみに『東京ビッグサイト』というのはこの建物を運営している会社の名前で、正式名称は『東京国際展示場』というらしい」

「本当にどうでもいい豆知識ですね」

「さて、どこにあるのか……」

 しばらく歩くと、東京ビッグサイトから少し離れた場所にあるビルの一階に問題の喫茶店があるのを見つけた。二人は中に入り、コーヒーを注文する。どうやら今回は先に到着できたようだった。

「さすがに私たちの方が早かったみたいですね」

「向こうは一時間かかると言っていたからな。どこにいたのかは知らないが……」

 それからきっかり一時間後、コーヒーで粘るのもいい加減に限界になりつつあった頃になって尾崎は姿を見せた。

「来たか」

「待たせましたな。相変わらずお元気そうで」

「お世辞は結構。こっちもいい加減にコーヒーに飽きてきたところだ。さっさと本題に入ってくれ」

「構いません。ですが、引き換えに榊原氏からも情報を頂きますよ」

「わかる限りなら、な」

 二人は一瞬視線を交錯させたが、すぐに尾崎が言葉を続けた。

「いいでしょう。では、私から。この台本に関してでしたな」

 尾崎はそう言って鞄から例の台本を取り出す。

「これが演じられたのは今から三年前。北町奈々子が高校三年生だった頃の話です。そして、この劇が演じられた直後に北町氏は卒業を数ヶ月後に控えて突如桜森学園から転校。その転校先の桐山高校に通いながら声優学校で声優技術を学び、元々演技力があった事もあって卒業後すぐに声優デビューしています。ま、この辺は榊原氏も調べているのでは?」

「御託はいい。肝心な事を言え」

「失礼。それで、その三年前の話なんですが、私が独自に調べたところ、どうやらこの公演が終了した直後に、演劇部の人間が一人不審死をしているようなのですよ」

 そう言いながら、尾崎は黙って台本の役割一覧のある部分を指さした。

『監督……羽牟レッド』

 尾崎はにやりと笑う。

「おそらく、と言うより間違いなくシェークスピアの『ハムレット』からとった名前でしょうな。本名は羽川赤広。当時、北町氏と同じく桜森学園三年生で演劇部の副部長。そして、北町氏の恋人だった可能性がある男子生徒です」

「不審死、というのは?」

 榊原は慎重に尋ねた。

「そのまんまの意味ですよ。最後の公演が終了したまさにその日、羽川氏が部室で倒れて死んでいるのが見つかったんです。死因はよくわかっていませんが、最終的には心疾患による病死という事で処理されたようです。元々何か持病があったようですな」

「あの部室で、か」

 榊原は昨日入ったばかりのあの散らかった部屋を思い出す。が、尾崎は首を振った。

「いえいえ、今年に入ってあの校舎は全面的に改修工事が行われていましてな。部室棟も立て直されていますので、当時の部屋とは別のはずです」

「って事は、まだ新しい部屋に移ってから一年も経っていないのにあの散らかり具合だったわけですか」

 瑞穂が呆れ返った声で言った。榊原も桜森学園演劇部員の整理整頓能力が若干心配になったが、今はそれどころではない。

「なぜそんな事件が表沙汰になっていない。いくら病死とはいえ一人の男子高校生が不審死している以上、多少なりとも報道があるべきだろう。私の知る限り、その手の事件が新聞に載った記憶はないが」

「でしょうな。どうも病死判定が出たのをいい事に、学校側が公表を控えた様子です。学校側としても、イメージダウンを恐れたのでしょう」

 確かに、学校としてはあまり表沙汰にしたくはない話だ。とはいえ、榊原としては気になる事もあった。

「しかし、恋人だったとはいえ事は病死。それで彼女が転校するというのはおかしな話だが」

「簡単です。誰も羽川氏の死を『病死』だとは思っていなかった。それだけですよ」

 それで榊原もピンときたようだった。

「つまり、羽川には病死以外の死因……自殺か、もしくは殺人の疑いもあったという事か?」

「御明察。当時、一部の生徒の間では噂になっていたようですな。実のところ、今回のニュースソースもその時の生徒の一人からなんですよ」

「具体的にはどんな噂だ?」

 榊原もある程度は察しているようだったがあえて尋ねた。対して、尾崎はもったいぶるように発言する。

「榊原氏も何となくは予想できているのでしょう。ここはひとつ予想を聞かせてもらえませんかな?」

「……羽川の死は実は殺人であり、その犯人は当時恋人だった北町奈々子。そんな噂ではないか?」

「御名答。なぜそう思ったので?」

「その後に北町奈々子が転校したとなれば、その手の噂が一番しっくりくるからな」

 榊原の言葉に、尾崎は面白そうに頷いた。

「概ねその通りですよ。実はこの直前、羽川氏と北町氏のカップルの仲が悪くなっているという話がまことしやかに話されていましてな。元々演劇部所属の美男美女カップルという事で校内では有名だったようです。そんな中で羽川氏が死んだので、必然的にそんな噂が流れたようですな」

「しかし、噂だけでは……」

「実のところ、この一件に殺人の疑いが全くなかったとは言えないのですよ。それを示すかのような噂も同時期に流れていました」

 尾崎は意味ありげに言う。

「どういう事だ?」

「一つ目の噂として流れていたのが、現場となった演劇部の部室の床にそれまでなかったようなシミができているというものです。噂である上に改築が行われてしまったので今となっては確かめようがありませんが」

「シミというのは、血か何かか?」

「いえ、さすがにそんなにあからさまだったら、警察の介入を防ぐ事はできないでしょう。噂によれば、それは缶コーヒーをこぼしたシミではないかという事です。実際、羽川氏はコーヒーが好きで、よく飲んでいたという話です」

 榊原は何か思うところがあったのか、そのまま先を促した。

「二つ目の噂。それは事件の起こったのと同時期、化学実験室に保管されていた劇薬の一部が盗まれていたというものです。もちろん管理する化学教師は否定していましたが、これとさっきのシミの話を考えると……」

「何者かが化学実験室から劇薬を盗み、それを混ぜた缶コーヒーを羽川に飲ませて殺害した、といったところか?」

 榊原の言葉に、尾崎は頷いた。

「もちろん、現場から缶コーヒーなど見つかっていません。ですが、だからこそこの噂は真実味がありました。つまり、誰かが羽川氏を毒殺し、その後病死に見せかけるために缶コーヒーを持ち去ったのではないか。病死なら、近くに缶コーヒーがあるのは不自然ですからな。そして、そんな事ができるのは……」

「羽川と交際していた北町奈々子、という事か」

「校内でこの噂はかなり広がっていたようですな。北町氏もやがて耐え切れなくなり、学校側としてもこれ以上不本意な噂を流されたくないと思ったのか、結果的に北町氏は学校を追われるように転校しています」

「それが転校事件の真実か……」

 これに対し、瑞穂は首をひねった。

「えーっと、それってつまり、北町さんが三年前の高校時代に恋人を殺していたかもしれないって事ですよね。でも、そんな話、ちょっと信じられないんですけど……」

「信じられないかどうかはともかくとして、この病死に殺人の疑いがあるのも事実です。いやぁ、今の麻薬事件がなければそっちを調査したいくらいですよ」

「とはいえ、病死判断された以上は警察も捜査していないだろうし、現場の部室も改装でなくなっている。今からこれを調べるのは少々骨だな」

 榊原は難しい表情でそう評した。が、尾崎はにやりと笑った。

「調べていなくても、変死体である以上解剖はやっているはずですな。桜森学園は練馬区。東京二十三区内で監察医制度の対象地域内です」

「だが、そこでも何も発覚しなかった。発覚していたら警察が動く」

「榊原氏にあえて言うまでもないが、判別のしにくい毒物というものは存在します。いずれにせよ、解剖記録程度は残っているでしょう」

「……あんたの事だ。その記録とやらももう入手済みなんだろう?」

 尾崎はその言葉に無言で肩をすくめると、鞄から再び紙を一枚取り出した。

「奇跡的にまだ残っていましたよ。ただ、少し驚きましたな」

「と言うと?」

「記録そのものはありきたりなものです。現場の病死判断を裏付けするものでしかありません。ただ、その執刀医の名前が、ね」

 そう言って執刀医の欄を指さす。そこにはこんな名前が書かれていた。

『才原泰助』

 榊原は苦々しい表情で顔を上げた。

「才原……か」

「そんなによくある名字ではないでしょう。十中八九、声優の才原和歌美の関係者でしょうな。そしてこの才原医師ですが、出身が桜森大学なんです。桜森大学医学部卒業後に桜森大学附属病院に勤務。その後病院内の派閥争いで附属病院を去って監察医になっていますが……なぜかこの解剖のわずか数週間後に桜森学園附属病院に復帰しています。現在の役職は、桜森大学附属病院外科部長」

「派閥抗争で追い出された割には出世したものだ」

「気になりません?」

 尾崎の言葉に、榊原の表情がさらに険しくなった。

「……事態を大事にしたくない桜森学園側の依頼で、才原が解剖結果を捏造したとでもいうのか?」

「その可能性も捨てきれないという事です。あぁ、そうそう。亡くなった羽川赤広の父親は当時桜森大学附属病院の内科部長だったそうで。この時は病院内の人事権を握っていたとも」

 それともう一つ、と尾崎は真剣な表情で続けた。

「その羽川氏の父親である内科部長ですが、結局羽川氏の死が原因で家庭崩壊を起こしましてね。元から仲の悪かった奥さんは離婚し、本人は今から一年前に心臓発作で急死しています。で、その離婚した奥さんの名字が……海端なんです」

「う、海端って……」

 瑞穂が絶句する。尾崎はせせら笑いながら言葉をつなげた。

「こちらもよくある名字ではありませんからな。調べてみましたが、海端香穂子はその奥さんの連れ子、羽川赤広の義姉ですよ。母親の離婚後に元の名字に戻ったようです」

「何てこった……」

 羽川の恋人で殺人の疑惑をかけられていた北町奈々子。羽川の死因を偽造した疑いのある監察医の関係者である才原和歌美。そして、同じく羽川の死を偽造した疑いのある医者の義理の娘で、なおかつ羽川自身の義姉でもある海端香穂子……。三年前の羽川赤広の死に関連した人間の関係者が一堂に会しているのである。しかも、彼女たちは全員同じ事務所なのだ。

「これは……北町奈々子があの台本を隠そうとしたのもわかる話だ」

「お役に立てましたかね?」

「……この事、島原たちには?」

「当然、知らせましたよ。向こうも勝手に動いているようですな。さて、私からの情報はこれだけです。榊原氏、あなたの話を聞きましょうかな」

 尾崎の言葉に対し、榊原はしばらく黙っていたが、やがて何かを決断したかのように顔を上げた。

「……夕凪哀と石渡美津子、この二名が麻薬売買に関与している疑いがある」

「せ、先生! それ、言って大丈夫なんですか? まだ確証はないはずですよね」

 瑞穂が慌てたように言うが、榊原は動じなかった。

「この際だ、尾崎に調べてもらうのも一興だろう」

「……詳しく聞かせてください。できれば、その根拠も含めて。話はそれからです」

 尾崎は静かにそう言った。その態度は、少し話を聞いただけでスクープと舞い上がってしまう記者などとは違い、明らかに何度も場数を踏んできたプロの記者のそれだった。

「そうだな。北町奈々子の死ぬ三日前、彼女の部屋で他の声優陣を招いた集まりがあった。その時の話だ……」

 榊原は尾崎に対し、問題の夕凪哀の謎の行動を説明した。

「……そういう事です、か」

「この条件で彼女が入る事ができるのは五一二号室のミシェルの部屋だけ。そして、そこに入るには上の階にいる石渡美津子の協力が不可欠だ。さらに言えば、夕凪哀と石渡美津子は同じ大学の同窓生。つながる下地は充分にある」

「問題は、ミシェルの部屋に入ったのは事実としても、そこで何をしていたのか、でしょうな」

「そこまではわからん。が、この二人に関してこの側面からも調べてみる価値はあると思うが、どうだ。夕凪哀も石渡美津子も、今まで麻薬絡みでの調査はなされていないはずだ」

「確かに……」

 尾崎は少し考えると、真剣な表情を崩す事なく言葉を発した。

「野安アリスという女優を知っていますかな?」

 いきなり出てきた名前に榊原は戸惑う。

「私は知らんな。元々芸能方面には疎い方だ。瑞穂ちゃんはどうだ?」

「えーっと、確か最近になっていくつかのドラマに端役で出るようになった女優じゃないですか? 私もよくは知りませんけど……」

「まぁ、その程度の女優でしょう。元々は声優としてデビューしたものの、あまり売れなかったため最近になって女優業に転向した女性です。とはいえ、主役級の役はまだありませんが」

「その女優がどうした?」

「近年芸能界に蔓延している麻薬汚染の中核……つまり供給元にいるのではないかと、警視庁の組対(組織犯罪対策部)が目をつけているんです。こちらの容疑はかなり濃厚で、警視庁は隙あらば逮捕に持ち込むつもりのようです。そこから、他の芸能人の麻薬取締の一斉摘発を狙っているとか。ですが、野安が肝心の麻薬をどこで供給しているのか、そのルートがわからない。野安に暴力団など麻薬が絡みそうな付き合いは存在せず、それがわからないので警察も逮捕に踏み切れないんです。それに、野安アリスの方もこの動きを察知しているらしく、ここしばらくは雲隠れしています。事務所は病気で入院中と言っていますが、ほとぼりが冷めるまでどこかに潜伏するつもりでしょう」

 と、榊原の表情も真剣になった。

「今、元声優と言ったな。ひょっとして……」

「お察しの通り、野安アリスのかつての所属は夕凪哀が所属している事務所です。もっとも、組対はそちらの方まで目をつけていないようですがね。もし、本当に夕凪哀が麻薬に関与していて、しかもそれがミシェルの麻薬組織とつながっているなら……これは確かに、大きなスクープになりそうですな」

 尾崎がにやりと笑った。

「いいでしょう。この件、もう少し突っ込んで調べてみます。中々面白そうなことになってきましたな。石渡美津子については、土田氏にこの件を伝えておきましょう。あちらさんの方が効率的に調べられるでしょうからな」

 そう言って立ち上がろうとして、尾崎は言い添えた。

「それと、例のシャルル・アベール商会に対する全世界一斉捜査。私の独自情報によると、ここ数日のうちに行われるようです。この情報をどう使うかは榊原氏次第ですよ。では」

 そのまま尾崎は風のように店を飛び出していく。後には榊原と瑞穂だけが残された。

「……忙しい人ですね」

「何か情報があったら脇目も振らずに調査に出かける。調べ物の速度に関しては私以上かもしれない」

「何て言うか、先生よりも探偵に向いている人じゃないですか?」

「さぁね。ただ、あいつが言うに『私は行動が速いだけで、榊原氏のような推理力はありません』との事だ。まぁ、しらを切っている可能性はあるが」

 そう言うと、榊原は腰を上げた。

「さて、私たちも行こうか。夕凪哀の事は尾崎に任せていいだろう。私たちは私たちのやれる事をしよう」

「そうですね。それじゃあ、手始めに……」

 その時だった。突然、席を立とうとした二人の前に誰かが腰かけた。二人の動きが止まるが、そんな二人に相手は気にする様子もなく声をかける。

「随分色々とやっているようですね。私にも話を聞かせてもらえますか?」

 その言葉に、榊原はいったん相手をじっと観察していたが、やがてため息をつくとそのまま再び腰を下ろした。

 一方、瑞穂の方は目を白黒させて相手を見つめ、その名を告げた。

「な、何でこんなところにいるんですか! 斎藤警部!」

 相手……警視庁刑事部捜査一課警部の斎藤孝二は、苦笑しながら二人を見据えていた。


 斎藤孝二。正式な役職は警視庁刑事部捜査一課第三係係長。かつて捜査一課に在籍していた榊原の後輩だった男で、現在は警部にまで出世して捜査一課の主力となっている。歳は榊原の二つ下だという話を聞いた事があるが、その貫禄は決して榊原に引けを取っていない。榊原が警視庁を辞めて以降もよく榊原に担当する事件への協力を頼んでくるので、瑞穂にとっても見知った仲だった。

「どうしてここにいる? まさか、アニメイベントを見に来たわけでもないだろうに」

「もちろんです。仕事ですよ」

「捜査一課……殺人担当のお前が仕事というのは、あんまりいいイメージではないが」

 榊原の言葉に、斎藤は深く頷いた。

「残念ですがね。実は、私が今担当している殺人事件に関して、助言を頂きたいんです。今朝がた事務所にも伺ったんですが、近隣の方々からここにいるらしいって話を聞いて、こうしてわざわざ足を運んだというわけですよ」

「生憎、私も今忙しいんだがな。密室だの幽霊話だの失踪事件だの麻薬売買だの過去の不審死だの……正直これ以上はお腹一杯なんだが」

「確かに、改めてそんな風に挙げられると、調べれば調べるほど解くべき謎が増えている感じですよね。最初は密室だけだったのに。全部解決できるんでしょうか」

「恐ろしい事を言うな。できないと困る」

「前途多難ですねぇ」

 瑞穂が隣でため息をつく。榊原はただ苦笑いするだけだった。

「まぁ、忙しいなら別に構いませんが……」

「そういうわけじゃない。しかし、わざわざこんなところまで来たとなると、お前では対処できないような何か特殊な事情でもあるのか?」

 斎藤も警視庁の花形である捜査一課の警部である。ゆえに、一般的な事件であるなら榊原の力を借りずとも解決できるだけの力量と推理力は併せ持っている。その斎藤が榊原に相談する事件というのは、今までの傾向では斎藤の力量をもってしても解決が難しい事件、要するにかなりの難事件が多いのだ。

「まぁ、そういう事になりますかね」

 そう言うと、斎藤は資料を榊原に差し出した。

「昨日、お台場海浜公園を歩いていたカップルが浜辺に流れ着いているトランクを発見しましてね。不審に思って警察に通報したところ、トランクの中から身元不明の遺体が発見されたんです。一応近隣の所轄署に捜査本部が立てられましたが、あと三ヶ月くらいでこの辺の警察署が東京湾岸署に合併されるので、できればそれまでに解決したいと上は思っているみたいですね」

「湾岸署って……何かの刑事ドラマに出てくる架空の警察署の名前じゃないんですか?」

 瑞穂の素朴な疑問に、榊原はため息をついた。

「そのドラマの影響かどうかは知らないが、お台場に新しい警察署を造るにあたって、本当にその警察署の名前が『東京湾岸署』になってしまったんだ。だから、正式な警察署の名前だ。確か、来年の三月末に周辺の警察署を一つにまとめる形で正式に開署すると聞いている」

「はぁ、ドラマの設定がそのまま実現しちゃったってわけですか」

「もっとも、警視庁はドラマとの関係は否定しているがね」

 榊原はそう言うと、話を元に戻した。

「要するに、捜査本部の移動だのなんだので面倒だからそれまでに解決しろって事か」

「まぁ、平たく言えば」

「随分な話だな。それで、この事件のどこに私のかかわる余地があるんだ?」

「身元が判然としないんです。何しろ、死後一ヶ月前後は経過しているほとんど白骨化した遺体でしたから」

「げ……」

 瑞穂は思わずそんな呻き声をあげていた。一方、榊原も何となく嫌そうな表情をする。

「……少なくとも、喫茶店でする話題じゃないな」

「まぁ、そんなわけでして、身元も何もわかったものじゃないんです。死因が絞殺であるという事と、女性であるという事まではわかったんですが、その後がどうもね……。身元がわからないと、犯人逮捕も何もありませんから」

「さすがにその状況から身元を特定しろと言うのは私にも無理だぞ。都内だけでも女性の失踪者が年間何人いると思っているんだ」

 眉をひそめる榊原に対し、斎藤は首を振る。

「そこまでの無茶は言いませんよ。ただ、何かヒントになるような事を聞けないかと」

「……その遺体、何か所持品はなかったのか?」

 榊原の問いに対し、斎藤は首を振った。

「まったく。衣服も剥ぎ取られていて、全裸の状態でした。手の辺りに被害者のものらしい髪の毛が握られていたんですが、DNA鑑定の記録にも該当者はいませんでした。ですので、どうしたものかと」

「いや、そこから話を逆に考えれば、ある程度なら目星が付くかもしれないぞ」

 榊原が意味ありげに言った。訝しげに首をひねる斎藤に対し、榊原は解説する。

「殺人犯っていうのは基本的には無駄な事はしないものだ。となると、犯人が衣服を剥ぎ取っただけの事情が存在する事になる。普通に考えて、バラバラにするとか強姦が目的だったというような場合でもない限り、労力を使って衣服を剥ぎ取るなんて真似はしない。その場合、今度は逆にその衣服そのものの処分に困る事になるからな。まして、その遺体を海の底に沈めるとなればなおさらだ。にもかかわらず衣服を剥ぎ取ったって事は、その衣服に何かしらの不都合が存在した事になる」

「なるほど……衣服がない事を逆に突破口にするわけですか」

 斎藤は感心したように頷く。

「つまり、被害者の衣服は犯人にとって都合の悪いものだった。例えば、衣服から職業が特定できてしまうとかだ。今から一ヶ月ほど前に、そんな衣服を着ていてなおかつ失踪している女性となれば、その数はかなり絞られるはずだ。しかも、わざわざ東京湾に沈めているとなれば、犯行が行われたのは東京都の二十三区内と見てもいいだろう。他の場所ならわざわざ東京湾に沈めに来ることはないだろうからな」

「はぁ、よくそれだけすぐに推理が出てきますねぇ」

 瑞穂が呆気にとられたように言う。榊原はそれが聞こえなかったように斎藤に質問を続けた。

「遺体の入っていたスーツケースは?」

「ごく普通の市販品で大量生産されている物です。流通経路をたどるのは難しいですね」

「犯人もそこまで馬鹿じゃないか。まぁ、仕方がない」

 榊原は比較的あっさり引き下がった。

「私から言えるのはその程度だな。情報がその程度では、どうしてもそうなる」

「いえ、充分に参考になりました。早速本部に伝えます」

 斎藤は小さく頭を下げて、その場を立とうとする。が、榊原はそんな斎藤にさらに声をかけた。

「待て。まだ本題に入っていないだろう」

「……と言いますと?」

「とぼけるな。私たちがこの喫茶店にやって来たのはある意味成り行きだ。にもかかわらず近所の人間に話を聞いた程度で私の居場所を突き止められてたまるか。殺人事件についての助言を聞きに来たというのはその通りなんだろうが、それ以前から私には尾行なりが付けられていたんじゃないか?」

「そ、そうなんですか?」

 瑞穂は思わず斎藤の顔を見たが、斎藤は一瞬無表情になると、再び座席に腰を下ろした。

「……ある程度はわかっているんじゃないですか?」

「例の麻薬密売に関する一斉捜査の件か?」

「組対から苦情が来ています。これから一斉捜査をしようとしているのに、榊原さんがあのマンションに毎日のように来ていて、しかも新聞記者と接触しているのはなぜだと。もし、麻薬絡みの何かを調べているというなら、捜査妨害以外の何物でもない、だそうです」

 斎藤は深いため息をついた。

「組対の連中、私の顔を知っていたか」

「御冗談を。かつて捜査一課最強の捜査班のブレーンだった榊原さんの顔を知らない人間なんか警視庁にはいませんよ」

「それで、お前が探りを入れに来たのか」

「まぁ、そういう事です。組対から直々に捜査本部に電話がありましてね。組対の人間が行くより私が行った方が色々聞き出せるだろうと。榊原さんが言われたように、私もさっきの事件に関して聞きたい事があったので引き受けはしましたが……本当に何をやっているんですか? さっきの話だと、色々とたくさん調べているようですが」

「まぁ、お前には話しておいた方がいいかもしれないな」

 榊原はそう言うと、自分が北町奈々子の死に関して調べている事をかいつまんで説明した。

「……そうだったんですか」

「要するにその過程で麻薬売買やら議員秘書の失踪やらが出てきているわけだが、あくまで私の主題は北町奈々子に関する捜査だ。これに関係ないとわかれば麻薬密売の件からは手を引くつもりだが、そうも言っていられないものでな」

「むしろ、ますます複雑になっている感じですもんね」

 瑞穂が疲れたように言う。

「すまなかった。警察が自殺と判断している事件だ。確たる証拠もなしに警察に言うわけにもいかなかった」

「いえ、それは構いませんが……そうなると、今後も榊原さんはこの件を調べる可能性があるわけですよね」

「あぁ、こちらも依頼だ。ここまで来たら引く事は出来ない」

 榊原はそう言ってかつての後輩を睨んだ。一方、斎藤も黙ってそれに答える。互いに引く気はさらさらないようだった。

「いいでしょう。榊原さんならそう言うと思って、組対から一つ提案を預かっています」

「聞こうか」

「組対は、このまま下手に動き回られるよりは、いっその事榊原さんを捜査に巻き込んでしまった方が得策だと考えています。早い話が、情報を提供する代わりに捜査に協力しろ、という事です」

 思わぬ話に、榊原は眉をひそめる。

「それはこちらとしてもありがたい話だが……」

「組対の連中も榊原さんの実力は嫌というほど知っていますし、何より榊原さんが集めた情報を欲しています。ただし、その代りに強制捜査執行までの問題のマンションへの捜査と、新聞社へのリークは控えてほしいというのが組対の出した条件です」

「その強制捜査はいつだ。近日中という話は聞いているが」

「私も門外漢ですから聞かされていません。ただ、そこまでの日数を拘束する事はないかと。どうですか、悪い条件ではないはずです」

 榊原はしばし考えたが、こう言い返す。

「今回の依頼人は年末までの真相解明を期限にしている。さすがにそこまで捜査できないとなると、この件は断る他ない。正確な強制捜査の日付を教えてほしい。私が言えるのはそれだけだ」

「……少し待ってください」

 斎藤はそう言うと、携帯を取り出してどこかに電話をかけた。どうやら、榊原の要求を踏まえた上で、今後の対応を協議しているようである。

 やがて電話が切れ、斎藤が結論を告げる。

「組対は問題ないという事です。詳しい日付は協定成立後に教えるそうですが、三日以内に決着はつくと。それでいかがでしょうか?」

「……なら、私の方に問題はない。その要請を受けよう」

 どうやら、交渉は成立したようだった。だが、榊原はこう言い添えた。

「ただし、私が承諾したのは強制捜査実行までの問題のマンション、及び麻薬売買に関する調査の停止と、同じく麻薬売買に関する新聞へのリークの停止だけだ。逆に言えば、それ以外の事象に関しては協定に反しない限り容赦なく調べるし、新聞社も遠慮なく使う。また、強制捜査実行後に関してはその停止していた件に関しても調査を再開する。そういう事で構わないな?」

「それに関しては致し方ないというのが組対の判断です。それでは、後は組対に引き継ぎます。私は捜査本部に戻らないと」

「苦労かけてすまないな」

「いえ。最後に組対からです。協定が成立した場合は、今日の午後五時に組対の担当者が榊原さんの事務所を訪れるそうです。あとはその担当者と話し合ってください。では」

 斎藤は再度頭を下げると、今度こそ立ち上がって喫茶店から出て行った。

「何だか急展開ですね」

「まぁ、ここまで来たら警察の介入も致し方のない事だ。私自身、いつ話そうかタイミングを伺っていたところだったから、ある意味渡りに船だよ」

「だから組対の尾行を放っておいたんですか? 元刑事の先生なら、尾行ぐらいすぐ気づきますよね」

「それは君の想像に任せる。さて、これでマンションに対する調査はしばらくお預けだな。とはいえ、夕凪哀や石渡美津子に関しては尾崎達が調べてくれるから問題ないだろう。指定された時刻は十七時。それまでは、別の事を調べるのも一興だろう」

「具体的には?」

「羽川赤広の事とか、各々の声優の事とかだ。なぁに、調べる事なんて、やろうと思えばいくらでも出てくるものだよ」

 榊原はそう言うと不敵に笑った。

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